第28話 お買い物




 複数のアラームの音にぱちりと目が覚め、俺はスマホに手を伸ばして止めた。

 朝だ。

 一緒に泊まった三人もアラームの音で目が覚めたのか、もぞもぞと体を動かしてそれぞれのスマホのアラームを止める。


「おはよう」


 と声を掛ければ三人から眠い声で「おはよう」が返って来る。

 立ち上がった俺は閉めていたカーテンを開け、朝の光を取り込んだ。


 ……いい朝だ。それに体が軽い。


 昨日は万能な効能を持つ温泉に浸かり、豪華な夕食を堪能した。そのお陰か疲労は完全に抜けて体の内側から活力が漲っている。


「ブロンドさん、今日の予定は?」

「今日は土曜日で学校は休みだ。だからゆっくり買い物をしてから百合園を出て、マンションの屋上で訓練。夕方からは街の見回りになる」

「分かりました。買い物は何を買うんです?」

「ポーションの補充が主かな。あとは適当に欲しい物があればついでに買うくらいだ。ネロは初めての買い物になるだろうから、私かマコトが付いて行こう。どっちに付いて行ってほしい?」

「ふむ……ならブロンドさん、お願いします」

「分かった。マコトはマイカと一緒でいいか?」

「ああ」

「大丈夫です」

「ならそういうことで」


 話し合いが終わり、朝のトイレや着替えなどの支度を済ませて食堂に移動。

 昨日の夜は部屋で豪華な食事を頂いたが、朝は時間の関係かバイキング形式で食事が提供されている。


 ……パンにしよう。


 丁度、焼きたての塩パンがテーブルに置かれたところだった。香ばしい焼きたてのパンの匂いに釣られ、俺はパンに合う料理を皿に盛りつけていく。

 最後に焼きたての塩パンを取ろうとトングに手を伸ばしたところで、隣の人の手と触れ合った。


「あっ」

「あっ」


 お互い声が出て手を引っ込める。

 顔を向ければ、その人は昨日浴場から出る時にすれ違った美少女だった。

 貞淑さを感じさせるロング丈の修道服を着ていて、十字架のネックレスを首から提げ、帽子みたいに簡略化されたウィンプルを頭に被っている。


「あなたはキノウの……」

「そういう君こそ」

「これもなにかのエンデスね。おショクジ、ごイッショなんてどうデスか?」


 おっとどうしよう?

 あっ、ブロンドさん近くにいてこっち見てる。

 ……サムズアップて。オーケーりょーかい。


「……いいですよ」

「ありがとうございます」

「……」

「……」

「あの、お先どうぞ」

「あっ、そうデスね」


 お互い遠慮してしまって少し気まずかったが、俺が促すと彼女から塩パンを取ってくれた。

 俺も塩パンを取って一緒に空いている席を探し、座る。

 対面に座ったシスターな彼女は目を閉じて両手を組んで小声で祈りを捧げ始めた。


 ……これ、待った方がいいんだろうか?


 よく分からずにいると彼女が祈りを中断して目を開けた。


「あの、ワタシのことはおキになさらず、タべてください」

「あー、うん。分かった。いただきます」


 手を合わせてから食べ始める。まずは塩パンから。


 ……美味い。やはり焼きたてのパンは炊き立てのご飯に並んで至高だ。


 味わって食べていると、遅れて祈りが終わった彼女も塩パンを手に取って食べ始めた。余程美味しいのか、塩パンだけを見つめて黙々と食べている。

 俺がコーンポタージュのカップを掴んで飲むと、彼女も自分のお盆に載せた料理があることを思い出したようで、同じようにコーンポタージュを飲み、他の物を食べ始めた。

 お互いに黙って美味しい料理を楽しみ、食べ終わって落ち着いたところで俺から口を開いた。


「そういえば自己紹介がまだだった。私は皇ネロ。ネロが名前だ」

「ネロ、いいナマエデスね。ワタシはセシリア・エメラルドといいます」

「セシリアね。よろしく」

「はい、よろしくおネガいします」

「日本語上手いですね」

「これは、ゲンゴをアタマにゼンブいれるマドウグをつかって、おぼえました」

「ほー」


 そんなのあるんだ。俺も使えば英語が出来るようになるんだろうな。


「イマはカタコトデスけど、スウジツもすれば、スラスラになるらしいデス」

「へー」


 舌の方が日本語の話し方に慣れていないってことか。


「それで、どうして日本に?」

「キョウカイから、ニッポンですごいことがおこったとジョウホウがはいったので、そのチョウサに。それと、カノウならおてつだいとフキョウをしなさいと」

「そうですか」


 情報通りだ。

 セシリア自身はいい人そうだが、そのバックの宗教組織と関わることになると考えると、めんどくさい。


「これからどちらに?」

「シブチョウにアイサツして、チョウサモトでくらすためのテツヅきをしようかと」

「ふむ。案内はいらないかな」

「そうデスね」

「……うん、じゃあ、ごちそうさま」

「はい、ごちそうさまでした」


 知りたいことは充分に知れたので彼女と別れ、俺は部屋に戻った。

 部屋にはブロンドさん以外が戻っていて、マコトが言った。


「ネロ、例の派遣されて来た魔法少女はどうだった?」

「いい人っぽい。来た理由も情報通り」

「そうか。私とマイカは先に買い物に出掛けてそのまま街に帰るから、ブロンドが戻って来たら伝えてくれ」

「はい」

「じゃあねネロ」

「ん」


 二人を見送り、部屋でスマホを手にネット小説を読みながら過ごす。

 暫くするとブロンドさんが戻って来た。


「すまない、遅くなったか?」

「いえ。二人は買い物に出掛けて、そのまま街に帰るそうです」

「了解した。では私たちも出掛けようか」

「はい」


 チェックアウトしてブロンドさんと一緒にリリータウンへ移動。土曜日だからか昨日より人が多い。こういう時、魔法少女の中で飛び抜けて背が高いブロンドさんは目印や人避けになっていい。

 まずは予定通りポーションの補充だ。

 入った魔法薬店は棚に沢山の小瓶が並んでいる。中の薬が一目で分かるよう、色や形が種類ごとに違って鮮やかだ。

 でもそれより、店内の広告が目に留まった。


 えっ、媚薬と催眠薬のセット大特価百万円?

