魔王、初めてのSランク任務を遂行する
準備を終えたセレフィナは、北の村に向かうためギルドから出発した。道中、村人や他の冒険者たちからの視線を感じながらも、彼女は淡々と進み、やがて北の山岳地帯の麓にある駐屯地へとたどり着いた。
駐屯地では、調査隊のリーダーがセレフィナの到着を待っていたようで、すぐに彼女に向かって足早に歩み寄ってきた。「お待ちしておりました、セレフィナ殿。駐屯地を預かるリーダーのハルトです。リヴァイアの情報をお伝えします」
ハルトの顔には疲労が見て取れたが、それでも頼もしげにセレフィナを見つめている。
「リヴァイアの目撃情報によると、現在奴は山の奥深くに潜んでいるようです。生態は不明ですが、前回の接触で仲間の一人が危うく命を落としそうになりました。今までどんな攻撃も通じず、我々の攻撃を逆に利用するような動きすら見せたんです」
セレフィナは冷静にその説明を聞きながら、どこか楽しげな微笑みを浮かべていた。「ほう、なかなか面白い話ではないか。魔法すらも無効にするというのなら、確かに厄介な相手だが…このような魔獣にこそ、我の力を試す価値がある」
彼女の自信あふれる態度に、ハルトは少し驚きながらも、期待を込めて頭を下げた。「セレフィナ殿、どうか我々の力では届かない領域まで、あなたにお願いしたい。村の人々も心配していますし、ここにいる仲間も、奴を討伐できるなら命をかける覚悟です」
セレフィナは軽く頷き、「分かった。では案内してもらおうか。そのリヴァイアの元まで」と言い、ハルトに先導を促した。
こうして、セレフィナと駐屯地の調査隊は、リヴァイアが潜むとされる山の奥へと進んでいった。険しい岩場や冷たい霧が立ち込める中、彼らは次第に深い森の中へと入っていく。
やがて、霧の向こうに巨大なシルエットが浮かび上がった。何かに気づいたかのように、周囲の空気が張り詰める。リヴァイアが姿を現したのだ。
目の前に立ちはだかるその魔獣は、鋭い爪と厚い外殻に覆われており、凶暴な目が光っている。セレフィナはその巨大な姿を見上げながら、微かに口元を緩め、「さて、我の力が通じるか、試してみようか」と静かに言った。
リヴァイアがその巨体を揺らしながら咆哮を上げると、大地が震え、近くの木々が音を立てて揺れた。駐屯地の調査隊はその威圧感に一歩後退し、顔を強張らせている。リヴァイアの皮膚は甲殻のように硬質で、通常の武器が通用しないことが一目でわかる。だが、セレフィナは微動だにせず、その場に立っていた。
彼女が杖を軽く持ち上げると、ハルトが緊張しつつも問いかけた。「セレフィナ殿…本当に、我々だけであの魔獣に立ち向かうつもりですか?」
「ふふ、心配するな、ハルト。今のところは我一人で十分だ」とセレフィナは軽く言い、リヴァイアに向かって一歩前に出た。その目には冷静さと、かすかに浮かぶ興味が宿っている。
すると、リヴァイアがセレフィナの存在に気づき、咆哮と共にその巨大な爪を振り下ろしてきた。振り下ろされる爪は鋭く、少しでも触れれば、通常の冒険者など一撃で粉砕されるだろう。
しかし、セレフィナは動じることなくその場に立ち、軽く指先を動かしただけで空気が歪んだ。次の瞬間、彼女の前に見えない障壁が生まれ、リヴァイアの爪はその障壁に衝突し、鈍い音を立てて弾かれた。
「…っ!?」ハルトや他の調査隊員たちは、目の前で繰り広げられる光景に息を飲んだ。
セレフィナは、リヴァイアが驚きで一瞬動きを止めたのを見て、淡々と語りかける。「思った通り、ただの力任せでは我には届かぬな。さて、少しばかり、こちらからも挨拶といこうか」
彼女は杖を振り上げると、周囲の空気が急激に冷え込み、薄い霧の中に氷の結晶が舞い降りるように現れた。そして、杖を軽く振ると、無数の氷の槍が彼女の周りに生成され、一瞬でリヴァイアへと放たれた。
