本戦③
いよいよ大会も大詰めといったところで、ベスト8が出揃った─。
3回戦第一試合が幕を開けると、観客席から大きな歓声が上がった。対戦するのは、屈強な体格と冷静な判断力で知られるSランク冒険者カイと、俊敏で魔法剣の使い手として名高いアレン。彼らはともに歴戦の冒険者であり、試合前から注目を集めていた。
開始の合図とともに、カイは一瞬で地面を蹴り、アレンに迫る。彼の大剣が閃光のように振り下ろされると、地面が僅かに揺れるほどの衝撃が走った。アレンは素早く後方に跳んで回避し、間髪を入れずに魔力を込めた細剣で反撃に転じる。
「さすが、カイさん。俺を本気にさせてくれるとはね!」アレンが笑みを浮かべながら細剣を構え、剣先に青い魔力が集まっていく。彼は軽やかな動きでカイの間合いをすり抜け、連続の斬撃を繰り出した。
カイは鋭い一撃を受け流しつつも、真正面からアレンの動きを見据え、驚異的な耐久力で押し返していく。「お前こそ、いい動きだな。だが、俺は簡単には倒れない!」そう言ってカイは、魔力を剣に集中させ、一際大きな一閃をアレンに向けて振り下ろす。
アレンはその剣の振り下ろしに対し、魔法を絡めた防御で応戦するが、カイの一撃の重さに少しずつ押され始める。やがてアレンは息を整えながら距離を取り、一瞬の隙をついて素早く跳び上がり、空中から風の魔法を纏った剣撃を放った。
その斬撃がカイに直撃するかと思われた瞬間、カイが地面に大剣を突き刺し、強烈な魔力を解き放った。まるで地響きのような力で衝撃波が発生し、アレンの攻撃がかき消されてしまう。
最後にアレンは疲労の色を見せながらも、勝ちへの執念で再び剣を構えた。しかし、彼の魔力は底を尽きかけていた。「まだ終わっちゃいないさ…!」と気丈に叫ぶものの、次の瞬間、膝が僅かに崩れる。
カイはそれを見て、大剣を収め、アレンに向かって軽く頭を下げた。「ここまでだな、アレン。いい戦いだった。」
アレンも悔しげに微笑みながら手を挙げ、降参の意を示す。観客は二人の壮絶な戦いに惜しみない拍手を送り、その名勝負に熱狂していた。
* * *
続いて3回戦第ニ試合。
幕が上がると、先ほどの戦いに勝るとも劣らない緊張感が場内を包み込んだ。対戦するのはシード選手であり、未だ戦いを見せていない大魔法使いロナルド。そして彼に挑むのは、戦術に長けた戦士トーマスだ。
合図とともに、トーマスは大きな戦斧を構えて突撃する。彼の強靭な肉体と俊敏な動きは、観客の期待を一身に集めていた。一方のロナルドは冷静な表情で相手を見据え、杖をゆっくりと掲げる。
「風よ、刃となりて敵を討て!」
ロナルドが低く詠唱すると、彼の周囲に鋭い風の刃が次々と生み出され、トーマスに向かって放たれた。だが、トーマスはそれを鋭い反応で見切り、次々と風の刃をかわしながら突き進む。
「これがシード選手の実力ってわけか…だが、俺だって簡単には引かねぇ!」
トーマスが吼えると、次の瞬間、彼はロナルドの間合いに飛び込み、大斧を力強く振り下ろした。その攻撃には一撃で決める覚悟が込められていたが、ロナルドは微笑みを浮かべ、軽やかに杖を振る。
「氷壁アイスウォール!」
杖から冷気が放たれ、トーマスの攻撃の寸前に厚い氷の壁が形成され、斧の一撃を受け止めた。氷は激しく砕け散り、冷たい破片が舞い上がるが、ロナルドには一切届かない。
「まだまだだぞ、トーマス君。」
