第43話

繁華街の駅に着けば、帰宅ラッシュ時に差し掛かったせいか人で溢れかえっている。



はぐれないよう手を繋ごうとすれば、百奈から腕に絡みついてきた。ウザいのを耐えて胸の中で深呼吸。甘い笑顔で対応する。



「なに?甘えたい時間?」


「違う。しつこい男見つけたから恋人ぶってんの。」


「はは。どれ?」


「……あそこの。ベージュスーツのリーマン。」


「え?百奈ってリーマンにまで手え出してるの?」


「出されそうになってんの!」



いわれた男を見れば、きっちりと固めたヘアに高級そうなビジネスバッグを持っている。……悪くない顔じゃん。


 

一瞬そのリーマンと目が合って、からかい半分で笑いかけてやった。向こうはたじろぐ素振りも見せず、無表情のまま顔を反らした。


         

「なに?痴漢?ストーカー?上玉じゃん。」


「……さあ。」


「ちゃんと教えてよ。」

 

「……いつも電車が一緒のリーマン。電車で話しかけられたから、通学中に話す内、一緒に住もうって言われるようになって。」


「住めばいんじゃない?あのスーツ多分相当高いよ?」


「いやだ。ちゃんと恋人のふりして。」


「あいよ百奈様。」



何が嫌なのかは知らないけれど、仕方なく百奈の肩を抱いてやる。近寄りすぎて歩きにくいのを我慢。

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