第33話
ーーー百年前。
ガルガランド王国、ガルガード山脈。
「父上、なんの話ですかな?」
「おい。イグ公。おめー家でくっちゃねしてんじゃねえよ。ニートかましてんなら出てけや、コラ」
そうして、我は国を追われた。
ーーー十年前。
ベルファンド王国、ラザーニア辺境領。
我が森の奥でしばしの休息をしていると。
「あー。うんこだ! うんこドラゴンがいるよ! お母様!」
「ミシュー。そんなことをいうものじゃないわ。女の子が下品よ」
「うんこだ! うんこ色だ! うわー、大きい背中。うんこ描いちゃお!」
「ミシュー!」
「あはは。うんこ。うんこドラゴンがうんこまみれだ! あはははは」
「ミシューっ!」
油性だった。
我は、人間を根絶やしにしようと決めた。
「……ん?」
イグナートが目を覚ますと、そこは先ほど激戦を繰り広げたローザンスの丘近辺から二十フィール以上、数十キロは離れた場所にある岩場だった。王都からは更に離れている。どうやら相当飛ばされたらしい。黄金竜の堅牢な皮膚と肉体がなければ即死だっただろう。
身体を少し動かす。
手足は切り裂かれ、胸にも大きな傷、羽は焼けただれ、爪は一本持っていかれている。身体からは、みなぎって有り余る膨大なアウラが失われ、指先一本動かせなかった。
完敗だった。おそらく、数日は動けないだろうが、原生生物で自分に牙をむく命知らずなどいないのでイグナートにとってはさしたる問題ではなかった。
問題。
そう。
それは、最後の一撃。
さすがのイグナートも、その正体に気付いていた。
精霊波。
四大憑きにあそこまでやられたら完全に敗北を認めざろう得ない。しかし、問題の肝はそこではなかった。
おそらく、あの精霊波は意図的に拡散したのだろう。あえて軽減し、本来の威力を発揮していなかったように思える。あれほどの魔術師ならば収束して放つこともできただろう。そうすれば、あの威力である。撃ち抜かれた場所をそのままに貫通していた。身体の中心を根こそぎ持っていかれたら黄金竜と言えども、生命活動を停止するしかなかった。
しようとすれば、できたはずである。ましてや、人間を滅ぼすと豪語していた自分。そうしない道理はない。つまり。
「手心をくわえられたか」
矮小で、無力な人間に。
最後の最後で。
何と甘い事だと、イグナートは感じた。
「ふっ」
竜が手心を加えられたと気付いたのならば、もはや完全に敗北を認めるしかない。そうイグナートは思った。もはや、再びあの者達に牙をむくなどと、竜としての誇りにかけて行うことはできない。
だから。
「負けを認めようぞ」
イグナートは自嘲気味にそうつぶやくのだった。
まあ。
実のところ。
あの金髪がむちゃくちゃ怖ええと、そんなことは心の底から認めるわけにはいかなかっただけだったりするのだが。
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