File49 放射線室とオーパーツ
暗闇にスマホのライトが輝いた。
出口と大倉沙穂、そして大塔の位置を確認してすぐに明かりを消す。
星崎の手をしっかりと握りしめて僕は出口の方に走った。
足がもつれる。
恐怖で一歩踏み出すのが怖い。
それでも空いた手を前に突き出して暗闇を走る。
背後では大塔の怒鳴り声が鳴り響いていた。
「アレが貴様らの狙いなんだろ……⁉ アレに手を出すな……! アレは人の手に負える代物ではない……!」
相変わらず意味がわからない。
だいたい僕を殺そうとした奴の言うことなんか構うもんか……
それに呼応するように大倉沙穂の不気味な笑い声が木霊し、それは大塔の悲鳴に変わる。
廊下に出たあたりでもう一度ライトを点けて地形を確認すると、僕は再びライトを消して星崎に囁いた。
「壁に手を当てて、出来る限り進むぞ……」
「この暗闇は逃げるのに好都合。空野でかした」
最後の言葉がなんとも締まらない。
それでも今はそんなことを気にしている場合ではない。
僕らは壁伝いに進み、階段の位置まで戻ってきた。
「もう逃げよう……今度こそ死ぬかもしれない」
必死に訴えるも、彼女は首を縦には振らない。
「大塔の話が本当なら黒幕がいる。それに、さっき大塔が叫んでいたアレの正体も気がかり。放射線治療室に行けば二つの謎が解けるかも」
「もっとヤバい化け物が潜んでるんだぞ……?」
星崎の顔を頼りないスマホのライトが照らす。
その顔には見たことの無い表情が輝いていた。
「空野がいれば、大丈夫」
ずるい……
そんな顔で、そんなこと言うなよ……
親からもほったらかされて、誰からも期待なんてされてない僕に、そんなこと言うなよ……
胸の奥が再び熱を帯びるのを感じた。
この顔を、がっかりさせたくないと思ってしまった。
僕は大きなため息をついてから、階段に背を向け闇の方を向く。
星崎には今の顔を見られたくないから。
「お前ってほんと調子いいよな……?」
「思ったことを言っているだけ」
四度目の霊安室を通り過ぎ、僕らは放射線治療室にたどり着いた。
当然のことながら『治療中』のランプは消えていた。
さっきのことを思い出し、僕は鍵の束を取り出して鍵穴に突き刺す。
カチ……
今度は一度目で扉が開いた。
「ライト……点けるぞ?」
「うん……」
中は他所と比べてはるかに綺麗だった。
機材にはシートがかけられていて、埃から守られている。
台の上には見るからに人のシルエットをした何かが横になっていて、やはりシートを被せられている。
ゾクリと肌が粟立った。
「こいつが化け物なんじゃないか……?」
小さく指をさして囁くと、星崎はズイ……と前に出てそのシートを勢いよく引きはがした。
「おい……⁉」
止める間もない早業に僕が叫ぶと同時に、シーツの中身が姿を現す。
そこには理科室の骸骨のような模型が横たわっていた。
ただ一つだけ理科室の骸骨とは決定的に異なる点があった。
「なんだこれ?
僕が拍子抜けして首を捻る隣で、星崎は冷や汗を流しながら固まっている。
星崎は今まで大事に抱えていたトートバッグからポラロイドカメラを取り出し、一度だけシャッターを切った。
眩いフラッシュが部屋を包むと同時に、ガラスの髑髏がこちらを向く。
僕は思わずのけ反って叫んだ。
「ほ、星崎……⁉ 今こいつ動かなかったか?」
「動いても不思議ではない……」
星崎は神妙な顔でつぶやくと、僕のリュックに手をかけてジッパーを開いた。
「おい⁉ 何してるんだよ⁉ まさかお前……」
「持って帰る……わたしの見解が間違っていなければ、これはクリスタルスカル……製造方法不明の
ずっしりとした重みが背中に加わった。
大塔の言っていたアレは、こいつのことで間違いないだろう……
呪われるとかマジで勘弁してくれよ……
諦めを多分に含んだため息を吐いて辺りを見回すと、頭蓋骨があったちょうど真上に何かを照射するための機材が位置している。
「なあ、これで放射線を当てて中身を調べてたのかな?」
星崎の返事は無い。
「おい、星崎?」
振り返ると、星崎の視線の先には防護服の男が直立不動で立ちすくんでいた。
その手には、医療用の丸鋸が握られ、何かを切断する時が来るのをじっと待っているように見えた。
「う……う……うぃいいいいいいいん……!」
男は動かぬ丸鋸を振り上げて叫ぶ。
お前が言うんかーい……!
思わず心の中で突っ込んだのも束の間、男の振るった丸鋸が当たったステンレスの台は、レーザーで焼き切ったように断面が赤く燃えていた。
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