第27話 温泉での出会い
渡り廊下を通って隣の建物の中にある撮影スタジオに到着。
頑丈なドアを開けたリッカちゃんに促されて入ると、背後でガチャリと鍵を閉められた。
「あの、リッカちゃん?」
「これが楽しいから、協会勤めは辞められないんですよね」
「? 何を言って」
――背後に気配っ!
振り返るとスーツ姿の少女が二人、両手を前に出して指をわしわし動かし、ニンマリ笑顔で至近距離まで迫っていた。
「さぁ新人の皇ネロさん、着替えましょうねー!」
「大丈夫。リッカちゃんから特徴を教えてもらってたから、似合う衣装の準備は万端だよ!」
あっ、これ着せ替え人形にされるやつだ。
察して諦めた俺は、されるがままに服をひん剥かれ、撮影用の衣装に着替えさせられて化粧や髪型をセッティングされた。
「よし完成! 素晴らしいよネロさん」
「やはり素材がいいと映えますなぁ」
「お似合いですよ、ネロ様」
「あの、これ恥ずかしいんだけど……」
今着ているのはどう見ても勝負下着なスケスケのベビードール。ショーツも紐とクロッチ部分以外がスケスケで、羞恥心が煽られて顔が熱い。
これ絶対お前らの趣味だろ!
不服だと言わんばかりに睨んでみるが、三人は満足そうに微笑むだけで効果が無い。
「では撮影を始めましょう」
「撮影は任せろー!」
「はいネロさん、そっちに移動してねー」
撮影スペースに移動させられ、俺は早く終わって欲しい一心で指示に従い、ポーズを取って笑顔を振りまいた。
だが、その考えがいけなかったとすぐに後悔した。
「はいオッケーでーす!」
「いや~ネロさんなかなかノリいいですねぇ! これならもっと色々撮っていいんじゃないです?」
「許可します」
「えっ!?」
「はいリッカちゃんから許可下りましたぁ!」
「じゃあネロさんお着換えしましょうねー」
「えぇ?!」
俺の許可は……?
流されるまま、俺は次々と衣装を変えて撮影された。
猫のセクシーな下着、金色ビキニ、競泳水着、ブルマの体操服、フリフリでスカート丈の短いメイド服、ミニスカ巫女服、スリットがエグいチャイナ服、タイトなナース服……等を着た。
ポーズだって、セクシーからエッチなものを色々と要求された。羞恥心が限界になって涙目になりながらやっていたが、それが三人にとってそそられたようで、テンション爆上がりの状況を止められなかった。
「フゥッ!! ネロさんサイコー!」
「すげぇよ! ここまで初々しい反応は久々だよ!!」
「大変満足しました。練習はこれくらいにして、本番を始めましょうか」
「はい!」
「はい!」
「はぁ!?」
今までのこれ、練習だったの!?
「おい副支部長、どういうことだ?」
場合によっては殴る――のはダメそうだし、イタズラを敢行してやる。
「ごめんなさい。けどこれは新人魔法少女全員に課している、羞恥心に慣れさせる訓練を兼ねてるんです」
「訓練?」
「はい。ナイトメアの中には下心から生まれる、エッチなことをしてくる存在もいます。ご存じですか?」
「まぁ……」
図鑑を読んだから知ってる。何体かいるが、そいつらは全て『やられる前にヤレ!!』って書かれるくらいにヤバい奴だ。最悪、リリスに堕とされる危険性もはらんでいる。
「そういう輩と対峙した時、耐え難い恥辱を経験しているとしていないとでは心の余裕も違いますから。だから私たちは敢えて行っているのですよ」
「……本心は?」
「女の子の恥ずかしがる姿、凄く楽しいですね♪」
こいつ、満面の笑みで言い切りやがった……!
