第8話
竜也=イグアスは、新しくバイトを始めた。食品のデリバリー。
免許は持ってなかったので、バイクではなく、自転車で。注文が入ったら、店まで受け取りに行き、それを、お客さんの指定する場所まで運ぶ。一日に運べる数なんてたかが知れてるけど、それでも、必死で動いた。動いている間だけ、何かを忘れられると思っているかのように。
同時に、就職活動も続けていたが、だんだん、落ちる感覚が事前にわかってきた。お祈りメールを開く前から、お祈りメールだとわかる。どうしたって、学歴も職歴もなければ、その先には進めないのだから。
「立派な履歴書か」
イグアスがスマホを使って調べてみたところ、学校に通うのにも、お金がかかる。大学などに行こうとすると、数年間で数百万円。技術を身につけるための専門学校でも、二年間で二〇〇万以上。そんな大金、あるわけないし、デリバリーのバイトではそこまで貯めることもできない。
いくら稼いでも、生きているだけで稼ぐ以上のお金が消えていく。だから識者は言う。
働いたら、負けだ。
バイトと就職活動の隙間に、お袋の見舞いに行く。
イグアスにとっては、本当は母親でも何でもない。赤の他人だ。だけど、足繁く通ってくれる。きっとそれは、お袋をさみしがらせないため、ということなんだろうが、誰も頼ることのできないこの現実世界で、唯一、自分が交流を持てる人だから、ということでもあるのだろう。
どれだけ勇気ある者でも、この世界にたった一人では、淋しくて生きていけない。
「今日は、顔色いいみたいだね」
嘘だ。
お袋の容態は、日に日に悪くなっていく。肺炎が進行し、体力が極端に削られ、頬はこけ眼窩は落ちくぼみ、全身の衰弱も激しくなっていた。深夜のベッドの上でも、安らいでいるときがなくなっている。だからといって、心配したり、看病しようとすると、怒られる。
あーもー、本当に面倒くせえクソババア。
「バカ息子と話すことなんかない」
この間、みなとさんと葵さんと絶交したと話したら、殺されんばかりの勢いで怒られた。
お袋は、本当に二人を好きになっていたんだと思う。これは想像だけど、きっと、自分の息子のことを、変な先入観なしに、ちゃんと見てくれる人だから、でもあったと思う。そんな二人を、当の息子の方が勝手に失ってたら、そりゃ、怒るよな。俺だって、せっかくお知り合いになれた二人だ。惜しいと思う。
それ以来、お袋は顔もまともに見てくれない。それでも、イグアスは病院に通ってくれた。
「また来るよ」
いつも、淋しそうにしながら。
アパートに戻る。バドにごはんをあげる。
今まで知らなかったんだけど、うちの郵便受け、必要な郵便物はそりゃ多少は来てたけど、それ以上に、怪文書(?)もたくさん突っ込まれてたらしい。「息子はいつまで生きてるの?」「いつになったら働くの?」「おたくの変質者、そろそろ捕まった?」などなど…俺ほどの長期ニートになると、必要なときですら外出しないから分かってなかったが、どうも、三八歳無職でニートというのは、世間的には、嘲りと侮蔑と攻撃の対象だったらしい。ネットの噂で見かけたことはあるけど、笑ってスレッドを見てただけで、まさか自分がその対象になっているとは思っていなかった。
お袋は、こんな紙が突っ込まれてるなんて、今までひと言も言わなかった。言わずに、捨てていたんだろう。俺は郵便受けを見る気なんかなかったけど、イグアスは律儀に郵便受けを確認するもんだから。まったく。
お袋の部屋に入り、タンスを開ける。入院中の着替えなど、荷物をまとめる。イグアスは、さすがに器用で、もう、炊事洗濯掃除など、家事は一通り、一人でこなせるようになっている。教わったり、自分で調べたりしながら、几帳面にこなしていく。
「おいおい、さっき食べたばかりだろ?」
バドが、イグアスに絡みついてくる。
バドは、いつも自分勝手なくせに、珍しく、かまってほしいのかもしれない。イグアスが荷物をまとめていると、バドが、部屋の隙間から、何かを拾ってきた。小さくて薄汚れてボロボロのバレエシューズだった。
