拝啓、過去の貴女へ。そして死ね。

@karura1211

第1話

彼女には「天才」という言葉が似合っていた。


言葉のとおり、頭脳明晰で運動神経が良い。

五教科のテストは常に高得点。

体育祭ではその神経の良さからバスケだの、リレーだのバレーボールでも大事なポジションをいつも任されるほど。


そして字が達筆であり、絵を描くのも上手だった。その実力は文化祭のポスターに彼女の絵が採用されたこともあった。


コミュニケーションも優れていて、クラスメイトからも愛されているのは一目見ればすぐに分かることであり、その人柄もあって生徒会の役員も務めていた。

さらに、それだけでは足らず彼女の家は裕福だった。過去、庭に池があり錦鯉が泳いでいるという話を彼女自身から聞いたことがある。



天は二物を与えずなんて言うが、このように彼女に対しては説得力がなかった。




一方の私はどうだろう。


無論、真逆の存在だ。


五教科のテストなんて赤点は毎度であり、

教師や親に何度叱られたことだろうか。


運動は下手で競技の記録など平均以下。

体力も全然ないものだから常にベンチで待機。体育祭や授業中の試合であっても最後まで参加したことがないし、レギュラーもなったことがない。


字は担任の教師から赤ペンで訂正をもらうほど汚く、絵を描くことが好きであったが見せられるほどの出来ではない。

下手の横好きというやつだ。


家も隣の家の会話が聞こえてくるほどの築40年の薄壁木造アパートに長く住んでいて、経済的に余裕なんてなかった。


そして人柄。

無愛想なくせに誰かに心配されたい、構って欲しいという欲望は一丁前。

おまけに思春期の中二病をこじらせていて

まともにコミュニケーションを取れないくせに、変に目立とうとするもんで気持ち悪さも全快であった。

クラスメイトどころか学年中から避けられる存在だったのをはっきり覚えている。



彼女が「天才」なら私は「鈍才」という存在。


唯一私に出来ることは当時部活で吹いていた

オーボエを吹けるということだろう。


まぁ、それも人に聴かせられるほどのものでもなかったが。



自分にこれといった才能はなかった。

むしろ、毎日のように自分には何の才能があるのか考え続けていた。

大した学力も運動も芸術の才もなかった私だか、天才の存在である彼女とは中学二年生の時までよく話すことがあった。



まず、天才の彼女はクラスメイトの皆からは

「カンさん」と呼ばれていた。


何故カンさんというのか話すと、彼女の本名に

調味料を作っている会社の名前の一部が入っていたため、それを略して「カンさん」と呼ばれるようになったそうだ。



そんなカンさんと私は同じ保育園を卒園しており、小学生の時まで同じバレーボールークラブに所属していた。

 

しかし、小学校でクラスが一緒になったことはない。


中学校へ入学してから初めて同じクラスになったのだ。


何故か席は私の後ろか前の席になることが多かった。


私はクラブの関わりもあったことで彼女とは雑談するくらいの関係でいた。


しかし、仲が良かったのかと言われると回答に困るところである。


確かに下らない雑談で笑いあったこともあった。掃除の時間にふざけあって教師に

見つかり、その場で説教されたのも覚えている。


だが、それよりも多く覚えているのは

彼女が私に対してのからかいであった。


当時の私はクラスメイトの中でも小太りな体型であり、眼鏡をかけていたため老け顔に見えた。私自身もその姿についてブサイクだと自覚していたが彼女は私の容姿をからかうことが多かった。そして、それを皆の前で私に伝えるものだから、周りの人間も乗っかるように面白がって私をからかうのだ。


容姿ことを言われるのは正直傷ついた。

けれど、当時の私は笑ってその傷を誤魔化していた。


小学生の時の私だったら声を上げて泣いていただろうが、中学生にもなって泣きじゃくる姿などかっこ悪いと思い、むしろ軽く受け流してやろうという気持ちで彼女のからかいを聞いていた。

当時の私は受け流していたつもりだろうが

今、この文章を執筆している時にからかいの

内容を思い出せるのだから相当なストレスを抱え込んでいたのは間違いない。


それでも私はあの日まで笑って過ごしていたのだ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

拝啓、過去の貴女へ。そして死ね。 @karura1211

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