問う今日
@SBTmoya
第1話 CASE A
それは1月のキリッと冷えた空気のよくある朝だった
一人の青年が通勤中、駅に向かって歩いていた。
青年は目にした 踏切の中に人が倒れてるのを。
向こうに目をやればすでに向かってくる電車が見えていた。
おそらく何人かは同じことをすると思うが、
青年の理性は考える隙を自身に与えなかった。
それは「勇気」とか「正義」とかそんなんじゃない、言うなれば運命が天糸(てぐす)を引いていたのかも。
青年はバーをくぐり抜け、おじいさんを何とか起こし、
・・・間に合わなかった。
青年のおかげでおじいさんは軽症で済んだ。
青年の方は命だけは残してもらえたものの
意識不明の重体。たとえ目覚めても
もう五体満足には戻れないらしい。
おじいさんに 身寄りという身寄りは居なかった。
独身で、遠く彼方に親戚がいるんだかいないんだか、それさえもはっきりしなかった。
翌日このことはニュースになった。
世論は青年を英雄として称えた。一時ね。
でも法律は勇気よりも、青年と、電車に乗っていた
人間の物理的な質量を天秤にかけた。
大概のことは時間が解決してくれるけど
その時を待つのに疲れきった人がいる。
青年の奥さんと幼い娘さんがそうだ。
まして奥さんは精神的なショックが大きすぎた。
それでもこの家族も、マスコミの格好の餌食だ。
奥さんは青年のことを誇らしく思うだろうか、無責任だと非難するだろうか、
あなたならどう思う?
ところで皮肉なことに おじいさんは数日後に肺炎で亡くなった。
彼の身内を名乗り出るものは最後まで現れなかった。
人一人の命に重さの違いなんてない。
まあでも、
こんな状況どう笑い飛ばせばいいの?
それは 他人事では
ギリギリ笑い話にできることだろう。でも、
そこにいたのがもし自分だったら?
こういうの なんて言えばいいのかね?
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