リヴァイアは鋭い叫び声を上げ、氷の槍を防ごうとするも、槍の一部がその厚い外殻を貫通し、痛みを与えたようだ。傷ついたリヴァイアが怒りの目で睨みつけるが、セレフィナは相変わらずの落ち着いた表情で、余裕のある微笑みを浮かべている。
「ほう、なかなか耐えるではないか。しかし、この程度でひるんでいては、まだまだ甘いな」
ハルトはその様子を見て、信じられないものを見るかのように呟いた。「これが、Sランク冒険者の力…いや、それ以上か…」
セレフィナの強大さを目の当たりにし、彼らの心には次第に、ただの依頼ではなく、何かもっと異質な存在が彼らの味方についているという実感が芽生え始めていた。
リヴァイアはセレフィナの攻撃に大きく後退し、怯むように一歩引いた。しかし、その巨体はまだ健在で、怒りに燃える瞳でセレフィナを睨みつけている。彼の巨腕が再び地面を叩き、まるで山崩れのように土煙を上げて咆哮をあげた。周囲の木々や岩がその威圧に怯え、揺れるようにざわつく。
ハルトはその様子を見て唇をかみしめ、仲間に向かって叫んだ。「全員、準備をしろ!いつでも支援できるようにしておけ!」
調査隊員たちは緊張しながらも武器を構え、セレフィナの援護に備えていた。しかし、セレフィナはちらりとハルトに視線を送ると、軽く首を振って見せた。
「心配は無用だ。そなたたちは下がって見守っておれ」
その言葉に、ハルトたちは躊躇しつつも、一歩引き下がることにした。彼らは目の前で繰り広げられる圧倒的な力の差を痛感し、ただ見守ることしかできない自分たちの無力さを感じていた。
再びリヴァイアの巨体が動き出し、鋭い爪と牙を剥き出しにしてセレフィナへと突進してきた。しかし、セレフィナはその猛攻を冷静に受け流し、まるで舞うように身をかわしていく。その表情には余裕があり、彼女の一挙一動には確固たる自信がみなぎっていた。
「どうやら、力だけでは我には届かぬことがまだ理解できぬようだな」
セレフィナは杖を大地に突き立てると、彼女の足元から淡い光が広がり、その光が波のようにリヴァイアへと向かっていく。その瞬間、大地がひび割れ、氷の結晶が次々と生まれ、リヴァイアの足元に絡みつくように凍りついた。
リヴァイアは足を動かそうとするが、凍結した地面に阻まれ、身動きが取れなくなっている。セレフィナはゆっくりと近づき、冷たく微笑んだ。
「そろそろ終わりにしよう。そなたの暴れっぷりも見納めだ」
彼女は指先を天に向けて掲げ、一瞬の沈黙の後、強力な光がその手に宿った。それはまるで星のように輝き、周囲の闇を一掃するかのような神秘的な光景を生み出していた。
「滅せよ、『氷嵐の裁き』――」
その言葉と共に、凍てつく風と無数の氷の刃が渦を巻きながらリヴァイアに降り注いだ。リヴァイアは苦痛の声を上げ、凍てつく氷の嵐に包まれたまま、次第にその巨体が静寂の中へと沈んでいった。
やがて、嵐が収まると、そこには氷に包まれたリヴァイアの姿が残され、完全に動きを止めていた。セレフィナはその光景を静かに見つめながら、ふと息をつく。
ハルトと仲間たちはその場で呆然と立ち尽くし、ようやく現実に戻るとセレフィナに駆け寄った。
「セレフィナ殿…これがSランクの力…いや、それ以上だ…!」
「ふむ、これくらいは挨拶程度だ。我にとっては、それほど手間でもない」
彼女の言葉に、ハルトたちは再び息を呑んだ。その圧倒的な力の前に、自分たちがどれほどの存在かを痛感し、同時にセレフィナという存在の偉大さに畏敬の念を抱いていた。
今回の討伐はアルヴィンに報告され、アルヴィンのセレフィナへの評価を上方修正するのであった─。
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