第5話

「もうあと1カ月と15日でクリスマスイヴですね。」


「え?」


「1カ月と16日もすれば、クリスマス。」

 

「……。だね。」



適当に返す私。


ピアノの音量を一つ落とし、鍵盤を流れるように弾きながら私に笑いかける君。


まさかクリスマスまでの期間を出してくるとは思わなかった。


私なんて"今日何曜日だっけ?"の感覚なのに。仕事をしている人間とは到底思えない。

 

誰かが、独身女は外に出た時点でミスコンに参加しているも同然だと言っていたけれど、私はカレンダーと鏡は極力見たくない無精派の女ですから。



「ふふっ、」


「…え?なに?」


「適当に言ったのに。」


「え?え??」


「そんな律儀に数えてるわけないでしょう。」


「…誘導された。」


「さっきのお返しですよ。」



"仕返し"じゃなく、"お返し"と言う彼。


このスマートな適当さ加減がツボなのだ。半分にも満たないふざけた感性もちょうどいい。


私はそんなに器用なふざけ方を知らないまま生きてきてしまったから。




だから今、私の毛先はゆるゆるっとしたウェーブにピンクの裾カラー、身体の線が出やすいニットワンピというふざけた姿で。


マスカラは二重にも三重にも重ねて、リップの色も濃い目。自分でも鏡を見る度に酷いと思う。


職場では派遣だからぎりぎり許されるものの、周りからはビッチだ夜の蝶だの噂を立てられている。


それなのに。


彼はこんな私を物ともせず、土足ではないけれど、綺麗に靴を揃えて踏み込もうとしくるのだ。

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