第42話

「ねえ、どさくさに紛れて腰触らないで?」


「怒った?」


「怒った。」


「俺にはプンプンとかやってくれないの?」


「やっても意味のない相手にはやらないの。」



周りの視線が刺さるなか、百奈がこっそりと下から覗き込むように囁いた。



今日はグレーのダウンに、黒いタイトスカートを履いている。シンプルなキルティングのバッグを肩から下げて、いつもより落ち着いた感じ?



これって、高級ディナーを奢れっていう意思表示?



色んな女の子に、思わせぶりなおねだりをされてきたから、直接言われなくてもバレバレだって。 



「……今日の服装、いつもより落ち着いた感じだよね。」  


「……悪い?」


「別に?ただ可愛いなって思って。」



思ってないけど。どうせ男からの『可愛い』に返答するテンプレ用語があるんじゃないの? 



「…………ありがとう。ございます。」



言われ慣れているはずだろうに、百奈が恥ずかしそうに俯いた。耳が少し赤い気がする。



……これも、矛兎百奈の手腕ってやつ?



なんとなく赤い耳に指で触れてみれば、百奈がぴくりと肩を上げた。ほーん。うん『調子狂う』とか思ってはやらない。

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