第3話
父の鉄平が息子の心平に言っていた言葉は、
「うちらの仕事は素晴らしい原料があってこそじゃ」
「各地の生産者の方々に足を向けてはいけん」
「配達をしてくださる方々にも感謝の気持ちを忘れてはいけん」
「自分ができんことをやって頂いとるのじゃけぇ謙虚に頭を下げ感謝の念を忘れんことじゃ」
「
「うちら和菓子店の仕事は原料がすべてのスタートじゃけぇ。原料が良うないと、ええ菓子は作れん」
「そして業者さんに任せっきりにするんじゃのうて、直接取り引きすることで、一次産業でご苦労されとる生産者さんに触れることができるし、それを自分の事の様に理解すれば 互いに長い目でお付き合いして頂けるけぇ、この関係を感謝の念を忘れんで大切にしてほしい」
心平は父からは和菓子の技術もさることながら、それよりも精神的なことを学ぶことが多かった。当然、他にも様々な菓子の材料を扱っているので、畑や農家さんに直接、通うこともあった。また農家さんと直接交渉することもある。
生産者さんを大切にするという哲学は息子の心平にも脈々と受け継がれている。「背伸びはするな、地に足つけろ、贅沢をするな」が代々守られてきた教訓だ。なにげない会話からも、お互いへの信頼とリスペクトが感じられた。
和菓子や洋菓子の世界では驚くようなブームで大ヒット商品が生まれ、注文が倍々ゲームで増えていったりする流れが時として起こる。
「じゃけぇ、ワシが親父の桔平から、よう言われたのが、あんまり背伸びをするなってことじゃ。大きい会社と取り引きしたり、無理して背伸びばかりしとったりすると、必ずどこかで歪みが出てくる。しかし、こうやって地に足つけて生産者さんと話していくとね、次の世代に何を繋げていくべきか気が付けるけぇ」 と。
祖父の桔平、父の鉄平、そして孫の心平の三代はとても仲が良かった。だからこそ代々が先代の意思を次いで日々地道に邁進できた。毎朝、三時に起きて、先々代から繋いできた
「つぶあん」と「餅」、そしてその他の和菓子を継続して作り続けてきた心平はあの日光の和田菓子店さんの武平まんじゅうと出会ってからは、考えを変えていた。時代は超速のスピードで変化している中で、昔ながらの味を守っていくことも大切かもしれないが、それよりも新たな道を模索することも重要ではないかと思うようになっていた。
それの一番の理由として、朝、三時に起きて臼に蒸し上がった餅米を杵でつくとペッタンペッタンと地響きを伴う事から近所からクレームが来ていたことが悩みの種だった。だからこそ、餅を使わないでもできる一品勝負に出たかった。そしてすべての和菓子を手作りで作っては毎日捨てている自分が悲しかった。
それであるなら材料もシンプルな一品勝負がしたかったのが心平の本音だった。
「旨うなれ!旨うなれ!と心を込めた、続く三代の手仕事の和菓子の味をご賞味あれ!」と店内に大々的に掲示していたが一向に売れることはなかった。
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