「なんだこれ?」
「たつや」と下手くそな字で名前が書いてある。
そうなんだよな。実は、幼い頃、小学校低学年くらいまで、バレエにピアノ、習い事をいくつかやっていた。どれも、長続きはしなかったけど。いったいぜんたい、どんな子どもに育てたかったのか。親の心は子は知らん。ただまさか、こんなダメ人間になるなんて。まったく思ってなかったんだろうな。時間を遡って会いに行けるなら、ちゃんとお袋に伝えたい。お前の息子は何者にもなれないから、習い事なんてさせるだけ無駄だぞ、って。
「そうか、ここには……竜也がいるんだ」
イグアスが、お袋の部屋を見回す。
部屋の中には、棚という棚、壁という壁に、俺とお袋の写真が飾ってある。イグアスは、もちろん、この世界に順応することが優先だったし、自分のことで精一杯だったから、あまり意識していなかったみたいだが、ここには、俺が、球磨川竜也が、ずっと存在していた。優しい笑顔の母親と、幼い頃の、笑顔のクソガキ。
イグアスが、写真を手に持つ。小学校の運動会で、お袋が作った弁当の中の、おにぎりを両手に一個ずつ持って、嬉しそうに写真に収まっている、クソガキ。カメラを向ける人に、全てを委ねている笑顔だった。
「……そうだな、竜也。僕は、竜也だ」
翌日、イグアスは、荷物を持って、病院に戻った。
「かあさん。部屋の中をあさってたら、こんなもの見つけたよ」
バレエシューズと、写真を何枚か、渡す。
「運動会、楽しかったよね。遊園地に行ったときも、はしゃいじゃってさ。また行きたいね。かあさんが元気になったら」
もちろん、イグアスにはそんな記憶はない。だから、お袋を元気づけるために、勇者ともあろう人が、嘘に嘘を重ねている。悪意のない嘘、善意の嘘。
写真を見ていたお袋が、ベッドの中で身体を起こして、イグアスの方を向く。まっすぐ見つめてくる眼は真っ赤で、涙がにじんでいる。
「ふざけんじゃないよ」
「……え?」
「記憶が戻ったっての? 嘘つき。運動会が楽しかった? お昼ごはんの後、突然大雨が降って泥だらけになって、中止になって、楽しみにしてた選抜リレーがなくなって、わんわん泣いてたのは誰だ。遊園地なんて、行ったはいいけど、はしゃいでる声がうるさいってクソ亭主に怒られて、着いた途端に帰りたいって泣き出したくせに」
そうだ。俺には、家族と一緒の、ろくな思い出はない。
特に、幼い頃の、今となってはどこで何をしてるんだかわからない、顔だけはよかったが、酒と暴力とギャンブルばかりのクソ親父がいた時期に、楽しかった思い出なんかあるはずがない。どうせ、どこかで女にすがって生きているんだろうが。クソ親父から教わったことなんて、麻雀のイカサマくらいだ。そのクソ親父に対する反発で、俺も、お袋も、生きていたんだ。
でも、それはイグアスにはわからないと思う。きっと、イグアスは、元の人生で、家族にも恵まれて、まっすぐ成長していたんだろうから。
「僕は、竜也だ……」
「正直にお言いよ。あんた、たっちゃんじゃないんだろう?」
「僕は、竜也だ」
お袋が、一つため息をつく。
「あたしのたっちゃんはね。自分のことを『僕』なんて言わないんだ。あたしのことを、ババアだの何だのと罵ってくるんだ。口が悪くてだらしがなくて、泣き虫で、何でもすぐに諦めて、何にもしないくせに文句だけはいっちょ前で、手がかかって、手がかかって、でも、どれだけでも手をかけてあげたんだ……あんたは、たっちゃんじゃない」
「……僕は、竜也だ」
勇者イグアス。
「たっちゃんを返してよ。あんた、勇者なんでしょ?」
「僕は! 僕は、勇者イグアス……フォール王国付の剣術魔法指南役……でした」
「そうかい、勇者イグアス。やっと本音で話せるんだね。ほら、あたしのバカ息子を出せ」
「できません」
「はあ?」
竜也改め、イグアスが、キッと顔を上げて、お袋をまっすぐに見つめて言う。