 そんなのマジであるんだ。うわぁ……。


 ドン引きだ。けど多分、インキュバスやサキュバスやリリスの魅了攻撃、エッチな攻撃をしてくるナイトメアへの耐性を得る為の訓練で使用するのだろう。恐らく、きっと!

 見なかったことにし、ブロンドさんの説明を受けつつ、ヒールポーション、キュアポーション、ブラッドポーション、メンタルポーションの四種を数本ずつ購入した。

 ヒールポーションとキュアポーションは一本一万円、ブラッドポーションとメンタルポーションは一本十万円とかなり高い。

 魔法少女カードでクレジット決済をして店を出たところで、ブロンドさんが聞いてくる。


「予定の物は買えた。ネロ、何か買いたい物はあるかな? それかやりたいこと。無いなら私のよく行く店を巡るついでに紹介しようと思っているけど」

「そうですね……魔道具がどういうものか気になります」

「それなら私のよく行く店を紹介しよう」


 ブロンドさんが歩き出し、その後ろを付いて行く。魔法少女の中では飛び抜けて背が高いからはぐれる心配がないのはいい。




 そのまま少し歩いて魔道具店に到着。

 中に入れば、一見するとただの道具にしか見えない物や、漫画やアニメに出て来るような道具が展示されていた。


 空飛ぶ箒、透明化ピンバッチ、浮遊ライト水晶、閃光玉、小型パンジャンドラム、使い捨て強力バリア、使い捨て転移魔法陣、使い捨て魔法スクロール、属性変換結晶……色々ある。

 ん? 奥にあるのは……銃だ。銃が置いてある。


 奥に行くと多種多様な銃が鍵付きのガラスケースの中に展示されていた。鎖も巻かれていて厳重だ。

 商品説明のポップがある。


 なになに……魔力を即座に変換して撃ち出す魔力銃。横に付いているつまみを回すことで射出魔力の調整が可能。


「へぇ」


 いらないな。自前で作れるし。

 なんならこの前、魔力で実弾を生成して撃ってたし。


 んん??


 興味を無くして別の場所を見に行こうと歩き出した時、視界の端にある物が目に入り、数歩戻って確認した。

 SFチックなデザインをした、両手で持てる程度の長さの円柱形の金属の筒が台に針金で固定されてガラスケースに収められていた。シルバーの名札には『魔力収束剣――略して魔剣』と書かれており、値段は12の後ろに0が沢山付いている。

 名札と同じシルバーのポップがあるので読んでみる。





 天才魔道具職人、多々良ツイナが作成した最新の魔道具。

 収束した魔力を刃として展開し、超高熱、高周波、魔力の輝きによってSF映画やゲームの剣士の気分が味わえる。刃の色は本人の魔力色によって変わる。

 ただし、起動には莫大な魔力が必要であり、掠るだけで大怪我に繋がるので扱いには注意が必要。

 刃は魔力の膜で覆われているので、雨や水中でも使用可能。込めた魔力は柄の中の魔力セルに溜め込まれているので、魔力回復手段として取り出すことも出来る。





「なにこれめっちゃ欲しい。値段は……」


 いち、じゅう、ひゃく、せん、まん、じゅうまん、ひゃくまん……一億二千万かな?

 間違ってるかも。

 いち、じゅう、ひゃく、せん、まん、じゅうまん、ひゃくまん……うん、一億二千万だ。


「高い……」


 流石に高額過ぎる。クレジット決済だから無理をすれば購入は可能かもしれないが、返せる目途も無いし利息がどうなるか分からないから怖い。


 でも欲しいっ!


「どうしたネロ?」


 悩んでいるとブロンドさんが来てくれた。


「あの、これ」


 と魔力収束剣を指さしてみる。


「ん? ほぅ……あの多々良の新作か」


 ブロンドさんは興味を持って説明書きを読み、フッと笑った。


「これが欲しいのか?」

「あ、えっと……はい」

「いいよ。買ってあげよう」

「……えぇ?!」


 買えるの?

 そんなにあっさり?!


「君は新人ながらリリスと戦い生き残った。それだけで称賛に値する。だからこれは私なりのご褒美だよ」

「いやでも、高くないです?」

「なに心配いらない。使い道の無い貯金が数十億はある」

「マジですか! でもそれ、言ってて悲しくならないです?」

「……はは」


 あっ、察し。


「もし、買ってもらうのが不満なら、出世払いで半分ほど返してくれればいいけど、どう?」

「お願いします」


 ぺこりと頭を下げる。

 無利子無期限の返済額半分なら、乗らない手は無い。


 店員を呼んでブロンドさんに魔力収束剣――略して魔剣を買ってもらった。

 その後はブロンドさんがよく行く店を巡り、百合園を出て街に帰った。


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