File13 昼休みと侵入者

 気持ちの落ち着かないまま午前中の授業が終わり、昼休みがやってきた。

 

 星崎と教室に戻った時には、僕の席に人気ひとけはなく、あの出来事も幻だったんじゃないかと思うくらいだった。

 

 それでも確かに逃げ出した自分は存在していたし、司書の爺さんと重なった未来も、手でさわれるくらいリアルな気がした。

 

 教室への廊下を歩きながら、星崎はこんなことを言った。

 

「わたしとの接触は極力控えた方がいいかもしれない。巻き込んでおきながら言えたことではないけれど……」

 

 僕はなんと返していいのか分からず、ただ黙って隣を歩いていた。

 

 情けなくて、みじめで、それなのに星崎の存在が何となく心強て……

 

 結局それから授業の間も、三度あった休み時間も、僕はちらちらと星崎を見ながら過ごす羽目になってしまった。

 

 星崎はというと、こちらには一瞥もくれることなく膝の上に手を乗せて真っすぐ前を見つめたまま微動だにしなかった。

 

 かと思えば突然思い出したようにノートに何かを書き込んでまた元の姿勢に戻る。

 

 そんな奇行とも言えそうなパターンを繰り返す星崎が、何を考えているのかは相変わらずさっぱり分からない。

 

 ただ分かったのは、どうやら星崎はまったく教師の話を聞いていないということだけだった。

 

 その豪胆ぶりは凄まじく、指名されてもお構いなしで前を向いたまま固まっている。

 

 教師の方もいつものことなのか気にする様子もなく、そのまま後ろの席の生徒に指名を移していた。

 

 自分が本当に周囲に関心を持ってこなかったことを改めて痛感する。

 

 ただ、仮に人並みの関心があったとしても、星崎に注目することはなかっただろう。

 

 僕はまたしても「なぜ僕に声をかけたのか?」という疑問に頭を悩ませた。

 

 答えを導きだすには公式も前提条件もなにもかもが足りな過ぎて、僕はやはり思考に蓋をした。その時だった。

 

「てんこー! 空野ー! お昼ご飯食べよー!」

 

 耳をふさぎたくなるほどの大音量が後ろのドアを開いて教室に侵入してくる。

 

 その時、今日初めて星崎と僕の目があった。

 

 星崎は奇妙な手信号を送って僕に何かを伝えようとしている。

 

 む・し・し・ろ

 

 何となくそう言っている気がした……

 

 僕がこくりと頷くと、星崎もこくりと頷き返す。

 

 しかし侵入者の方が一枚も二枚も上手だったらしい。

 

「てんこー! 空野ー! どこー? 三限で居眠りしてコンタクト外れて見えないー! あ? そこのお方! 空野くんと星崎さんどこにいる?」

 

 このコミュ力お化けめめめめめめめめ……!

 

 唇の化身ががががががが……!

 

 表情から察するに、僕と星崎は似たようなことを心の中で叫んでいたと思う。

 

 結局僕らは侵入者に捕らえられ、食堂へと連行されることになってしまった。

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