魔術師ルビクスの襲撃①
ルビクスの軍団が一斉に進軍する中、セレフィナはその圧倒的な数に一瞬たじろいだ。彼女の周囲には、ルビクスが展開した魔法無効領域の効果が影を落とし、彼女の魔法を封じ込めるその力を感じ取っていた。しかし、彼女の瞳はその挑戦に対して冷静さを失わなかった。
「これが我に対する挑戦というのか、人間?」セレフィナは、静かに問いかけるように呟いた。彼女の声には、まるで圧倒的な自信が宿っているようだった。軍団が彼女に近づくにつれ、セレフィナは前に踏み出し、彼女の内に秘めた強大な力を解放する準備を整えた。
その瞬間、ルビクスの指示が下された。「全軍、行け!」彼の言葉が響くと同時に、魔族たちは一斉に彼女に向かって突進していった。セレフィナは、軍勢の波に飲まれないように心の中で集中した。彼女の全身に力がみなぎり、強い決意が彼女を包み込む。
「魔法無効領域を展開したぐらいで思いが上がるなよ?」セレフィナは、決意を胸に秘めたまま、無数の魔法の球体を創り出した。彼女の周囲に浮かぶそれは、まるで星のように輝き、彼女の意思に呼応して弾ける準備を整えている。ルビクスの無効化領域の中であっても、彼女の力はその枠を超えて発揮されることを確信していた。
ルビクスは、軍団の進軍を見ながら、セレフィナの動きを注視していた。「なぜ、彼女は何もしてこないのか?恐れているのか?」彼は、意外な静けさに不安を覚えつつも、自身の優位性を信じて疑わなかった。
だが、次の瞬間、セレフィナが全身から発する強いオーラとともに、魔法球が一斉に解き放たれた。「飛び散れ、星の雨!」その声と共に、空間を彩る魔法の球体が、まるで流星のように軍団に向かって降り注いだ。光の雨は、魔法無効領域の影響をもろともせず、魔族たちに襲いかかる。
ルビクスの目は驚愕に見開かれた。「な、なんだこれは!?」彼は、魔法が無効化されるはずの領域で、まるで力を持つかのように炸裂する魔法球に目を奪われ、指示を出す余裕も失っていた。
人間の魔法使いであれば、この領域に入った瞬間に全ての魔法が無効化されるはずだった。しかし、セレフィナの魔法はその常識を軽々と覆しているように見えた。これは、人間の魔法と魔界の魔法の根本的な違いに起因していた。人間の魔法は、自然のエネルギーや自らの魔力を媒介として呪文を形成し、発動させる。魔法無効領域はその過程を制限し、魔法使いの力を封じ込めるように作られていた。
だが、セレフィナの使う魔界の魔法は、魔力そのものが異質な存在である。魔界の魔法は、使用者自身の存在力と同調し、魂や存在そのものから生み出される特異な力によって発動されるため、外的な干渉を受けにくい。この魔法は、あたかも領域外の別次元から投射されたかのように作用するため、ルビクスの魔法無効領域を通り抜け、完全に独立した力として作用するのだ。
つまり、セレフィナの放つ光の雨は、魔界の根源的な力から生まれたものであり、単なる魔力ではなく、魔界の本質そのものが形を取ったものである。そのため、ルビクスの領域にとらわれることなく、魔族の軍団に猛威を振るっていたのである。
ルビクスが構築した「無効領域」は人間の魔法には絶大な効果を発揮するが、セレフィナのような魔界の存在には、その理が通用しないことを思い知らされることとなった。
次々と魔族たちがその光の雨に襲われ、戦場は混沌とした様相を呈していく。セレフィナは、その光景を見て微笑みを浮かべた。「魔法は無効化できない。我の力を思い知るがいい!」彼女は、圧倒的な力を持つ存在として、その戦場を支配していく。
激突する二人の力が、戦場に新たな運命を刻み込む瞬間だった─。
セレフィナの魔法の光が降り注ぐ中、ルビクスは必死に状況を把握しようとした。彼の心の中で動揺が広がっていく。無効領域の効果は自分の意志で決めたものだ。しかし、目の前で繰り広げられる光の雨は、その常識を覆すものであった。
「止まれ!全軍、後退!」ルビクスは大声で指示を飛ばすが、彼の命令はすでに混乱に包まれた軍勢に届かない。セレフィナの魔法は、次々と魔族たちを襲い、彼らの行動を制限していた。
