第31話
私は口を開らきかけ、そのまま少しパクパクと動かした。
けっきょく言葉が思いつかず、そのまま口を閉じる。
また沈黙が部屋を満たした。
──ギシッ。
ベッドが軋んむ。
男が私に覆いかぶさる。
そしてまた、キスをされた。
唇が離れると、男は口の端を上げ、満足げな顔をした。
私の頰に触れた男の手が熱くて、やけに鮮烈な印象が、肌に感覚として残る。
その後は、また激しく抱かれた。
…昨日と、違う。
なにか込み上げてくるような感覚と、
満たされていくような感覚。
何かに追い詰められるようなその感覚に、
戸惑いと恐怖を感じ、逃げようともがいた。
それに気づくと、男はさらに満足そうに笑い、私を押さえつけた。
そして、動きの激しさを増す。
自分の中で何かが弾けるような感覚がした。
ビクビクと体が跳ねる。
それでも、男は止まらない。
男は何度も何度も私を抱く。
避妊なんてしてくれてはいない。
私は、男のものになったから。
妊娠したとして、産むか堕ろすかは男が決めるのだろう。
だから、拒否も拒絶もしなかった。
小さな吐息と声が漏れる。
それに興奮したように男の動きが早まり、奥へ奥へと貫かれる。
息がうまくできない。
よく、気持ちがいいとか、光が弾けるようなとかそういった表現をされるのを文字で見たことはあった。
でも実際、そんな生やさしい感覚ではない。
まるで自分自身が解き放たれるような。
まるで、行ってはいけない世界へ無理やり引き込まれるような。
まるで、甘美で魅惑的なものに心のまま惹かれるように。
そう、まるで、悪魔だ。
罪深い魅力に引き込まれ、快楽に飲み込まれ、支配されるような感覚。
こちらから攻めることは許してもらえない。
男の男性としての力と、女の私の力には歴然とした違いがある。
どうしたって敵わない。
ひたすらに抱かれる。
私から男をその世界へ引き込むことはできない。
常に優勢なのは彼だから。
私は、引き込まれるだけ。
世間一般にはマグロと称されるのかもしれない。
だが、この行為中、私からのアプローチはいっさい許されていないのだ。
いや、許される、許されないではなく。
無理。
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