ホープ・デビル

れいとうきりみ

ホープ・デビル

 「ねえ返して!返してって!」

1人の少女が泣きながら手を伸ばしてジャンプしている。手の先には彼女のキーホルダーがあった。そしてそのキーホルダーを持つ手の主は「いじめっ子」である。

 「返してほしければつかめばいいだろー」

取り巻き立ちもヤジを飛ばす。「やーいやーい」「どうせお前なんかに似合うキーホルダーじゃねえって」「届かないのに馬鹿だなあ」。

 「やめてやれ」

どすのきいた声で少年はそう言った。

 「泣いてんの見えてないのかよ」

すぐにいじめっ子たちの視線は少女から少年に向いた。「は?」「何言ってんの?」。取り巻きは弱く吠える。

 「お前、もしかして…」

少年はこれから先どんな言葉が来るのかと緊張していた。

 「こいつのこと好きなのか?」

クラスに一斉に笑いが巻き起こった。

 「あいつまじかよ」

クラス中はたちまちひそひそと話し始めた。

 「こっちこい」

少年は少女の腕をつかみ走り出した。「つまんねえの!」いじめっ子はキーホルダーを少女の背中に向かって投げつけた。

 

 「大丈夫だった?」

いつの間にか少女は泣き止んでいた。「ありがとう」と細い声で言った後、俯いて黙り込んだ。

 二人がいるのは生徒会室。本当は入れないが、ドアも空いていて逃げ込むにはちょうどよかった。

 「ねえ、知ってる?」

少女は再び口を開いた。

 「この学校にはホープデビルがいるんだって。日本語で『希望の悪魔』。特定の場所に悩める子を集めて、時に解決させ、時に魂をとる。魂を取られる人は美男美女と悪魔に気に入られた人なんだって。でも、」

少女は続ける。

 「そのことを言った日からいじめられるようになって」

少女はそういうと黙り込んだ。少年は少女の頭をなでこう言った。

 「そっか。でも俺は信じる。大丈夫」

女たらしではない。少年はよく顔を見て「美人だ」と思った。


 少年と少女はしばらくの間学校生活を幸せに過ごした。残念なことにクラスメイトからは距離を置かれ、時にはいじめに近いことをされる日もあった。しかし二人が一緒に守りあうことで日々を過ごしていた。

 そんなある日の昼休み。

 「ねえ?何か聞こえない?」

少女は耳を澄ましてそういった。

 「何も聞こえないけど...」

 「おいこいつらまた変なこと言ってんぞ!」

 クラス中が騒がしくなる。教室から出る少女。明らかに自分から動いているようではなく、誰かに操られているようだった。

 「どこへ行く!立ち止まれ!」

 異変に気付いた少年は少女を止めようとするが、いじめっ子に囲われゆく手をはばかられる。「お前まだ信じてんのかよ」「いい加減戻れって」「つまんねえことすんなって」。

 ようやくいじめっ子の壁を抜けると、すぐに少女の悲鳴が聞こえてきた。張り裂けるような甲高い声。何かを悟って少年は声の聞こえた方へ走った。

 「大丈夫か!?」

少年が少女のもとにたどり着くと、彼女はぐったりと倒れこんでいた。

 「...きけん...だめ...」

 「なんだ!?何が危険なんだ!?」

 「ほんとうだった...」

間もなく少女は息絶えた。少年の後ろには、満足げな顔で霊が腕を組んで立っていた。

 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ホープ・デビル れいとうきりみ @Hiyori-Haruka

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る