ロナルドの言葉に応えるように、トーマスは再び前進を試みるが、次々と展開される風と氷の魔法に阻まれ、徐々に足元を固めるのが精一杯になっていく。そしてロナルドが杖を天に向けて高く掲げ、冷ややかな声で宣言した。
「雷よ、彼の戦意を打ち砕け!」
雷撃が空中に生じ、激しい稲妻がトーマスに向けて放たれた。その瞬間、観客の視線が一斉に彼に注がれるが、トーマスは寸前で回避し、わずかな距離を保ちながらも攻撃の手を緩めない。
しかし、トーマスの魔力と体力はすでに限界に達していた。最後の気力を振り絞り、もう一度斧を構えたものの、次の瞬間には膝が崩れ、ついに降参を余儀なくされる。
ロナルドは杖を下ろし、静かに頭を下げてトーマスの健闘を讃えた。「見事だったよ、トーマス君。強い意志を感じた。」
トーマスも悔しそうに笑みを浮かべ、ゆっくりと立ち上がり、場内の拍手を受ける。観客は二人の戦いの美しさに感動し、3回戦第二試合もまた熱狂的な歓声で包まれていた。
* * *
暫しの休憩を挟み、3回戦第三試合。
開始が告げられると、弓使いのサラと魔法使いのセリーナが競技場で向かい合った。サラは遠距離攻撃を得意とする熟練の弓使いで、素早さと精密な射撃で敵を翻弄する戦い方を得意としている。一方、セリーナは強力な攻撃魔法を駆使し、圧倒的な火力で相手を制圧するタイプだ。観客たちは息を呑んで試合の成り行きを見守っていた。
試合開始の合図と共に、サラは一瞬の隙も見逃さずに矢を引き絞り、魔力を込めた矢をセリーナに向けて放った。その矢は高速で飛び、風を切ってセリーナに迫るが、セリーナは片手を軽く上げて魔法障壁を展開し、矢を難なく弾き返した。
「ふーん、なかなか鋭い一撃ね。でも、それだけじゃ足りないわよ。」
セリーナの冷静な言葉に、サラは微笑を浮かべる。次の瞬間、サラは弓を使って素早く位置を変え、角度を変えながら矢を次々に放った。サラの矢は鋭い曲線を描き、セリーナの周囲に正確に飛来する。彼女は的確に弱点を狙いながら、セリーナを翻弄するように攻撃を仕掛け続ける。
しかし、セリーナはその場から一歩も動かず、淡々と障壁を張り続けて矢を防ぐ。サラの攻撃が何度も障壁に阻まれるのを見て、彼女は少し息を整え、次の一手を考える。
「なるほど、さすがは魔法使い。ならば…これならどう?」サラは一瞬で弓に三本の矢を装填し、素早く放つ。矢は異なる軌道でセリーナを囲むように飛び、その隙をついてサラは更に遠距離から狙いを定め、特別な魔力矢を準備し始めた。
だが、セリーナは悠然とその様子を見つめ、軽く指を動かすと、「フレイム」と小さく呟いた。すると、彼女の手元から無数の小さな火の矢が飛び出し、サラの矢を全て相殺するだけでなく、彼女の位置にまで届く勢いで追撃する。サラは必死に逃げつつ回避しようとするが、魔力が尽きかけていたため、スピードが徐々に落ちてしまう。
「くっ…このままじゃ、持たない…!」
サラは最後の力を振り絞り、もう一度矢を引こうとしたが、手が震え、矢が放てなかった。その様子を見ていたセリーナは少し表情を緩め、余裕を見せる。
「降参するなら、今のうちよ。」
サラは悔しそうに目を伏せながらも、静かに弓を下ろし、降参の意を示した。
観客席からは、サラの粘り強い戦いぶりに惜しみない拍手が送られ、セリーナの圧倒的な実力にも再び驚嘆の声が上がった。こうして、セリーナはまたしても余裕の勝利を収め、次の試合に進むこととなった。
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