おやつの後の帰り道
おやつを食べ終え、かなりいい時間だったこともあり街へと帰ってきていた俺たち。
そんな俺たちは今、門から宿屋へと帰る道を歩いていた。
ただそんな俺たちを周囲の人は遠巻きでチラチラと見てきていて、さらには俺たちに向かって何かひそひそと言っているのが聞こえてきている。
おそらくその理由は…
魔王が俺の服を引っ張りながら…
「食べたい食べたい。妾、さっきの食べたいのじゃーーーっ!!!」
魔王がずっとこれを連呼し続けているからだろう。
というか、それ以外に理由がない。
ちなみに魔王が食べたいと言っているのは、当然おやつのシュークリームのことだ。
そして、恥ずかしい。
まじで恥ずかしい。
「もういい加減にしろって。」
「嫌じゃ嫌じゃ。嫌なのじゃ!!妾食べたい、食べたいのじゃ!!お主らだけズルいのじゃ!!妾も食べたい、食べたいのじゃーーっ!!」
「ダメだって…」
「なんでじゃ!なんでなんじゃ!!なんで、妾はだけ食べられないのじゃ!!嫌じゃ、嫌じゃ。そんなの嫌なのじゃーーーーっ!!」
ずっとこれだ。
だから周囲から…
「ねぇ聞いた?」
「あの夫婦、子供にご飯食べさせなかったんだって。」
「ひどいわね。」
「ほんと。もっと子供のこと考えてあげるるべきよね?」
「ね。」
多少尾びれがついた言葉が自分の耳にまで届いてくる。
余計なお世話だ。
そしてこの中にいるのが、アイラも限界だったんだろう。
「ねぇ…」
「ん?」
「もうあげたら?」
アイラのこの言葉の瞬間、魔王の目が希望の光でも見たかのように光を灯した。
「そうじゃ!!女子(おなご)の言う通りじゃ!!だから、妾にさっきのをよこすのじゃ!!」
なんでこいつ、こんな偉そうなの…
「嫌。」
「なんでよっ!!」
「そうじゃそうじゃ!!なんでじゃ!!」
なんでって…
「こんな我がままを許したら、このままずっと我がまま言われるだろ!!」
「あ~。」
「だろ?」
「そうね。」
アイラも分かってくれたようだ。
それが、魔王には不服の様で…
「そうねっ…じゃないのじゃ!!女子(おなご)、折れるのが早いのじゃ!!もっと粘るのじゃ!!妾のためにもっと頑張るのじゃ!!」
じーっと、アイラは魔王を見つめる。
「なんじゃ!!なんなのじゃ!!言いたいことがあるのなら早く言うのじゃ!!」
まだアイラは、じーっと魔王を見つめる。
そしてこっちへ振り向いてきた。
「そうね。フェデの言うとおりね。」
「だろ?」
「えぇ。」
「なんでじゃーーっ!!!無視すんなじゃーーっ!!!」
「いやだって…
俺が言葉を返そうとした時…
「ねぇ、アンタら…」
死角から、女性の声が聞こえてきた。
声のしてきた方へ振り向く。
するとそこには、30代くらいのふくよかな体型の女性がいた。
「えっと、なんです…?」
「あんたたち、そんな小さな子にいじわるするんじゃないよ!!」
「「いじわる…?」」
「そうじゃ、そう…小さな子っ!?」
いきなり、なんだろうか…
「あんた達の騒ぐ声、それに周りからの声で、なんとなく状況は察したよ!!それでね、そんな小さな子をいじめて、あんたたち、恥ずかしくないの?親なんだろ?」
「はっ!?私、親なんかじゃ、そもそも結婚なんかしてないわよ!!」
「えっ…!?」
アイラの言葉に、おばさんは目が点になった。
「小さな子…。もしかして、もしかしてなのじゃ…、それは、妾の…」
そして傍らでは小さな子が何か悲し気に何か言ってるが、今はいいだろう。
今はそれよりも…
「えっと、この子、俺たちの子じゃないですよ?」
「そうなのかい!?」
「そうなんです。知り合いに頼まれて、数日前から預かってるだけなんです。」
ギョッとアイラが振り向いて来て、顔をしかめてきているが気にしない。
「そうなのか!?」
「そうなんです。」
「そうかい…」
どうやら、おばさんの誤解も晴れたよう…
「でもね、それでもだよ?そんな小さな子にご飯をあげないなんて、あんたたち、それでも大人なのかい?」
まだ、その誤解が残っていたか…
「えっとですね、それ、しつけの一環なんですよ。」
おばさんは眉をひそめながら俺を見てくる。
先を促しているのか、それとも俺の言葉を疑っているのか…
どっちにしても言葉を続けるしかないだろう。
「この子、かなり我がままなんですよ。自分が食べたいものじゃないと嫌だといってごねて。それで、人の服を引っ張って、それで最終的には人の服を破いてしまったんですよ。なのに、それは自分のせいじゃなくお前のせいだと。さすがにこれは、何か反省させないとってなったんですよ。」
「あーそうなんだね。それは…」
どうやら分かってくれたらしい。
これで…
「でもそれでもだよ?ご飯を抜くのはやり過ぎじゃないのかい?」
まだ続くのか…
「ご飯ではなく、抜いたのはおやつですね。ご飯はちゃんとあげてます。」
「そう、だったんだね…。誤解して悪かったね。」
どうやら、納得してくれたみたいだった。
「いえ、大丈夫ですよ。」
「そうかい…」
おばさんは俺の言葉にそう返事をしたら、魔王と同じ目線になるようにしゃがんだ。
「お嬢ちゃん。」
「お嬢っ…!?」
「ちゃんと大人の言うことを聞いて、立派なレディになるんだよ?」
「ぬぁっ!?」
そう言って、おばさんは立ち上がる。
「悪かったわね、あんたたち。何か勝手に勘違いして。それに出しゃばって…。面倒見るのも大変だと思うけど、でも頑張るんだよ?」
「「はい!!」」
「じゃー、私はこれで…」
それだけ言って、おばさんは去って行く。
魔王の見かけは小さな女の子。
その子が虐待されてると勘違いしたから言いに来ただけで、もし勘違いじゃなかったら、あのおばさんの行為はすごく褒められる行為だろう。
それが分かるから今回のこの一幕、そこまで嫌悪感は…
「待つのじゃ。ちょっと、待つのじゃーーーっ!!妾は、小さな子じゃないのじゃ!!妾はすでに、立派なレディなのじゃ!!もう立派な、レディなのじゃーーーっ!!!」
また魔王が何か言ってる。
でもこれだけは言いたい。
「「それは、ない!!」」
「なんでじゃーーっ!!!」
こんな事がありながらも、俺たちは宿屋へと帰った。
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