『シップ』 3

やましん(テンパー)

『シップ』 3

 

 『これは、すべて、フィクションであります。ただし、船で台風に作者が遭遇したことだけは、事実であります。』




 船の旅というものは、揺れなければ快適なものだ。


 揺れなければね。


 だが、嵐に遭遇したら、何が起こるかわからないのだ。たとえ内海であっても、海は海である。 


 シマーヤンが若い時分の話である。


 母方の祖父がきとくとの知らせを受けたため、台風の中を、あえて瀬戸内海を渡ることとなった。


 当時はまだ、人工衛星はアメリカ頼りで、今のようには進んだ予報技術がなく、また、インターネットとか、GPSとか携帯電話も(お金持ち以外には)ない時代である。


 もちろん、橋はない。


 台風が来ていることは間違いがないのではあるから、もはや飛行機も飛ばなかっただろうが、そもそも飛行場が近くにはないし、ぐるぐるまわるだけで、よけいに時間がかかるから、どっちにしても、当時は飛行機は使えない。


 鉄道とフェリーボートや連絡船がより早く、頼りであった。


 日付が変わる間際に、本州側の港には着いたが、真夜中の船便が出航するかどうか、かなり判断にてまどっていたらしく、なかなか動きがとれなかった。四国側の状態があまり宜しくなかったらしい。うどんを食べて時間をつぶした。もちろん、船会社には、電話や無線はあったわけだが。


 しかし、船会社は、ぎりぎりになって、ついに出航を決意した。ただし、もしも四国側に着岸できなかったら本州側に帰る、という条件付きだった。本州側の港は、島に大きく前を囲まれていて、荒れにくかったのである。


 出航したあと、前半は、割に楽に進んだ。これなら、楽勝だね。と、皆が思ったに違いない。


 しかし、後半は、そうはゆかなかった。


 航路がくねくねと屈曲するうえに、ついには来島海峡という難所がある。台風が接近してきたのか、かなり海は荒れだしていた。


 このあたりは、海上が突然開けていたりもして、思わぬ突風が吹くし、浅瀬があったりもして、昔から危ない海域であった。


 まさしく、魔が住む海域なのだ。いまだに、時には事故が起きる。


 もう、半分はとうに過ぎたというあたりで、フェリーボートは、突然、エンジンが停止した。


 原因は分からない。


 しかも、急激に波風が強くなってきていた。


 『わわわわ。波が、船より高くなったよ。』


 シマーヤンは、まだ、高校生である。


 しかも、意気地無しだから、なかなか、自分でも扱いにくい。


 ま、それでも、ここは、瀬戸内海とはいえ、海のど真ん中である。逃げる場所はない。さらに、かなりしけてきている。


 かつては、大きな海難事故も、なんどか起こってきた。


 例えば、『紫雲丸事故』は、都合5回もあったのだが、最悪なのは、1955年に起こった事故である。シマーヤンが生まれる直前の、時期である。


 それから、このときまでは、20年ばかりが経過していることになる。


 エンジンが止まったら、ほっとけば漂流する。


 が、船長は、瀬戸内海はベテランの名人だった。村上水軍の子孫と自称してはいたが、そこらあたりは、ほんとうには、良くは分からない。


 『島にぶつけるわけにはゆかないし、停泊もできないです。船長、どする?』


 航海士が叫んだ。


 『まかせろ。おいらには、魔物がついているからな。はははははは。』


 船長は動じない。


 『このあたりには、瀬戸内海のローレライが住んでいる。』


 『はあ? そんなん、はじめて聴きますが。』


 『初めて言ったからな。』

 

 『ぶっ。』


 『いいか、ローレライは、恋人を失った美人だとされるが、その恋人とは、おいらのことだ。』


 『はあ? 船長、のろけてる場合じゃないすよ。』


 『ほら、みろ!』


 『え? わっ! げっ!』


 まっ暗闇だが、対岸の街の光が反射するのか、急激に接近してくる島の頂きがなぜだか、浮き上がって見えている。そこは、まあ、瀬戸内海である。


 しかし、そこには、なにやら、怪しい物体が、きらきらと、輝いていたのだ。


 『なんだ、あら?』


 航海士は、双眼鏡を構えた。


 光る、人のような姿にも見えるのだが、揺れるし、良くは、分からない。


 『あれこそ、瀬戸内のローレライよ。』


 『あのね! あややややや。船長あぶない。』


 不気味な奇岩が掠めて行く。



 そのとき、シマーヤンは、窓枠の彼方に見たのだ!


 『ありゃ。なんだろ?』


 船だ。間違いなく船だ。


 しかし、なんと、帆船である。


 それも、かなり大きいが、また、相当に古いぞ。


 『幽霊船かあ!』


 と、シマーヤンが声をあげた。


 となりのおじさんが言った。


 『あほか。いまどき、台風だからって幽霊船がでるものかっ、て。 わ! でたなあ。でたよ。おい、あれ見ろよ!』


 おじさんは、仲間のドライバーたちに呼び掛けた。


 『な、なんだろ。海賊かな。寄ってくるぜ。ぶつかるぞ。わわわわわ。逃げろや〰️〰️💨』


 シマーヤン以外は、みな、反対側に走った。


 シマーヤンは動けなかった。



 海賊船か、幽霊船かは、もちろん、ブリッジからも見えていた。


 『船長、ありゃなんだあ。』


 『ふん。ついに、でたか。狙いは、おいらさ。卑怯なやつらだ。マイクよこせ。』


 『はあ?』


 『🔊 ゆうれいども、よっくきけ。おいらは、逃げも隠れもしないが、こいつは、客船だ。お客をしずめるなんざあ、まっとうな海賊がすることじゃねぇ。港に着かせろ。決着はそれからだあ。おいらは、また、帰ってくる。彼女が泣くぜ。』


 すると、近寄ってきていた、その幽霊船か海賊船が、すっと、霧のなかに消えるようにいなくなった。


 たちまち、エンジンがかかり、フェリーボートは、そのまま、対岸まで無事にたどり着いたのである。荒れる港に着けるのは、なかなか、難しかったし、いつもより時間を要しはしたが、そこは、名人だったわけだ。


 

  ⛴️⛴️⛴️⛴️⛴️⛴️⛴️⛴️


 

 シマーヤンは、次第により激しく荒れる港から、タクシーで親戚宅に着いたが、もう、明け方近くになっていた。


 あの、怪しい船はなんだったのだろうか?


 今となってはわからない。


 あとから、噂で聴いた話では、戦時中かその直前に、ある島の美少女を巡る、若い船乗りたちの抗争があったという。


 中には、富豪の子息もあり、古代の帆船を再現したりしていた。彼は、少女の親から、婚約を取り付けたが、ある船員に殺害されたらしいと噂されたが、もはや戦乱のなかになり、原爆も投下され、戦死したものもあり、ついには、分からずじまいになったらしい。少女は、島の崖から身を投げたという。


 しかし、これは、伝説みたいなものであり、おそらくは、まったくの作り話しだろうと言われている。当然ながらその帆船の行方とかも分からないし、たぶん、実在はしないだろうと。ただ、幽霊海賊船を見た、という話しは、ないこともないらしい。その人たちの行方も、わからないという。


 つまり、まだ、この時代には、戦争を直に知っている人たちが、たくさんいたのである。


 もう少し、良く話を親たちから聴いておけば良かったと、シマーヤンも思っている。




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『シップ』 3 やましん(テンパー) @yamashin-2

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