君と、消える夕陽の中で
斎百日
第1話
「かわいいね」
あなたはそう言っていつも私を肯定してくれる。
そんなあなたが、いつもと違う視線で見つめていることに気づいたのは、ほんの少し前だった。私が些細なことで照れたり、あなたの手を握ったりするたびに、あなたの表情がどこか変わる。それは他の友達とは違う、特別な温もりを感じさせるものだった。
放課後の教室、誰もいなくなった静かな空間で、ふと隣に立つあなたを見た。その柔らかい光に包まれた横顔が、やけに眩しく見えて、胸がドキドキと騒ぎ始める。
「ねぇ、どうしたの?」
不意に声をかけると、あなたは一瞬驚いたような表情を浮かべて、優しく微笑んだ。
「ただ、君が本当にかわいいなって思っただけ」
そう言って、あなたは手を差し出す。
触れるか触れないかの距離で、指先が震える。温かくて優しい手が、私の頬にそっと触れた。思わず顔が熱くなる。
「……ありがとう」
小さな声でそう呟くと、あなたは微笑みながら私の頬を優しく撫でた。その瞬間、何かがはじけるように、私はあなたに心を奪われていることに気づいてしまう。
この気持ちは、ただの友達のそれではない。もっと、ずっと特別で――言葉にできないほど、あなたが好きだという気持ちが胸に溢れていた。
あなたも、同じ気持ちだったらいいなと願いながら、私はそっとその手に自分の手を重ねた。放課後の静かな教室で、あなたの手に自分の手を重ねた瞬間、胸がさらに高鳴る。私たちの指が絡まるように、自然と引き寄せられていく。
「……ねえ、私のこと、本当に可愛いって思ってくれてる?」
勇気を出してそう聞くと、あなたは一瞬目を丸くして、でもすぐに優しく微笑んでくれた。
「うん、いつだってそう思ってるよ」
そう言うあなたの目は、どこか真剣で、見つめられるだけで心が溶けそうになる。
その瞬間、心の中で思い切ってしまえという気持ちが芽生え、私はそっとあなたの手を強く握った。
「じゃあ、……もっと近くで見てもいい?」
自分でも驚くくらい、小さな声でそうお願いしてしまった。
すると、あなたは少し驚いたように目を見開いたけれど、すぐに私の頬を撫でながら、顔を少しずつ近づけてくる。頬に触れるあなたの息が、甘くて温かい。
「君だけ特別だからね。こんなにドキドキするの、君だけだよ」
その言葉に、私の顔が一気に熱くなる。
そして次の瞬間、私の唇にそっと触れる柔らかい感触が……
目を開けると、ほんの少しだけ触れるあなたの唇が見えて、私の鼓動がますます高鳴る。
「……これからも、ずっと隣にいてくれる?」
あなたがそう囁いたとき、私は夢中で頷いた。どんな言葉よりも、今はただあなたのそばにいたい気持ちだけが、胸の中で溢れていた。
放課後の教室に夕陽が差し込む。私たちの間だけに流れる、静かな時間。
「これからも、ずっと隣にいてくれる?」
あなたの言葉に、小さくうなずいた。これ以上の言葉を出すと、心が溢れそうで、ただぎゅっと手を握り返す。
あなたが優しく微笑むたび、胸がぎゅっと締めつけられる。いつか、この瞬間がどこか遠くへ消えてしまうかもしれない……そう考えると、なんだか寂しい気持ちが胸をよぎった。
でも、今はただこの夕焼けの中であなたといることが嬉しくて、その思いが私たちをそっと包んでいた。
並んで教室を出ると、外には淡い夕焼けが広がっている。まるで今だけの特別な景色のように見えて、私はその景色に見惚れた。隣にいるあなたも、同じ景色を見ていると思うと、少しだけ心が温かくなる。
「これから先、どうなるんだろうね?」
そう私が呟くと、あなたは少しだけ考え込むような顔をした後、またふわりと微笑んだ。
「どうなるか分からないけど、今はそれでいいよね」
その言葉に救われた気がして、私は笑ってうなずく。そして、私たちはふたり並んで歩き出した。目の前の夕焼け空がやがて夜に変わるように、この時間もいつか消えてしまうのかもしれない――でも、たとえそうだとしても、今この瞬間だけはきっと本物だと信じたかった。
ふたりで見上げた夕焼けの色が、心の中に静かに刻まれていく。
君と、消える夕陽の中で 斎百日 @ImoiMomoka
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます