File17 本棚と密会
昨日とは打って変わって出ていく教師とほとんど入れかわるようにして担任がクラスに入ってきた。
小林からの依頼を思い出し、僕はまじまじと男性教師の顔を観察する。
アリ先……
正直意識したことはなかったけれど、言われてみれば確かに整った顔立ちをしている。
ひょろりと背の高い優男で長方形の銀縁メガネが知的さを演出していた。
高校の教師にしてはいささか長すぎる黒髪を後ろで束ね白衣を纏った出で立ちは、確かにある種の女子たちから人気を博するのも頷ける。
「よーし! 今日はすぐ来たぞ! な? ちゃんと約束守ったろ?」
生徒たちに向かってアリ先が親しげにそう言うと、女子生徒だけではなく男子生徒たちからも応答の声があがる。
なるほど……男子にもそれなりに人気らしい。
僕はまったく好きになれないけど。
こいつと小林をくっつけるって……
星崎め……
余計な仕事を増やしやがって……
意趣返しのつもりで星崎に向かって目を細めると、彼女は素知らぬ顔で視線を逸らした。
そうこうする内にホームルームも終わり、僕らは第二図書室に足を向ける。
けれど小林の件もあり、なんとなく周囲の目が気になって、結局僕らは別々に第二図書室に向かった。
あの日と同じように僕は本棚の谷間に潜り込む。
すると、しばらくして棚の向こうに星崎が現れた。
「それで? 何をどう進めていくんだよ?」
「いろいろ考えてた。まずは昼間の公園を調べる。それと町の図書館に行って、過去にあの公園で起きた事件がないかを調べようと思う。過去にも行方不明や不可解な事件があれば、共通点を洗い出してお化けの正体に近づけるかもしれない。明日は昼前に図書館に集合」
「わかった」
声を潜めて本棚越しに話す。
ただそれだけで、何となく日常の気配が遠のいていくような気がした。
それは胸を躍らせるというには寸足らずで、恐ろしいというには嘘くさ過ぎる。
それでも確かに、僕の灰色の日常に小さな亀裂を生むには十分で、そう考えると僕は少しだけゾクゾクした。
いつの間にか完全に星崎のペースに乗せられてしまったらしい。
帰り道の暗闇と十一月末期の冷たい風に頬を刺されながら、家に着いたらネットで情報でも集めてみようと、僕は密かに思い立ち、星崎の驚く顔を想像して少しだけ愉快な気持ちになった。
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