第3話
「梨添さんってピアノ弾ける癖に弾けないふりしてますよね?」
「え?なにそれ心理戦?」
「惜しい、陽動作戦です。」
「
「不意をついて下の名前で呼ぶ作戦ですか。」
「そ。誘導戦。」
敵わないなあ、と首を傾げる姿も、ピアノ演奏前の前菜みたいなもの。
その柔らかそうな喉仏をいつか触らせてください、と心の中で拝んでから耳を澄ませた。
私立大学の文学部に通う3年生。
彼の家庭は音楽一家で、小さい頃からその英才教育を培ってきたのだとか。
でも彼は3人兄弟の3番目。
家庭内では器用に、そして自由に生きる生き方を知っているらしい。
音大を出ても就職先は少ないし、雇用形態だって安定しないからと普通科の大学を選んだのだとか。
こんな干物の化石みたいな女にも、そつなく対応してくれる育ちのいい彼。
私は彼の隣で、彼がピアノを弾く姿にも、彼自身にも癒しを感じている。
今だって彼は、音楽一家で育っておきながら、それを鼻にかける様な音楽は一切演奏しようという気はない。
世界的に有名な動画サイト様からお越しになられた、若い層に人気の曲。
アップダウンの激しい曲で、指が鍵盤を移動しているというよりも、鍵盤が不死原君の指に合わせて動いているよう。
それくらい彼の指使いは滑らかなのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます