【休憩中】お化け屋敷 桐生&朝霧バージョン 完全クリアを目指します!

真衣 優夢

第1話 お化け屋敷に行こう

『 かなしいやかた 』



ここには 子供の幽霊がいるという


無残な死を遂げた幽霊は

救いを求めるあまり

声をあげ 助けを呼んだ


た す け て  く る し い

だ れ か

こ こ か ら   だ し て


その声を聞いて

この館に さまざまなものが きた


カナシミのサケビが 純粋なコトバが

キテハナラナイモノまで たくさん 呼んでしまった


子供の幽霊は 

キテハナラナイモノに 苦しめられ

死してなお もがき続けている


た す け て  く る し い

だ れ か

こ こ か ら   だ し て


また 声が聞こえる


あなたは 子供の幽霊を

たすけてあげられますか




「これがメインストーリーなんだね」


 長身の男性が、建物横に描かれた看板を読み上げる。

 整った顔立ち、艶やかなセンター分けの髪型の彼の名は小宮山 桐生(こみやま きりゅう)。

 私立アヤザワ高等学校の国語教師だ。


「読み上げんでいい!

 入る前から客を怖がらせるとは、おのれ、お化け屋敷め」


「いやいやいや。

 お化け屋敷ってそういうものでしょ」



 明らかに怯えている男性は、朝霧 令一(あさぎり れいいち)。

 前髪を適当に上げたツーブロック気味の髪型は、下ろすと童顔に見えるという理由から。

 彼もまた私立アヤザワ高等学校の教師。生物などの理系担当だ。

 ふたりは同僚であり、同い年であり、性別を超えた恋人同士でもある。



 桐生はお化け屋敷が好きである。怖いか怖くないかより、ギミックや演出を観察するのが楽しいらしい。

 令一は怖がりだ。科学で証明できないものは恐怖で当然と言い張っているが、たぶん、お化けが怖いだけだろう。



 十月限定、ハロウィンイベントとして広場に設置された特別なお化け屋敷。

 屋台も並び、仮装した人々が集い、広場は昼間から大盛況だ。



「デート、どこでもいいって言ったのは令一だからね。

 頑張れ!」


「嬉しそうに応援するな!

 ちくしょう、場所指定すればよかった」



 令一は義理堅い性格だ。一度約束したら破らない。

 とはいえ、苦手と知っていてお化け屋敷をデート場所にする桐生も桐生だ。

 怯えてしがみついてくるのが可愛い、とか思っている桐生は、きっとSっ気があるのだろう。



「チケットはもう買ってるよ。僕の奢り。

 終わったら、屋台でおいしいもの食べようね」


「ソフトクリームとたこ焼きとクレープ」


「うんうん、了解。それも奢るよ」



 なんとか令一の機嫌を取り、桐生は令一を連れてお化け屋敷の入口へ向かった。

 建物の塗装の感じからすると、たぶん洋館イメージなのだろう。



「大人二人、お願いします」



 桐生がチケットを渡すと、テンション高めの明るい係員が嬉しそうにチケットを受け取った。



「『かなしいやかた』にご来場ありがとうございます!

 こちらは、出口で回収するペンになります。

 途中で落とさないよう、気をつけてお持ちくださいませ」



 係員から、なぜかペンを渡される。

 桐生は受け取って、なんとなく令一にパスした。

 令一もなんとなく受け取った。



「こちらは、『拾ってもいいものがある場所』で鈴のように鳴るポケットベルです。

 リーダー役の方がお持ちくださいませ。

 それ以外の場所では、物品のお持ち帰りは禁止ですのでご注意くださいね」



 お化け屋敷で『拾ってもいいものがある』!?

 桐生は嬉しそうに目を輝かせ、ポケットベルを受け取った。

 一応、「持ちたい?」と令一に確認する。令一は首をぶんぶん振って拒否した。



「それでは、どうぞ館の大扉へお進み下さい。

 大扉が開きますよ」



 にやりと笑った係員の笑顔は、なんだか怪しかったような。

 それだけでゾッとする令一、それだけでウキウキする桐生。

 令一の精神が無事であることを、係員は内心祈っていた。お達者で。



 洋館風の大扉が自動的に開く。

 中に入ると、扉は閉じてしまった。

 それだけで令一が「ひっ」と小さく悲鳴を上げる。

 桐生は笑って、令一の背中をぽんぽんした。


 広いホールだ。暗くてよく見えない。

 かと思ったら、スポットライトのようにホール中央が照らされた。

 懐中電灯が落ちているのが見える。

 桐生のポケットベルがぶるぶるっと振動し、「リリリ」と音が鳴った。



「ぎゃあ!」


「わあ、親切だ。あれを拾えってことみたい」



 桐生は懐中電灯を拾った。ワイド式の懐中電灯はあたりがよく見える。

 とりあえず適当に周囲を照らすと、一瞬、ちらっと人影が見えた。



「ぎゃああ!!」


「誰かいるのかな?」



 桐生は、前方に懐中電灯を向けてみた。そこから、左右にゆっくり照らす。

 広いホール、向こう側の壁際に、三人の子どもが立っていた。

 全員、10歳前後くらいだろうか?

 とても生っぽい。人間の子役がお化けをしているなんて、すごいなと桐生は感心した。

 令一は全力で目を背けている。



 左の子は、現代風に近い服装で、男の子だ。

 真ん中の子は、農家風? の服を着ている。これも男の子。

 右の子は、ロングヘアの女の子で、可愛いドレスを着ている。

 三人とも深くうつむいていて、顔は見えない。



 三人の後ろにはドアが見える。子どもに話しかけたらドアが開くのだろうか。



「令一。

 子どものお化けだよ。怖くないよ」


「ホラーでは子どものゾンビだって襲ってくる!!」


「怖がりのくせに、そういうの詳しいね?

 じゃあ、待ってて。ちょっと近づいてみる」


「嫌だ! 離れるな!」


「もー、どっちなの」



 令一は桐生の服にしがみつき、ひきずられるように桐生と一緒に移動した。

 桐生は「まずは左手の法則?」と、現代服の男の子に歩み寄った。



 男の子がきびすを返す。

 男の子は背後のドアを抜けて、ばたばたばた、と足音を残して去ってしまった。

 ポケットベルが震え、「リリリ」と音が鳴った。



「ぎゃあー!」


「大丈夫大丈夫。

 何か拾えるのかな。あっ」



 子どもが立っていたところに、白い紙が落ちている。

 拾ってみると、地図だった。

 4×4のマス目で構成されており、すべてのマスにアルファベットが記されている。

 今いるのは、マス目の前に位置する大部屋のようだ。

 さっき逃げた子供のドアは廊下につながっており、そのまま進むとアルファベットAの部屋に入れそうだ。



「追いかけてみようか。行くよ、令一」


「うう~……」


「まだ、何も怖いこと起こってないと思うんだけど」


「お化けが! 出た!」


「あ、確かに。でも、何もしてこないよ」


「いるだけで怖いんだ!」


「あはは、それはそうだね。ごめんごめん」



 令一をどうにかあやしながら、桐生は廊下を抜けた。

 令一は桐生の服がぐしゃぐしゃになる勢いでしがみつき、ぴったり後をついていく。

 桐生は、部屋Aの扉を開いた。




つづく

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