File16 陰謀論とオルタナロック
「空野、今日の放課後は空いている?」
教室に戻る途中、いきなり星崎がそう尋ねてきた。
「まあ……」
僕がそう答えると、星崎は周りを確認してから小声で言う。
「なら第二図書室に集合。作戦会議」
星崎はそれだけ言うと教室とは違う方へと踵を返した。
「おい! どこ行くんだよ⁉」
ピタリと足を止めた星崎がこちらを睨みつける。
「空野はデリカシーがゼロ。いちいち教える必要はない……」
そう言って星崎は廊下の角を曲がりどこかに行ってしまった。
「なんだよ! 失礼なやつ」
憤慨して教室に戻ると僕の席はまたしても占拠されていた。
今朝の二の舞になるのが嫌で、僕は廊下の窓から外を眺めることにする。
イヤホンをはめれば
僕も逆位相の波長を出して、この世界をキャンセル出来ればいいのに……
そんなことを思いながらテキトーに曲を流していると、肩を叩かれ振り返る。
振り向いた頬に人差し指を突き刺されながら、僕は不機嫌な声で言った。
「なんだよ?」
星崎は口をパクパクさせただけで声を発しない。
イヤホンと曲のせいだと気づいて僕はスマホの画面をタップする。
「なんだよ?」
想像以上に大きな声を出している自分に気づき、僕は慌てて周りを見渡した。
しかしそんなことを気にする者は誰もいない。貴重な昼休みなのだ。
星崎もまたお構いなしに指を突き刺したまま僕に言う。
「空野は電磁波を侮りすぎている。ブルートゥースイヤホンは脳に直接作用して危険」
「別に僕の勝手だろ? それより指どけろよ!」
「……忠告はした。何を聞いている?」
星崎は興味深げに僕のスマホを覗き込もうとしたけれど、僕は何となく見られたくなくてスマホを遠ざけた。
「さては……エッチなボイスドラマ……」
「そんなわけないだろ!」
いつもの倍くらい目を細めた星崎に乗せられる形で、僕はスマホを見せることにした。
変な誤解をされたままよりずっといい。
「最近よく町で目にする曲……こういうのが好き?」
「別に。ただ周りの音を遮断したいだけ」
「YOUTuneは見れる?」
星崎はスマホを指して言った。
「当たり前だろ……」
「聞かせたい曲がある」
星崎がスマホを貸せと身振りで伝えてくる。
僕は渋々スマホを差し出した。
星崎は英語で何かを打ち込むと今度はイヤホンを指さして手のひらを出してきた。
片方貸せということらしい。
「ブルートゥースは危険とか言ってませんでしたっけ?」
「一度でどうこうなるものではない」
仕方なく右のイヤホンも手渡すと、星崎はそれを耳にはめてスマホの画面をタップした。
同時に大音量のエレキギターが僕の頭を吹き飛ばす。
爆音のギターリフとそれを支える安定したドラム。
歪みまみれのベースが浮かび上がれば、ボーカルの掠れた声が挑戦的にリリックを囁いた。
「Killing in the name of……‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼」
他はほとんど聞き取れない英語のリリック。
それでも伝わる言外のナニカ。
今まで感じたことのない衝撃が、左の鼓膜をぶち抜いて心臓に熱い血を送る。
ドクドクと流れる血の感触と、収まる気配のない二の腕の鳥肌を感じながら僕が呆然としていると、星崎はにやりと笑ってこちらを見た。
「その顔は気に入った顔。彼らは‘‘‘Rage Against The Machine‘‘。ボーカルのザック・デ・ラ・ロッチャは、政府の危険性を公然と批判する歌を歌い続けている」
「彼らも陰謀論者……?」
僕の問いかけに、星崎は静かな声でこう答えた。
「わたしはそうは思わない。この音楽は本物」
僕は未知の衝撃を引きずったまま午後の授業を上の空で消化し、下校間際のホームルームを迎えた。
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