関わりたくなくなった俺は一歩下がった。
「あら、私と仲良くしてくれないのですか?」
「流石にちょっと遠慮する」
「だよなぁ」
「私らもリッカちゃんと仕事以外で付き合うのは遠慮したい」
「……あなたたちも、撮影に参加します?」
「さーネロさん撮影の続きをしましょう!」
「そうしようそうしよう! 次は普通の衣装にするからねー」
怖い微笑になったリッカちゃんに脅され、二人はテキパキと動き始めた。俺も怖いから何も言わずに従い、普通の衣装を着て撮影に入った。
最後は魔法少女衣装にハットとステッキを装備してのカッコイイポーズで撮影が終わり、俺はリッカちゃんの案内で温泉宿へと移動した。
協会を挟んで反対側に純和風の旅館がある。受付でマコトたちの部屋番号を聞き、無事に部屋の前まで来た。
「では、私は協会に戻りますね」
「ありがとうございました。また会い、ましょう。リッカちゃん」
「ええ。また会いましょう」
彼女はメイドらしく背筋を伸ばし、優雅に歩いて去って行く。
……正直、また会いたくは無いな。
そう思った。
気を取り直してインターホンを鳴らす。少し待っているとドアが開いて、浴衣を着たマイカが出て来た。
「あっ、ネロ。撮影終わったんだ。どうだった?」
「酷い目に遭った」
「でしょうね。どんな服を着たかは聞かないでおくわ」
「そうしてくれると助かる」
「立ち話もなんだし、中に入りなさいな」
「うむ」
中に入ると部屋は畳敷きで、真ん中に高そうな木のテーブルがあって分厚い座布団が敷かれている。奥には小さなテーブルと椅子があり、窓からは苔むした石やしっかりと剪定された草木の生えた、侘び寂びが感じられる日本庭園が見えている。
「ん? 二人はどこに?」
「気晴らしにカジノに行ったわ」
「カジノあるんだ」
「興味あるなら行ってみる?」
「いや、今は温泉入りたい」
「そうよね。はいこれ、あんたの浴衣」
「ありがとう」
浴衣を受け取り、部屋を出て温泉に向かった。
道中で浴衣を着た少女たちにすれ違いつつ目的地に到着。百合園は魔法少女しか入れない為か、脱衣場の入り口は『ゆ』と書かれた赤い
性自認が今だに男なのでちょっと気まずく感じながらも暖簾をくぐって脱衣場に入る。
昔ながらの木の棚に竹の籠が入った服置き場があり、ドライヤーや試供品の保湿クリームなどが置かれた洗面所が並んでいる。奥には大型扇風機やタオル置き場、体重計、給水タンクと、瓶牛乳やフルーツジュースが入った冷蔵庫がある。中の物は無料らしい。
今この場には誰も居らず、悠々と制服と下着を脱いでタオルを手に浴場に入る。
「むっ、この匂い……
思わず深呼吸し、檜の香りに混じる温泉の匂いを取り込んだ。自然と顔がほころんでしまう。
湯気が充満する浴場は室内で、数十人が入れるほどに広い。今は空いている時間帯なのか人の気配は無く、真ん中には檜の板で作られた巨大な浴槽があり、金の
興味はあるがまずは頭と体を洗うのがマナーだ。俺は洗い場に移動して頭と体を洗った。
それから髪を纏めてタオルを巻き、体を温める為に檜風呂に浸かる。
「あぁ~~」
ごくらくごくらく……。
疲労がみるみるうちに取れていってるのが分かる。魔力は昨日の時点で回復してるけれど、内側でさらに燃え上がり始めた。
「……さて、ドアはなんだろな?」
檜風呂から上がって幾つかあるドアを見ていく。
ふむ……一つはサウナ。後は泉質の違う露天風呂か。
「なら、この白色温泉に行ってみるか」
扉を開ければ、竹柵に囲まれ草木で飾り付けられた露天風呂が広がっていた。岩で自然風に作られた浴槽には真っ白に濁った温泉が貯まっており、奥の小さな滝から温泉が流れている。
期待を胸に抱いて浸かる。
