第30話

「なに?また男泣かせた話?」



ゆっくりと閉まるドアを無理に閉めた財禅先生が入ってきた。



いつも勝手に財禅先生の部屋を使わせてもらっている私たち。何を隠そう、財禅先生は私のいとこなのだ。



「違うよ。百奈がね、盾狼君と付き合ったって話。」   


「は?盾狼?盾狼って、あのCENTせんと製薬から打診されてる盾狼鹿助?」    


「……え?……打診されてる?」 



財禅先生こと、財禅絃真ざいぜんげんま36歳が白衣を脱いでハンガーにかける。艶のある七三ツーブロックとはっきりとした目元がイケオジ風だと学生には騒がれている。



さすが、私と同じ血を引く者同士!



「まだ3年生なのにね。すでに内定が打診されてるんだよ。」    


「……は??そんなことあるの?!」 



ラスクをゴミ箱の中にポロポロとこぼす乙菱と、顔を見合わせた。



CENT製薬といえば、製薬業界2位の大手企業だ。誰だって喉から手が出るほど内定が欲しいはず。



「成績優秀者ってのはもちろんだけど、ここだけの話、彼の親御さんが国立病院の医師なんだよね。」


「…親が、お医者さん?でも鹿助君は薬学部だよ?医学部じゃないじゃん。」


「彼が薬学の道を選んだんじゃない?まあ、つまりさ、国立病院の取引先であるCENT製薬から打診されてるってことは、親御さんが裏で手を引いてるんでしょ。」


「…………」



ああ、つまり盾狼鹿助は金持ち息子ってわけね。こちとら必死こいてお金稼いでる身にもなれっての。



「(…益々嫌いだわー)」



鹿助君に買ってもらった異色のお昼ご飯。



金持ちのおこぼれに預かったみたいでいけ好かない。



私はそれらのご飯を全て財禅先生に与えることにした。

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