第26話

「差し出がましいのですが麗奈さんには、こちらにいらして、次から出勤するパートさんにタイムカードの説明をされるよりも、社長の片腕なのでしょうから、他のお仕事をしていただき、この場は私がさせて頂いても宜しいでしょうか?」と大羽が言った。


麗奈は照れながらも心平の顔を見た、彼は掌を差し出して言った。


「やって頂きんさい」とその場を大羽に代わった。その後は彼女が次から出勤したパートたちに説明をしていた、


大羽は他界した夫が、税理士事務所を経営していた時に手伝いをしていたと、言ったのでそれなりに仕事ができると思っていた心平だった、


心平は若くても人を見る目は鋭かった。客が店の玄関ドアの開け方だけで、その客のおおよその性格を見抜く事ができるほど鋭敏な神経の持ち主だったので、面接をしただけで、その人物の性格を見抜いていた。


面接の際に履歴書を見る事無く、採用または不採用をその場で伝えていた。世間では良く有る事だが、合否の結果を一週間、いや長い所は二週間ほど検討してから出す会社が多いが、求人広告を見てくる人の殆どが不採用だったら、直ぐにでも他の会社に応募したいのだが人情だ。それをさせないのが求人広告を出した会社が自分の会社の事だけを考えている証拠で、そんな理不尽な行為を心平は知っていた。


獅子屋では慢性的な人手不足にあえいでいて深刻な状況かであり、直ぐにでもスタッフが欲しかったにも関わらず、社長と専務は高飛車な態度で、このような人でなしの行為を平気でやっていたのを心平は取引先から聞いていて、その度に嫌気がさしていて自分のところでは、そんなことはしないと思っていた。


そして本当に優秀な人材は、そんなに長く検討されたら、他の会社に面接に行ってしまう事を考えない愚かな採用だと思っていたし、


事実、獅子屋は無能な人材の集まりだった。そして全員が揃い厨房に集まり着席した。麗奈が司会を務めて言った。


「おはようございます、パートの中山麗奈でございます。今日はパートさんの顔見せとして集まって頂きました。それではお名前をお呼びしますので、お立ちになって頂き自己紹介をお願いします。ちなみにどんなお話でも結構です。それでは、最初に前沢さん、宜しくお願い致します」


「只今、ご紹介に預かった、あの貧乏人にお金を配るお金持ちの前澤友作さんたぁ、一字違いの同姓同名じゃが、貧乏で沢の字が簡単な方の前沢友作でがんす」と言った途端に大爆笑だった。


頭を掻きながら前沢は続けた、「そがいな訳じゃが、社長に採用して頂き、こがいな歳のうちでも皆様のお役に立てる事に喜びを感じとります。うちゃ、市内で、和菓子屋に勤務しとったんじゃが、この度、定年退職したけぇ、こちらでパートをさせていただいた、そがいな、うちじゃが、皆様と楽しゅう業務を行いたい思うとるし、うちが知っとるこたぁ、惜しみのう、皆様に伝授させていただきますけぇ、どうぞ宜しゅうお願い致します」と言うと拍手喝采だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る