アンブレラの下に、君はいる

羽弦トリス

第1話秋田学の1日

オレの名は、秋田学。昭和54年7月25日生まれの45歳のオッサンだ。

朝の6時30分の目覚ましの音が鳴ると、ムクリと起きて、洗面所へ。

歯磨きする。

ウエッ、オエッ!

オッサンは歯磨きするとえづくのだ。

ヒゲを当て、髪の毛をセットする。

オレは20代からビールを飲みまくり、今は中年太りの醜い豚だ。

朝食は、アイスコーヒーとフルーツヨーグルト。

スーツに着替えて、7時30分に地下鉄に向かう。

この時間帯の地下鉄は、名古屋の田舎だと言うのに、混む。

地下鉄最寄り駅まで10分歩き、会社最寄り駅から歩いて5分で、勤める林建設に到着する。

大学を卒業してから、ずっと営業三課。

23年経っても平社員のオレは自由だ。

同期の坪井は今は係長。胃薬ばかり飲んでやがる。課長の谷は、オレの顔を見ると、

「おはよう、秋田君」

「おはようございます。いつも、お世話になるなってまぁ〜す」

「それは良いんだが、秋田君、今日は現場の監督と工事の進ちょく具合を相談してくれ。工期が長引くと、責任は君と私に襲いかかる。分かったね?」

「はぁ〜い」

「じゃ、今から現場行ってきますわ」

「待て待て、私の朝礼が済んでからだ」

「うるせぇなぁ〜、現場はそんな呑気なこと言えないよ」

「お前は、私を誰だと思ってんだ?」

「谷さんだろ?23年前は平社員だったでしょ」

「キィー、言わせておけば」

オレは課長の話しを聴く前にバッグを持って外に出た。

ホワイトボードの名前の横に、直帰と書いた。


現場に到着した。

「おはよ、鈴木監督」

「おはようございます。秋田さん」

「どう?順調?」

「はい、今の所は。しかし、最近雨ばっかりで、コンクリート打ちが遅れ気味で。でも、大丈夫だと思いますよ」

「暑いね。ちょっと、喫茶店でも」

「いえいえ、僕が現場を離れる事は出来ません」

鈴木はやんわり断った。

そこへ、風体いかがわしい男が近付いてきた。とび職人の親方の田端だった。

「おはよ、田端さん」

「おはようございます。秋田さん」

「どうだい?今から喫茶店でも」

「良いですねぇ〜。監督、30分離れますんで、後は宜しく」

監督は、

「え?え?良いの?」

と、言ったがオレらは無視した。


オレと、田端さんで近くのコメダコーヒーに向かった。

2人して、おしぼりで顔を拭いた。

「田端さん、最近、若い衆が頑張ってるじゃない」

「はい。うちの若い衆は秋田さんみたいに頭は良くないけど、真面目でね。オレは名ばかりの監督ですわ」

「オレは頭は良くないよ。馬鹿だから23年も平社員なの。でさ、今夜、若い衆も連れて、コレやっちゃう!」

と、オレはおちょこを口に運ぶ仕草をした。

「良いですね。最近、特に頑張ってる若い衆3人呼んでも良いですか?」

「良いよ。経費で落とすから。福利厚生で」

「そんなんで、経費落ちるの?」

「それは、大丈夫。係長がオレと同期なの。どうにでもなるさ」


そこへ、店員がアイスコーヒーとかき氷を運んできた。

しばらく、オレと田端さんはかき氷と格闘した。

「でさ、とび職の兄ちゃんって、何で皆んなカッコいいの?また、田端さんも」

「学校で横道に逸れたけど、社会では真面目ですからね。もう、21で子供がいるヤツもいます」

「田端さんは」

「オレも23で結婚して、3人子供がいますよ」

「へぇ〜、オレはまだ独身。彼女さえいない。田端さん、いくつだっけ?」

「今年で38歳です」

「38歳で、現場監督。凄いよねぇ」

「てか、秋田さんがこの病院の改築工事の仕事を取ったんだから、その方が凄いですよ。この季節なんて、お偉いさんはクーラーの中で仕事してますが、秋田さんは現場に必ず現れて、オレらを涼しい場所に連れて行く。男ですよ」

オレはアイスクリーム頭痛で、こめかみを押さえた。

腕時計を見た。まだ、朝の10時過ぎだった。

会社には直帰と書いた。

確認するところまでして、昼メシ食って、さらにもう1件回って5時に田端さんと待ち合わせして、飲みに出かけた。


5時。

「やぁ〜、お疲れ様でした。田端さん」

「いえいえ、お忙しい中、ありがとうございます。こんな、汗臭いオレらが店に行って良いんですか?」

「問題無いよ。個室だし」

「個室?うわぁ〜緊張するな。お前らも、秋田さんに挨拶せんか」

と、田端が言うと、金髪の兄ちゃんらがオレに、宜しくお願い致します。と言った。

「これからも、宜しくね」

「はい」

若い衆は素直で良い子だった。

オレと田端さんと若い衆3人は、生ビールで乾杯した。

続々と料理が出てきて、若い衆は食事に夢中だった。

「ねぇねぇ、田端さん。どうやったら彼女出来るの?」

「難しいですね。そればっかりは。出会いかな?秋田さん、誰かそばにいませんか?」

「いないよ。いても、この体型だよ!豚だよ。飛べない豚はただの豚だ!って言うじゃない」

若い衆はオレの腹を見て笑った。


5時から飲み始めて、9時に飲み会は終了した。

4人は、オレにお礼を言って帰って行った。

オレは、帰宅するとシャツと下着を洗濯機に投げ入れてシャワーを浴びた。

そして、タバコを吸ってから就寝した。

翌朝、係長の坪井に昨夜の領収書を渡した。

金額37000円。

「ちょっと、秋田君。コレ何?3万って。どこで誰と飲んだの?」

「仕事でね、お偉いさんの接待」

「お偉いさんねぇ」


オレはデスクでPCで、報告書を作成していると、隣の席の平林久美子が、

「また、現場の人と飲んだんでしょ?」

「……エヘッ。バレた?」

「今夜、私たちも飲ませてよ」

「久美子ちゃんと誰?」

「愛ちゃん」

「あぁ〜、広報の立山ちゃんね」

「良いよ」


オレに彼女が出来るのか?相談してみたかった。

オレは女性からして、価値のある男や否かを。

5時までみっちりと仕事した。

チャイムが鳴る。終業だ。林建設は残業はさせない。そう言うルールだった。例外もあるが。

3人は居酒屋に向かった。


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