「出せるものなら出したい! 返せるものなら返したい! でも、僕にはどうしようもできないんです。かつての勇者たる僕にも、どうすればいいのかわからない。おそらく、転生の秘術が関係しているのではないかと思って、様々な文献を調べ、可能な限りの呪文についても試してみましたが、おそらくは空気中のエーテル的なものがそもそもの組成から違う世界だから——」
お袋が、手を振ってイグアスの言葉を遮る。
「あたしは学がないから、難しいことを言われてもわからない。ただ、たっちゃんを返してさえもらえればいいんだよ、勇者イグアス」
「無理です」
「なんだって?」
「無理です。もう、帰ってきません。あなたのバカ息子は、もういないんです」
……。
「御託はいいから、たっちゃんを返してよ。あたしのたっちゃんを」
……。
「できません」
「……そう。じゃあ、出て行け」
「かあさん」
「私は勇者なんかの母親になった覚えはない。出て行け」
「かあさん!」
「出て行け!」
そう言ったかと思うと、お袋は、激しく咳き込んだ。今まで以上に。激しく。とても、治まりそうになかった。
イグアスが、慌てて緊急の呼び出しボタンを押す。すぐさま、医師と看護師がなだれ込んでくる。
イグアスが、追い出された。
アパートに戻ると、隣の部屋の銀杏さんがやってきた。
「やあやあ、いたね。元気かね」
普段からずぼらな人だけど、普段以上に髪がボサボサ、服はヨレヨレ、顔も脂と汚れにまみれている。今日は、よほど忙しい一日だったらしい。でも、疲れ切っている様子なのに、異常にテンションは高かった。わかりやすいひと言で言うと、充実している感じか。
「……ごはん、食べますか? 何か作りますか?」
「お腹ペコペコだし、すっごい食べたいけど、今日はいいや。明日早いし」
「何かあるんですか?」
「前に言ったろ? 芝居の公演。あした、初日なんだ。おかげで今日は、仕込みが大変で。場当たりでは演出家からダメ出しされまくるし、現場での直しがたくさんあるし、いやあ、ホントに明日、初日開くのかね」
すっかり忘れてた。チケット、ちゃんとお金出して買ったんだった。イグアスが。
演目は、『四〇四 Not Found』。宇宙飛行士とか幽霊とか宇宙海賊とかが出てくる、ドタバタした訳のわからない話だって言ってた。明日から一週間、一〇ステージほどの公演ということで、チケットは、日時指定なしで、客席も指定ではなく自由席だから、いつ見に行ってもいいらしい。
「花さんが入院中で大変だとは思うけどさ。看病疲れってのもよくないから、見に来なよ」
「今日、かあさんとケンカになりました」
「ケンカなんか毎日やってるじゃないか」
「そういうことじゃなく」
「病気で気が弱ってる人は、ちょっとしたことでも、当たり散らしてくるもんだよ。いつも通りのことができなくて、一番辛いのは、本人だからね。介護のバイトとか、やったらわかるよ」
何だかんだで、人世経験豊富そうな雰囲気だが、実際この人は、割と一通りのバイトはやってきたらしい。何だかんだで、身も心も逞しい。
「大丈夫! 元気になったら、また元通りケンカできるよ。ん? 違うか?」
今は、そのデリカシーも何もない銀杏さんの言葉が、頼もしくも感じる。
「でも、明日はバイトが……」
「バイトが終わったら駆けつけてくれればいいよ」
なんとしても、見に来させるつもりらしい。
「行けたら行きます」
「それ、行かないフラグのセリフだけど、まあ、今はそれでいっか。待ってるよん」
手のひらをひらひらさせて、部屋に戻っていった。
翌日。
銀杏さんから誘われたものの、イグアスは行くつもりはなかった。だけど、病院には行きにくい。昨日は、発作が起きたものの、特に症状が悪化したわけではないと電話で確認はしたので、一安心はした。
バイトのデリバリーは、この日に限って予想外に注文が多く、時間が押した。
どうしようかと悩みはしたが、あの勢いで誘われて、どうせどこかで見に行くことになるのであれば、早めに行って義理を果たしておこうと考えたイグアスは、劇場へ向かった。
