【第0章完】トラブルシューターズ 〜ミス研は現世⇄異世界間の戦争を防ぐため奔走します〜

牽牛花

第0章 準備編

第1話 乱暴なエンカウント

「えー、君たち!片山台かたやまだい学園に入学おめでとう!!」


 俺の名前は、市岡いちおかケン。晴れて、この学園に進学した普通の男だ。

 母はおらず、身内は父と姉しかいない。子供が二人もいるのに関わらず、俺が私立の高校に入学させてもらえたのは、父がとある製薬会社でどんどん昇進していけたのもあるが、やはり府の授業料の免除が大きい。

 この学園は府内有数の進学校………というわけではないのだが、近畿のお金持ち学校というその歴史からかなり認知度が高く、街で初対面の人に高校を聞かれて片山生かたやませいと言うと、おお………すごい…と驚かれることもある。もう随分と前に普通の私立に落ちぶれているというのにイメージは変わっていない。理事長のイメージアップ戦略は上手くいっているようだ。

 そして、俺は片山生としてこれまで注目されなかった人生とはもうオサラバだ!!


「みんな緊張してるなー。じゃーまずは、隣の人と挨拶してみようか。」

 この、いかにもベテランの先生は赤阪あかさか先生だ。

 白髪が増えてきた五十代で、四角いメガネをかけていて痩せている。見た目的には文系の教師に見えるが、その担当科目は物理である。顔も中身も優しいが、左手薬指に金属の輝きは無い。やはり、人生優しいだけでは上手くいかないようだ。


 えーっと、自分の列は左の列と挨拶をするんだな………左の人は………


 ケンの左隣に座っていたのは、いかにも”美少女”であった。

 真っ直ぐつやつやとした黒いポニーテール、大きくぱっちりとした目、雪のような肌で、別の生き物に見えるくらいに美しかった。

 こんな美しい生き物に出会えるだなんて、学園生活での勝利を約束されたものでしかないとケンは思った。


(美人さんがケンを見て会釈する)


「あっ、ワタクシは市岡ケンと申します。」

 ぎゃっ変な言い方になってしまったッ………

 それもそのはず、ケンがまともに女子と話したのは小学校が最後であり、以後は姉ぐらいとしか異性と話していなかったからである。


「私は、春日丘かすがおかメイです。よろしくね。」

 その声は外見に劣らず、妖精のような美しさであったが、ケンはその声を楽しむ間も無く一つの問題に直面した。

 でも………あれ………?これから何話せばいいんだ?


ケン

「………………………………」

メイ

「………………………………………」


 教室内は二つのグループに分けられていた。

 一つは互いに緊張しながらも、ぎこちない会話を続けようとするグループ。

 もう一つは互いに名前を言ってからお通夜状態のグループである。


「あっ、そうだな話題がないとお前ら話せないよな。すまんすまん。」

 「じゃあ話題は、どの部活に入部するかでどうだ?ココ、全員部活に入部しなきゃいけないからな。」


 神だ………赤阪あかさか先生………これからは一生この先生についていこう。

 そう思ったのはケンだけではなかっただろう。


「市岡くんはどの部活に入るかはもう決めた?」


「昨日の部活紹介を見た感じですと…だと………、バスケ部かな?」

 ケンは突然の名前呼びに戸惑いながらも、バスケ部と答えた。なぜケンがバスケ部に入部したいのかというと、バスケ部に入ってイケイケの学園生活を楽しむためであったが、バスケに関してはルールくらいしか知らない素人である。


「私は、ミステリー研究部かな?」

 高等部の入学式は昨日の午前中にあり、午後には部活動紹介があったが「ミステリー研究部」の紹介は無かったし、その後の部活動見学でも見ることは無かった。どういうことなのかケンが聞いてみると、


「いや、出てないよ。先輩たちが不安すぎて部活紹介に出たくないって言ったんだって。実は、私の中学校のときの仲が良かった先輩がミス研にいるの。だから決めたの。」

 メイの説明によると、なんだかとんでもなく陰気な部に聞こえ、陽キャになりたいケンはそんな部には入りたくないと思うだろうが、もっと重要な発言に全脳細胞が持っていかれていた。

 メイの言った先輩とは男なのだろうかということだ。これはケンにとって本当に大切な問題である。


「市岡くんはミステリー研究部どう?興味ある?」


 思考中のケンに突然の問い。これはYesかNoでこれからの学園生活が変わるほどの質問だ。

 もし、Yesと答えればメイとの仲は良くなり、陰気なミス研に入部し、その先輩の性別を知るだろう。もし、先輩が男だとすると………

 Noと答えれば、メイとの仲は良くならず、陽気なバスケ部に入部し、なんやかんやで勝ち組としてやっていけるだろう。

 しかし、ここでメイと仲良くしないわけにはいかない。バスケ部に入っても勝ち組になれると決まっていない。兼部やこのクラスの中で仲良くなるという手もある。そして、深いながらも刹那の思考の末たどり着いた答えは、

「面白そうだと思うよ。」

 anotherもう一つの答えだった。


 メイの反応は良く、それからしばらく血液型や誕生日などの他愛もない会話を続けることができた。


「よーし、お前らいっぱい話せたなー。それじゃー今日は解散!あと、入部希望の紙は来週までだからなー。ちゃんと慎重にきめろよー。」

 二人ケンとメイにとって時間はあっという間に過ぎたように感じた。今日は教科書の受け取りとクラスメイトとの馴れ合いだけだったので、午後からは自由だ。学園の寮に入る人たちはこれからまだ色々あるようだが、それは二人には関係のないことだった。ケンは二人で家に帰れるかと期待していたが、メイはすぐに荷物を持って教室から一番に出ていってしまった。

