第30話
「なに?また男泣かせた話?」
ゆっくりと閉まるドアを無理に閉めた財禅先生が入ってきた。
いつも勝手に財禅先生の部屋を使わせてもらっている私たち。何を隠そう、財禅先生は私のいとこなのだ。
「違うよ。百奈がね、盾狼君と付き合ったって話。」
「は?盾狼?盾狼って、あの
「……え?……打診されてる?」
財禅先生こと、
さすが、私と同じ血を引く者同士!
「まだ3年生なのにね。すでに内定が打診されてるんだよ。」
「……は??そんなことあるの?!」
ラスクをゴミ箱の中にポロポロとこぼす乙菱と、顔を見合わせた。
CENT製薬といえば、製薬業界2位の大手企業だ。誰だって喉から手が出るほど内定が欲しいはず。
「成績優秀者ってのはもちろんだけど、ここだけの話、彼の親御さんが国立病院の医師なんだよね。」
「…親が、お医者さん?でも鹿助君は薬学部だよ?医学部じゃないじゃん。」
「彼が薬学の道を選んだんじゃない?まあ、つまりさ、国立病院の取引先であるCENT製薬から打診されてるってことは、親御さんが裏で手を引いてるんでしょ。」
「…………」
ああ、つまり盾狼鹿助は金持ち息子ってわけね。こちとら必死こいてお金稼いでる身にもなれっての。
「(…益々嫌いだわー)」
鹿助君に買ってもらった異色のお昼ご飯。
金持ちのおこぼれに預かったみたいでいけ好かない。
私はそれらのご飯を全て財禅先生に与えることにした。
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