途中で道に迷ったりもしたので、開演には間に合わなかった。一五分ほど遅れて入場し、照明で照らされた舞台上以外、暗闇に支配されている客席の、一番後ろにあった、遅れた人用に確保されていた席に、座らせてもらう。
初日のご祝儀か、頑張って客寄せしたか、そもそも人気の劇団なのか、ほぼ満席だった。
遅れてきたせいもあって、ストーリーは、何が何だかよくわからなかった。ただ、舞台上の役者たちは、とにかく元気でハチャメチャで、異様にテンションが高く、大きな声を張り上げて、誰もが、これでもかと躍動していた。
俺は、舞台上に立つ銀杏さんを見て、「この人、かっこいい」と、初めて思った。いつもはずぼらで、ノーブラで、乳がでかくて、ボサボサの頭に汚いシャツを着ているのに、舞台上では、人が変わったように輝いていた。心奪われた。それは、イグアスも同じだったらしい。最初は斜に構えて椅子に座っていたくせに、だんだん、身を乗り出して観るようになっていた。
ラストシーンの後、舞台上が完全に暗転し、ぱあっと明るくなると、客席から、割れんばかりの拍手が鳴り響いた。イグアスも、呆然としながら、手を叩き続けていた。
カーテンコールが終わり、終演後、劇場のロビーや客席で、出演者と観客が、面会をしていた。お客さんたちが、興奮気味に、感想を直接、出演者たちに伝えている。明るくなった客席を見渡すと、知った顔があった。
みなとさんと葵さんだ。
イグアスは、顔を背け、劇場から逃げだそうとした。
が、二人の方が早かった。すぐに捕まった。絶交した、あの日以来だった。
「ごめんなさい、竜也さん。でも、逃げないでください」
力一杯腕を掴みながら、葵さんが、絶対に離さないという鉄の意志を伝えてきた。
「逃げてるわけじゃないよ」
「報告があります。私とみなと、別々の会社だし、第一志望でもないけど、一応、一社ずつ、内定、もらえました」
会ってないうちに、がんばったんだ! これはめでたい!
「そう、よかったね」
陰気くさいイグアスの反応が芳しくなかったので、これ以上、話は進まなかった。
「じゃあ、僕はこれで」
イグアスが、早々に帰ろうとする。が、
「あの、私、銀杏さんと話をしたいんです」
みなとさんが、希望を伝えてきた。
「話せばいい。僕にかまわず」
「竜也さんにも、一緒にいてほしいんです」
結局、引き留められた。
銀杏さんは、いろんな人と面会をしていた。俺も知らない交友関係。演劇関係では、けっこう社交性があるのかもしれない。
一〇分ほど待った。その間、みなとさんと葵さんは感想を口々に言い合っていたが、イグアスは、特に口を挟まず、何も言わなかった。
ようやく銀杏さんがきた。
「待たせてごめんねー! 来てくれてありがとうー!」
銀杏さんとみなとさんと葵さんが、お互いに興奮しながら、感想を述べたり、謙遜したり、とにかく楽しそうに話をする。
「どうだい。面白かったろう?」
言葉を挟もうとしないイグアスに、銀杏さんがどや顔でそう言った。イグアスは、ひと言、「はい」とだけ返していた。
おいおいお前、さっきまで、一人でスタンディングオベーション始めそうなくらいに、大興奮で拍手しまくってたじゃねえか。
「素直じゃないねえ。銀杏さんを見直しました、惚れました、くらい言っても罰は当たんないんだよ?」
それは、予想外なところから聞こえてきた。
「惚れ直したよ、銀杏ちゃん!」
まさかの、最上まで見に来ていた。そういえば、こいつ、チケット買ってたっけ。
「俺は、あと三回は見に来るからね」
いろいろ気に食わないところはあるが、こういうところは、しっかりまめなんだと思うと、営業マンとしては、すごいやつなのかもしれない。
「葵ちゃんとみなとちゃんも来てたんだね。じゃあ、一緒に飲みに行こう」
「お金ないので」
「未成年なので」
「いやあ、クール系女子! じゃあ、喫茶店で!」
『けっこうです!』