 さっきまで仲良く話せていたのに急に逃げる。この変わり様を目撃したケンは、もしかしてさっきまでのは全て演技だったのではないかと落ち込んだ。





 ケンは荷物をカバンに入れて、校舎を出ていた。

 この学園には七階建ての中等部棟・高等部棟・寮棟が建てられていて、体育館とプールが二つずつあった。建物は全て赤茶色のレンガで装飾されており、いかにも西洋風のお洒落な外見で流石私立学園と言われるようなものだが、田舎の山あいの建物としてはかなり変に目立っていた。近くにバス停や駅があったりとアクセスは意外と良いが、学園の周囲の森は予算不足や環境保全の関係でそのままにされているのが原因である。

 

 ケンは高等部棟の前を通り過ぎて帰ろうとしていたが、校舎の端に

(バスケ部入部希望の方はこちらへ)

 と油性ペンで段ボールに書かれた看板を見つけ、少し不審に思いながらもその誘導に従うことにした。

 看板に近づくと、看板の奥、つまり校舎裏へ誘導する矢印が白線で引かれていた。校舎裏は、学園と森を隔てるフェンスと高等部棟一階の多目的室の間のそれほど広くないスペースだった。雑草がそれなりに茂っているが、足の踏み場がないほどではなかった。そのままケンが校舎と平行に進んでいくと急に地面が落ちた。


 ドスンッ!!!


「グアアッ…痛ぁっ!なんだこれ!?落とし穴!?!?なんで!?!?」

 落とし穴の下には分厚い体操用のマットがあったが、流石に五メートルの高さからの落下の衝撃の全ては吸収しきれなかった。ケンの足は強い衝撃を受けたが、幸い無傷であった。痛みをこらえて目を強く瞑っていたが、誰かの足音が奥から聞こえると急いで目を開き、暗闇の中で動くロウソクを注視した。


???

「こんにちは、市岡ケンくん。」


「な、なんで俺の名前を…あなたは………?」

 声は低めの女声だった。


「私の名前は、ひがしカナエ。片山台学園高等部2年生のミステリー研究部部長だよ。」

 ケンに近づくにつれて落とし穴から差し込む光によってカナエの姿が見えてくると、そこには身長が百八十センチほどもあって、ボサボサの癖毛の見るからにミステリーの塊のような女がいた。


 ミステリー研究部部長と聞いたケンに一つの推論が生まれた。

「春日丘さんが何か言ったんですか………?」


 ケンの推論は見事に当たった。そして暗闇からまた誰かが現れた。

「す、すいません。こんな手荒なことをしてしまって………」


「ワッ!春日丘さん!!いたんですか!」

 ケンは、ひとまず自分がメイに嫌われたわけではないことを悟り、安堵した。そして、上の自分が落ちてきた穴を見ながらマットを降りて、立ち上がった。


 するとカナエがここじゃ暗いから、と言い謎の地下空間の奥へと案内した。ケンが地下空間に落ちたときは空間は暗闇に包まれていて、広さは分からなかったがカナエが電気をつけると、地下空間の全体がはっきりと見えるようになった。高さは三メートルから四メートルほどあり、二十五メートルプールが一面入るほどの面積で、洞窟のような感じであった。奥の方には人が入れるほどの大きさの穴がいくつかあった。床は端の方まで全面、とはいかないが半面ほどの面積はセメントで舗装されており、空間の真ん中の方には机や棚などが置かれていた。


 カナエは思い出したようにメイヘ落とし穴を閉じてくるように言った。どうやら、地下で明かりをつけると外から地下の存在がバレやすくなるらしい。メイは両手で発泡スチロールの板を持てるだけ持って、カナエに道具は上にありますよね?と確認すると奥の一番大きな穴へ入っていった。


「落とし穴のことは後で話そう。ここは、最近ミス研が見つけた巨大地下遺跡だよ。」

 遺跡?遺跡と言ったということは、この空間の奥の穴のさらに奥にはまたなにかがあるのか?

 ケンは驚きを超えすぎて逆に冷静になっていた。


「あの………俺はどうして………落とし穴に………?」

 いや、ケンは混乱していた。


 カナエはケンに、続けて地下空間について説明し始めた。

 まず、この空間を見つけたのは去年の今ごろで、カナエがミステリー研究部に入部してすぐの頃であり、学園の敷地の森の中に洞窟のような入り口を見つけ、探索することにしたという。なぜ、ただの文化部が洞窟探検を行おうと決めたのかというと、それは入り口の異質さにミステリーを感じたからだという。なんと洞窟の周りだけがこの地域には自然に存在しないはずの石でできていたらしい。確かに、ケンたちのいる広い空間の周りも、珍しく白い石でできていた。

 そして、洞窟を探検していくとある不思議なものを発見したという。


「ミス研はをしっかりと調査したかったのだが、ある問題があってだな。」

「当時、ミス研は私しかいなかったのだよ。」

 衝撃的な発言である。片山台学園の部活動は部員が四人以上でないと存続できない。

ケンがそれを指摘すると、

「いいや、何人か陰気な人たちの名前を拝借した。」


「………許可はもちろん?」


「取ってないが?」

 カナエは当たり前のような顔をして答えた。


「……………………」

 ケンは目の前にいるバケモノから襲われずににどうやって逃げようかと考え始めた。


???

「ウギャアアアアア!!!」

 突然誰かが落ちてきた!!!


 ドスン!!!

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