第6話

「はい、弾いたんで教えてください。本当は梨添さん、ピアノ経験ありなんでしょう。」


「…正解。もう小さい頃の話だけどね。何でわかったの?」


「梨添さんの指使いをよく観察していたので。」


「あはは、その言い方なんかやらしー。」



やらしーなんて言葉が出る私の方がずっとやらしー。


不死原君よりもずっと不死原君の指を観察してるのは私の方だよ?今だって自分の目がずっと君の指、追ってるもん。



「俺の下心は土に埋めとくとして、」



彼の鍵盤を触っていた右手が、私の前にやって来た。


左手はずっとマライアを弾いたままで。



「クリスマスイヴ、俺と一緒に過ごしませんか?」



合意の握手を求めている右手、だ。



「……は、」


「あ、左手は保険です。断られたらすぐにまた右手も一緒に演奏できるように。」



さらりとした誘い方。


私が、ピアノを弾く君の指が好きなことを君は理解していて。


演奏しながら誘われるなんて、最高のシチュエーションじゃない?



「…じゃあ土に埋めた下心が、あっという間に芽を出したらどうするの?」


「…俺はそういうキャラで通してないのに。梨添さんの誘導戦には恐れ入ります。」


「あはは」



こうやっていつも不死原君は私を立ててくれる。


あたかも私が優位にいるような言葉で持ち上げて、私を気持ちのいい場所でのんびりとさせてくれる。


この癒しを失いたくないし、これが恋愛関係になったらきっと後悔する。



私も、彼も。



だから私は、彼の誘いを断るのだ。

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