みなとさんと葵さんが、ハモった。
しかし、最上。こいつは、本当にめげない。
「こら、最上。あたしの可愛いお客さんに手を出すな声かけるな同じ場所の空気を吸うな視線を寄越すな存在するな。二人に手を出したら、殺すぞ」
「わかった。てことは銀杏ちゃん、今晩は二人きりが希望だね」
「殺しても行かない」
「普通はそれ、死んでも行かない、だよね? しょうがない。竜也、行くぅ?」
さびしんぼか。
「遠慮する」
「マジかよ。そういえばお前、就職どうなった? これでも心配してるんだぜ」
嘘か真かわかりにくいのがやっかいなんだよ、こいつは。
「あの、銀杏さん!」
「なあに、みなとちゃん」
最上のテンションに引っ張られると話が進まないと悟ったのか、話の矛先を変えてくれたのか、みなとさんが銀杏さんに話しかける。
「実は、私たち、内定やっと取れたんです」
「すごいじゃん! おめでとう! 乾杯しなきゃね。飲みに行く?」
「ぜひ! 行きましょう!」
葵さん、お金ないっていってなかった……?
「で! あの! 一つ、ご相談がありまして」
「何?」
「今日のステージ、すっごく面白かったです。それで、あの、」
みなとさんが、しどろもどろになりながら、必死で言葉を探す。
「私も、お芝居をしたいんです! あの、どうしたら、お芝居できるようになりますか?」
みなとさんが、顔を真っ赤にしながら、しかし、意を決して言った。
銀杏さんが、一瞬、あっけにとられ、その後、にやりとして、
「それは、本気のやつ? それとも、趣味のやつ?」
「……本気のやつです」
その返答を聞いて、うんうんうなずく。
「なるほど。そうだね。だったらまず、学校とかに行って勉強するのもいいと思う。私は通ってないけど、その分、基礎を身につけるのに時間がかかったから。で、学校とか養成所とかで勉強すると、大半はそこで諦めたりやめたりする。大変だし、将来が約束されてるわけでもないからね。だから、そこまでがんばって、それでもやる気があるなら、もう一度相談に来て。そうしたら、案内してあげる」
「本当ですか?」
みなとさんの顔が、晴れやかになった。
「本当はね、ちゃんと就職したほうがいいし、趣味でとどめられるならそれがいいと思う。こんなヤクザな商売、みなとちゃんみたいなまっとうな子には、気軽には勧められないからね」
「厳しいですか……」
一瞬で、意気消沈した。表情がコロコロ変わる。
「厳しいね。中途半端なやつにはね」
そこに、誰もが予想外の人が口を挟んだ。
「聞いていいですか? 舞台には、年齢制限はあるんですか?」
イグアスだ。
「お、竜也くんもやりたくなった?」
これは、ちょっと意外だった。
「もしかして、自分にもできるんじゃないかっていうか、自分にできることを、活かせる場所なのかなって、ちょっと思ったんだけど……」
「うえっへっへっへっへ」
「あは、あははははは……」
「うえっへっへっへっへ」
「あははははは……」
銀杏さんが、気味悪く笑ってる。あ、これはやばい。
「芝居舐めんな」
「ですよね」
すみません。
帰り道、芝居を反芻することに夢中になっていて、上演中、スマホの電源を切っていたのを、イグアスは忘れていた。アパートに帰って、電源を入れる、着信がたくさん入っていた。病院からだった。
ざわ。
夜間専用の番号にかけ直す。電話の向こうで、夜勤の看護師さんが、用件を伝えてくれた。「本日、花さんのウイルス検査を行いました。花さんは、新型のウイルス感染症の陽性反応が出ました。指定感染症として、このまま、隔離します。面会もできません」
今、世界中で流行しかかっている、ワクチンの存在しない、ウイルス。まさか、それが、でも、なんで——
「かあさん!」
イグアスは、帰ったばかりのアパートを飛び出した。
隔離されていて面会できないと言われていたが、それでも、病院へ向かった。
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