本戦④



3回戦第四試合。3回戦も終盤に差しかかっていた。






試合が始まり、謎の剣士ザラッドが冷静に剣を構えると、その場の空気がぴんと張り詰めた。彼は、通常の魔法障壁を容易く切り裂けるほどの切れ味を誇る剣技の使い手で、その実力は他の選手たちとは明らかに一線を画している。観客も、誰もが驚異に思うセレフィナがこの剣士にどう対抗するかに期待を寄せ、息を呑んで見守っていた。






開始の合図と共に、ザラッドが鋭い動きでセレフィナに接近し、鋭利な剣を振り下ろした。その剣は凄まじい勢いで魔力を帯びており、仮に魔法障壁であっても無理やり切り裂くことができるほどの威力を秘めていた。しかし、セレフィナは微動だにせず、片手を軽くかざして青白い魔法障壁を展開する。




「ふむ、ここまでとはね…」






ザラッドの剣が障壁に触れると、衝撃が激しく弾け、障壁にひびが走る。観客からも驚きの声が上がり、ザラッドはさらに勢いを増して次の一撃を打ち込む。だが、セレフィナの障壁は完全に崩れず、そのひびを瞬時に再生しながら攻撃を受け止め続けた。




「手応えはあるけど…少し遊びが過ぎたかな?」






セレフィナは小さく微笑み、障壁を解除すると、手を前にかざして低く「フレイム」と呟いた。彼女の手から放たれた火球は瞬時に膨張し、獣のような形を成してザラッドに襲いかかる。その勢いと圧力にザラッドは一瞬ひるんだが、歯を食いしばりながら剣を構え直し、火球を真っ向から受け止める覚悟を決めた。






ザラッドは渾身の力で剣を振り下ろし、炎の一部を切り裂きつつも、熱と圧力が次々と押し寄せてくる。彼の防御の姿勢を貫くように火球が燃え盛り、その高熱に耐えながらも、彼はギリギリのところで立ち続けた。観客たちはその凄まじい根性に声援を送り、ザラッドがこのまま踏みとどまるかに期待を膨らませている。






だが、次の瞬間、セレフィナがわずかに手を振り、火の勢いが一層強まった。ザラッドは踏ん張りながらもついに膝をつき、火球の圧力に押されて限界を迎える。全身が汗でびっしょりになり、呼吸も荒い彼を見て、セレフィナは静かに火を収束させた。






「よく耐えたわね。並の相手なら、とっくに燃え尽きていたでしょう。」




セレフィナは冷静に言い放つと、彼女の圧倒的な力に驚きと尊敬の念を抱きながら、観客たちは改めて彼女の底知れない実力を思い知った。






試合が続き、ザラッドが再び立ち上がると、観客のざわめきが一層強まった。傷つき、汗にまみれながらも、彼の目にはまだ闘志が燃えている。彼は一瞬、何かを考え込むように視線を落とし、それから剣を逆手に構えた。




「…まだ終わっちゃいないさ。」






ザラッドは低く呟くと、剣を片手で地面に突き立て、もう片方の手で胸元に掛けていた小さなペンダントに触れた。それは古びた銀のペンダントで、彼の故郷に伝わるという秘術が封じられているものだった。観客の中にはこの動きを見てピンときた者もいるようで、彼らはさらに興奮を高めた。ザラッドが奥の手を使うのは、普段の戦闘では滅多にないことだからだ。






ペンダントが輝き始め、彼の全身に薄い青白い光が走る。それは彼の魔力を大幅に引き上げる秘術「魔力解放【マナ・リベレーション】」だった。解放された魔力が彼の剣にまとわりつき、刀身が青く輝きだす。その様子に、セレフィナも少し興味深げに目を細めた。




「なるほどね。少しは楽しませてくれそうね?」






ザラッドは渾身の力で剣を振りかざし、セレフィナに向かって突進した。通常の攻撃とは異なり、解放された魔力によって、剣から放たれる一撃一撃が風圧を巻き起こし、地面を割っていくほどの威力を持っていた。彼の全力の斬撃がセレフィナに迫り、彼女の周囲に展開していた魔法障壁に次々と直撃する。



障壁が薄く震え、ひびが再び走る。しかし、セレフィナは冷静に一歩も動かず、次の一撃が放たれるのを待つように彼を見据えた。ザラッドの連続攻撃が限界に達しようとするその時、彼は剣を高く掲げ、最後の一撃を繰り出した。彼のすべての魔力が込められた渾身の一撃が、光の軌跡を描きながら障壁に炸裂した。






衝撃で視界が一瞬白く染まり、観客も息を飲んだ。しかし、光が収まると、そこには微動だにしないセレフィナと、彼女の障壁が残されていた。障壁にはわずかにひびが残っていたが、セレフィナはそれすらも気に留める様子はなく、むしろ微笑みを浮かべていた。






「ザラッドよ、悪くないぞ。でも…」




セレフィナが静かに手をかざし、再び「フレイム」の呪文を唱えた。先ほどとは異なり、今回はわずかな火の球だったが、その小ささからは想像できない圧力を秘めていることが、ザラッドには直感的に理解できた。彼の魔力もほとんど尽きており、この一撃を避けることも防ぐことも不可能だった。




小さな火球がザラッドに向かってゆっくりと迫り、その最後の瞬間に、彼はわずかに笑みを浮かべた。




「…強い、なんてもんじゃないな。」




火球がザラッドの目の前で爆発し、彼はその場に倒れ込んだ。しかし、セレフィナが火球を限界まで小さく抑えたことで、致命傷を負うことはなかった。観客から拍手と歓声が湧き上がり、ザラッドの奮闘に対する称賛の声が響き渡った。






セレフィナはザラッドの方へゆっくりと歩み寄り、倒れ込んでいる彼を見下ろして静かに言った。




「いい戦いだった、ザラッド。また戦う機会があれば楽しみにしてるよ。」




その言葉に、彼もわずかに苦笑を浮かべ、静かに頷いた。

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