第20話 意図知れない
「なんだ、これ……」
同級生によく似た
アリシドの墓から少し離れたところで、幸はそれを見つけた。
幸が『殺し合い』最後の夜を明かした場所から、そう遠くない土に散らばる八つの死体。
鎧を纏った死体たちには一様に首がなく、武器を手に今にも襲い掛かりそうな格好で、こと切れていた。
「あの赤髪がやったのか……?」
幸は複数の死体が転がる場所から、アリシドの墓を振り返る。
低木に覆われた周辺は、幸を襲撃するには絶好のポイントだろう。
もしも赤髪が現れなければ、幸は潜んでいた男達に殺されていたに違いない。
「それにしても、このやり口……どこかで……――――あ」
首がないと言えば、女神に遭遇した時のことを思い出す。
幸が異世界に来てすぐのこと、体格の良い男達に囲まれたと同時に、最強の女が現れた。
その時、幸を囲んでいた男達は首を吹っ飛ばされたわけだが――今幸の足元にある死体もその時と同様、不意打ちで首をはねられた姿のまま時を止めていた。
それが何を意味するのか――。
「……そういえば、俺を見つけたのは騎士姫様だとアリスは言ってた……その女神様とやらは、こいつらを殺したあとに俺を見つけたのか……?」
(……いや、殺した後に見つけたと言うより、これは……)
アリスは『殺し合いが終わった為、騎士姫様が
しかし、幸を見つける直前で他の参加者を殺したのだとすれば、『殺し合い』は終わっていなかったはずだ。
またその場合、幸だけを生かすのは不自然だろう。
アリシドは『女神を見て生き延びた者はいない』とさえ言っていた。
だがこうして幸は彼女の手によって生かされている。
瀕死で生死を彷徨っていた幸が、長く放置されたとは思い難いことから――すぐに駆けつけられる場所にいたのかもしれない。
女神が幸を見つけたのはおそらく――赤髪の襲撃を受けた直後。
「女神様が俺を助ける理由……か」
幸はアリシドの墓をちらりと見て、それ以上、女神に深入りすることをやめた。
それよりも幸は、これから王に乞うべき願いについて考える。
今の幸に出来ることは、アリシドに救われた命を無駄にしないこと。そして恩に報いる努力をすることだ。
アリシドの過度な期待に応えられるほどの技量はないにせよ――せめてアリシドが守りたかったものを知り、助力したいと思う。
何もない幸でも、アリシドが命を賭けた分だけ、願いを叶えるチャンスはあるのだから。
幸は死体を見なかったことにして、雑草に覆われた柔らかい土の上を歩く。
町までの道のりはさほど遠くはなく、数日ぶりに歩く町中には、外で待機していた衛兵たちが集まっていた。
町は『殺し合い』の時から一変し騒がしく、煉瓦の道には赤い絨毯が敷かれていた。幸が一歩踏み込めば、白い紙ふぶきが舞う。
『殺し合い』の間、どこかで避難していた住民たちが見物していた。
異様なお祭り騒ぎの中、幸は冷やかな顔で広場に向かった。
人がいることを気味が悪いとさえ思いながら、アリスに教わった近道を使い、中央の広場に出る。
すると広場の噴水前では、体格の良い女と、派手な赤髪の男が待ち構えていた。
幸の心臓が耳につくほど早鐘を打つ。
見間違えようもない、燃えるような赤い髪。
幸に怪我を負わせた男が――広場の中心で笑っていた。
「――なんだお前、生きておったのか?」
陽の下で神々しく輝きを放つ赤髪に、幸は顔色を失くした。
体から傷は消えても、痛みは覚えている。
昨夜の恐怖を鮮明に思い出した幸は、咄嗟に目をそらす。
膝が笑って足があがらなくなるもの、なんとか腰だけは抜かさなかった。
(まさか、こいつが国王だとは……)
国王というには、あまりにもこざっぱりとした剣士の風体をした男だった。
震える幸を見て、国王は満足そうに笑っていた。
「我が怖いか? よし、存分に怖がると良い――『殺し合い』初めての生き残りよ。お前の望みはなんだ?」
人を殺した証拠は問われず。
気が短いのだろう。顔を合わせるなり単刀直入に訊ねられ、幸は慌てて願いを口にしようとするもの――声が出なかった。
「あまりに待たせるなら、この場で殺してやろう」
「エゼルノワーズ様」
控えていた金鎧の騎士姫に諭されて、国王は出しかけた剣をしまうと、自分よりひと回り大きな女を探るような目で見据えた。
「のう、ベアリス……我が見た時、かの者は瀕死の重傷を負っていたように思えたが、どうやって生き延びたのだろうな?」
「陛下があの者とお会いに? まさか陛下、
「…………我が約束を
国王は勢いを失くして騎士姫から目をそらす。
(――こいつが、『殺し合い』を作った国王……)
体に沁みついた恐怖に、身を竦ませていた幸だが――目の前の男が作った、『殺し合い』のせいでアリシドが死ぬことになったのかと思うと、急激に頭が冷えるのを感じていた。
初めて覚えた強烈な憎しみに激高するわけではなく、逆に凍るような静かで冷たい怒りがほとばしる。
いつしか冷たい怒りの結晶と化した幸は、もう国王を畏れたりはせず、真正面から睨むように見据えていた。
そして幸はようやく願いを口にする。
「――俺を書庫で働かせてください」
「なんだと?」
意表を突かれた顔をする騎士姫と国王に、幸はさらに声をあげて言う。
「俺をこの国で一番、本がたくさんある場所で働かせてください!」
瞠目する国王に、幸は挑むような目で告げていた。
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