第16話

――――その午前9時23分のレシートを不要箱に捨てる彼の指先。安い女で良かったって、心の中で失笑でもしてるんでしょ?



と思ったら、本当に顔が失笑していた。



そんな彼に、私、矛兎百奈は嫉妬していた。



同じ大学3年、薬学部薬学研究学科、同じくサークルクラッシャーと言われる彼に。



立ち回りが器用で、サークルを壊す癖にどこか憎めないと、彼、盾狼鹿助たてがみろくすけの周りには人が集まってくるのだ。




『百奈と俺、似てるよね。』


『似てない。そもそも遺伝子からして違う。』


『身体のつくりもね。違うよね。』


『一緒にしないで。』


『そこ一緒だったら困る。』




私はあざとい、彼は憎めない。



私はクラッシャー、彼はカリスマ。



私は絶対、好きにはならない。



ならないからね?




『はいはい。俺もね、絶対に、あ。見てみ、民間療法に使われるドクダミの草が生えてる。』


『わー。草草。』


『ww』



なにはともあれ、形だけ付き合ってみれば、周りは平穏無事。



ただし私と彼の仲は、ほぼ嵐。

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