第17話

「今度は、水島さんですか?」と麗奈が言った。

「うん、そうじゃった」と心平。

「あの人と社長はどういう、ご関係なんですか?」

「どがいな関係って、彼女が中学を卒業するまで付き会うとったけど、その後の彼女は大学を出て同級生と駆け落ちして東京に行って結婚したんじゃ、じゃけぇワシャ、振られたんじゃ」

「そんな身勝手な人だったんですね、それにしてもしつこいですよね」

「離婚したばかりじゃけぇ、寂しいんじゃないんじゃろうか?」

「そうやって、優しい気持ちを持ったらダメですからね! 社長は私のことだけを見てくれていればいいんですから!」

「ワシャ、今まで女性にモテたことないのに、急に二人から言い寄られるようになって、どうしたのかね?」

「社長は、とにかく今は、『心平まんじゅう』の成功だけを考えていてくださいね!」

「そうよね、食べてしまおう!」

「はい」


食べ終えて会計をした後に麗奈が作ってくれたデザインを印刷屋に持って行き依頼した、印刷屋が麗奈のデザインを見て、プロ以上だと驚いていた。心平にとっては本当に頼りになる彼女を採用して良かったと思っていた。


店に帰って麗奈とお茶を飲んでいると、玄関ドアを勝手に開けて入って来たのは美紀子だった。


「何で休んでいるのよ!?」

「ワレにゃあ、関係ないじゃろうよ、ましてや獅子屋の副社長がさ!」

「副社長じゃないわよ、私は出戻りだから肩身が狭くて、本店の副店長よ」

「そりゃ仕方ないじゃろうよ、あの鬼軍曹の社長の意に反して東京に行って駆け落ちをしたんじゃけぇさ!」

「あの時にパパの言うことを聞いていたら、心平の奥さんだったのにね?」と麗奈の顔をわざと見て言った美紀子だった、そこに初めて麗奈が口をはさんだ。


「水島様、今日は何の御用でしょう?」

「心平に話があって来たの」

「水島様、弊社の社長と個人的な付き合いがおありなのは承知しておりますが、ここは弊社の店舗です。社長を呼び捨てにするのはいかがなものかと存じます、恐れ入りますが、社長とおっしゃっていただきたく存じます」と麗奈が強気でそれもガチガチの丁寧語で言った、

「そうでしたね、それは大変に失礼しました! 中山さんのおっしゃる通りだと思います、では社長! あの同窓会は無くなりましたが、私と弊社社長が社長と直々にお話がしたいので今晩、19時に弊社、本社にお越しいただきたく存じますが如何でしょうか?」

「社長と美紀子と?」

「さようです」

「なんじゃろう?」

「それではお待ちしております! お仕事中、大変に失礼いたしました!」と言って美紀子は帰って行った。


「本当に自分勝手な人ですね、水島さんは! それにしてもお父様の社長さんとお嬢さんは何の話なんでしょうね?」と吐き捨てるように言った麗奈だった、


「本当じゃ、ったく、あの親父も強引な人での、親子そろうて良う似とるんじゃ」

「普通でしたら、用がある方がこちらに来るのが常識なのに、社長を呼び出すとは、失礼千万ですよ」と憤慨していた麗奈だった、

「そりゃ、レイナの言う通りじゃ、でも、ありゃ、昔からなんじゃ」

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