File2 第二図書室と電波少女

 僕は訳のわからない発言に思考が追いつかずに固まってしまった。


 なんだコイツ?

 なんでいきなり僕にそんなこと言うんだ?


 そこで一つの考えが頭に浮かび、すぅ……と気持ちが冷めていくのがわかった。


 僕は小さなため息をついてから本の隙間に向かって言う。


「これって罰ゲームか何か……? 悪いけどそういうの興味ないから」


 できるだけ相手を喜ばせないように無感情を装い素っ気ない言葉を選んだ。

 しかしそんな僕のことなどお構いなしに、向こうは周囲を警戒しながら一枚の紙切れを差し出してきた。


「これはワシントンDCの航空写真」

「はあ?」

「ちゃんと見て。ほら。ホワイトハウスを頂点に五芒星が出来上がってる。道路の建設計画時点からデザインされた、明らかに意図的なものだよ。こっちは。フリーメーソンのシンボルなのは知ってるよね? 細かい話は端折るけど、世界のトップはレプティリアンと呼ばれる宇宙人に掌握されてるの」


 いやいやいや……こいつ電波かよ……


 いきなりまくし立てられた言葉が荒唐無稽な陰謀論って、どういう状況だよ。これ。


 僕は特大のため息をついてからあからさまに面倒くさそうな声を出して言った。


「それは凄いですね……でもどうせならさっさと地球を滅亡させて欲しいくらいだよ。悪魔崇拝の連中は神が作った運命に反抗してるんだろ? 決められたクソみたいな運命をぶち壊したいなら、さっさとそのに頼んで地球を滅ぼせばいいんじゃないかな?」


 本棚の向こうからじっとりとした視線を感じて目をやると、相手は少し怒ったような低い声でこう答えた。


「それは空野が”死ぬ”ってことの恐ろしさを理解してないから言える言葉だよ。それにレプナントカじゃなくてレプティリアン。奴らは人類奴隷化計画を進行中で、地球滅亡が目的なわけじゃない」

「はいはいそうですか。ていうかお前、何で僕の名前を?」

「お前じゃない。同じクラス。三年三組の星崎。クラスメイトの名前くらい知ってる」


 いや知らない……


 そんなことより同じクラスならまだホームルームの真っ最中のはずだった。

 それなのになんでこいつはこんな場所に?


 考えられるのは、僕が教室を抜け出したのを見て後を尾行つけてきたということ。


 いやいや何のために?


 訳が分からないことが多すぎる。

 僕は考えるの諦め、手に持っていた紙を本の隙間から突き返しながら尋ねた。


「それで……僕に何か用なの?」

「うん」


 星崎はそう言って静かに頷くと、紙ではなく僕の手を掴んだ。

 驚いて咄嗟に覗いた先にあった星崎の瞳は、イタズラや罰ゲームとは到底思えない真剣な光に満ちている。


「力を貸してほしいの。すごく良くないことが、起こり始めてる気がするから」


 柔らかく冷たい星崎の手から、なぜかその時、僕は熱を受け取ってしまった。

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