「…………いいな」
詩的な感想なんていらない。さっきの檜風呂とはまた違った温泉の心地良さが、心身共に染み込んで満たしてくれる。今日の撮影による心の疲れと、今までの戦いの苦労を全身で労われているようだ。
水の落ちる音を聞きながら目を閉じて温泉を堪能していると、出入り口のドアが開く音が聞こえた。
意識を向ければ高い魔力が感じられ、目を開けて確認すると、そこにはピンク髪をクリップでアップスタイルにした美少女がいた。
「あっ、人いたんだ。こんにちは」
「どうも」
挨拶されたので会釈を返しておく。
抜群のスタイルと、可愛らしさと美しさを兼ね備えた顔を持つ彼女は、温泉に入ると少し離れた位置でしっかりと浸かった。
……どっかで見たことあるような……。
「あの、私に何か用かな?」
「あぁ失礼。どこかで見たなと思ってね」
「えぇっ! あなた私を知らないの!?」
「? ああ。知らない」
「マジかー。まだ私を知らない人がいるなんて、流石に驚いたわ。でもそれなら自己紹介しなくちゃいけないね」
彼女はわざわざ温泉から出て言った。
「歌って踊れるアイドルにして凄腕魔法少女、
自己紹介と共にくるっと回ってポージング。
一瞬にしてカッコ可愛いアイドル風の制服っぽい魔法少女衣装に着替えており、ピンクの瞳の中に輝く星を出し、魔法を使って星型のキラキラエフェクトを周囲に漂わせた。パフォーマーとしては完璧な自己紹介だ。
「……思い出した。テレビに出てた魔法少女アイドルか」
「そうだよ☆ 自己紹介したんだから、あなたも名乗って欲しいな」
「ん、それもそうか」
舞台に立つ者として対抗心が出た俺は、温泉から出て彼女の前に立った。
「ハットにステッキが特徴の奇術師魔法少女、皇ネロだ」
ハットとステッキを瞬時に生成。それから変身して一瞬で魔法少女衣装になり、カッコイイポーズを取って色とりどりの紙吹雪を派手に散らせる。
指パッチン。
ゴミになってはいけないから紙吹雪を小さな光の玉に変えて消した。
「おぉ! マジカルマジックマジシャンガールだね☆」
「マジ――なんて?」
「マジカルマジックマジシャンガール。魔法のような奇術を使う魔法少女だよ」
「あーなるほど。噛みそう」
「だよね。でもなんか頭に残りそうじゃない?」
「確かに。とりあえず温泉に入ろう」
「あっうん」
自己紹介も終えたので、俺たちは裸に戻って再び浴槽に浸かった。
「ねぇネロ、良かったら私と一緒にステージに上がってみない? アイドルをやろうって誘いじゃないけど、歌の間の余興として軽くパフォーマンスしたらすっごくウケると思うんだ。なんなら、私がマジックのアシスタントやってもいいよ」
「有り難い申し出だが、すまない。今ちょっと自分の担当エリアが立て込んでいてね、暫くは街から離れられそうにない」
「そっかー。それは残念。因みにどこのエリアなの?」
「新東京市の都市部」
「えっ、それって昨日大事件があった場所だよね?!」
「うむ」
「……頑張ってね。応援するから」
「ありがとう」
それから他愛ない話を振られて適当に相槌を打っていた俺は、充分に体が温まったので先に温泉から出ることにした。
脱衣場へ戻る直前、自分と似た抜群のスタイルに、プラチナブロンドの長髪で緑の瞳の色白美少女が浴場へ入って来た。
「これがニッポンのオンセン……スバらしいデスね」
外国人らしい鈍りのある日本語で感慨深げに呟き、彼女は俺が入って来た時のように深呼吸した。
……まさかな。
気にはなったが今声を掛ける理由も無いので、俺は横を通り過ぎて脱衣場へ入った。
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