魔法球が一つ、また一つと炸裂するたび、セレフィナの心に自信がみなぎっていく。「これが我の力の一端だ!」彼女は高まる感情を感じながら、次の魔法を準備する。周囲の空気が震え、彼女の魔力が再び集中していく。
その時、ルビクスは不敵な笑みを浮かべた。「面白い、君はかなりの実力を持っている。しかし、ここで終わらせるわけにはいかない!」彼は新たな決意を固め、持ちうる力を最大限に引き出すことを決意した。
彼の周囲に渦巻く魔力が集まり始める。ルビクスは「冥界の門」を開くための儀式を行い始めた。魔法無効領域の中で、彼は自らのスキルを発動させ、強大な魔族の軍団を召喚する準備を整える。「私の軍勢、出でよ!」ルビクスは叫び、その声が場の空気を震わせた。
すると、地面が揺れ、魔族たちが一斉に召喚される。闇に包まれたその姿は、凄まじい迫力を持ち、セレフィナの目に新たな脅威を映し出す。召喚された魔族は、強力な精霊を宿しており、その力はセレフィナのものと同等かそれ以上であった。
「私の魔族たち、彼女を圧倒しろ!」ルビクスは自信に満ちた声を上げ、指先を動かすことで魔族たちに命令を送る。彼は彼らの力を信じ、セレフィナに立ち向かわせることに全てを賭けていた。
一方、セレフィナはその光景を見て、心を引き締めた。「なかなかの迫力じゃないか…」彼女は冷静に状況を分析し、新たに現れた敵に対して魔法を発動する準備を整える。
「ならば、我も少し力を出そうではないか!」セレフィナは、再び魔法球を作り出し、召喚された魔族たちに向けて放つ。光と闇が激しくぶつかり合う中、戦場はますます混沌としたものとなり、セレフィナとルビクスの激闘が続いていく。
その瞬間、彼女の中に芽生えた決意が、戦局を一変させる予感を感じさせた。彼女は、未来を切り開くための力を見せつける時が来たことを知っていた。
ルビクスは魔族の軍勢を率いる中心で、両手を空に掲げながら呪文を唱えていた。彼の足元には複雑な紋様が描かれており、それが鈍い光を放ちながら徐々に動き出している。周囲の空気が不気味に揺らぎ、魔族たちはそれに呼応するように戦意を高め、緊張が高まっていく。
「さあ、冥界よ。我が望みに応じ、その力を与えたまえ…!」
ルビクスの叫びと共に、大地が鈍い音を立てて震え始めた。彼の体から黒い霧が立ち昇り、それは空間を歪ませるかのように拡がり、闇の深淵を生み出していく。そしてその闇の中から、異形の門がゆっくりと現れた。それは、異界へと続く漆黒の門──冥界の門だった。
門が完全に現れると、その奥から冷たい風が吹き抜け、まるで冥界からの呼び声が彼らの魂に届くかのように感じられた。ルビクスは笑みを浮かべ、力を得たかのように自信に満ちた眼差しをセレフィナへ向けた。
「この門を通じて、冥界の眷属たちが我が軍へと加わる!セレフィナ、君も観念するがいい!」
冥界の門が開かれると同時に、そこから無数の冥界の眷属たちが次々と現れた。燃え盛る炎を纏った亡霊、鋭い牙と爪を持つ獣たち、そして地を這う黒い影が、次々に戦場に放たれていく。それらの存在は、ただルビクスの命令に従うためだけに現れた、冥界の従者たちだった。
「どうだ、この力を見て震えるがいい!」ルビクスは歓喜に満ちた表情で叫び、さらに呪文を唱えて冥界の門を強化していく。彼の目には勝利の確信が宿り、これだけの戦力を前に、さすがのセレフィナも打つ手を失うだろうと確信していた。
だが、セレフィナは一歩も引くことなく冷静に彼を見据えていた。その瞳には、わずかな驚きも恐れも浮かんでいない。それどころか、彼女の口元には、わずかに笑みが浮かんでいるようにも見えた。
「冥界の力を召喚したからといって、それがどうした?」セレフィナの声は静かだったが、その一言一言が戦場に響き渡り、ルビクスの不安をかき立てる。
ルビクスはその表情に不安を覚えつつも、冥界の眷属たちが次々とセレフィナへと襲いかかる姿を見て、自らの優位を信じた。この戦力があれば、セレフィナもその高慢さを捨てざるを得ないだろうと──そう考えていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます