第17話 予兆の灯
加古川の町から影が消え、穏やかな日々が戻ってきた。凛もまた、教団の影響や「覚醒の力」にまつわる問題が完全に解決したことを感じていた。しかし、そんな平和な日々の中でも、彼女の胸の奥には一抹の不安が残っていた。
ある晩、凛は調査室で過去の記録を整理していた。ふと、教団や幻の花、影の迷宮についてのメモが目に入り、彼女はこれまでの出来事が偶然の連鎖ではなく、何か大きな因果関係で繋がっているように感じた。
「もしかして、これで本当にすべて終わったのだろうか…」
その夜、凛が窓の外を眺めていると、遠くの山々が淡い光に照らされているのに気づいた。その光は静かに明滅を繰り返し、まるで何かを伝えようとしているかのようだった。彼女はその光に引き寄せられるように感じ、山のほうへ向かうことを決意した。
翌朝、凛は光が見えた場所、町外れの「御影山(みかげやま)」へと向かった。この山は古くから神聖視され、地元では「古の者たちが眠る山」と呼ばれ、あまり人が近づかない場所だった。
彼女が山道を進むにつれ、空気が一段と冷たく感じられ、木々が風に揺れる音がどこか不安を掻き立てる。やがて、凛は小さな石碑が並ぶ開けた場所に辿り着いた。その中心には、一際大きな石碑が立っており、石碑には古い文字で何かが刻まれていた。
「これは…何だろう?」
凛が石碑に手を触れると、不思議な感覚が彼女を包み込んだ。まるで何かの記憶が彼女の中に流れ込んでくるような感覚だった。瞬間、彼女の頭にあるビジョンが浮かんだ。それは、かつてこの地で行われた古代の儀式の映像だった。
ビジョンの中で、凛は古代の人々が集まり、何かを祈りながら儀式を行っているのを見た。彼らは「かつめし」に似た料理を供物として捧げ、山の精霊と繋がろうとしていた。凛は、その儀式が「かつめし」にまつわる力の起源であることに気づき、驚愕した。
その儀式では、人々が自らの恐れや欲望を解き放ち、純粋な心で山の精霊に祈ることで、精神を浄化し、調和を保つことが目的だった。しかし、時代が経つにつれ、その儀式は少しずつ形骸化し、いつしか「かつめし」の力が制御されず、逆に人々を苦しめる「覚醒」や「影」の力として暴走するようになったのだ。
凛はビジョンの中で、その儀式を司っていた巫女の姿を見た。巫女は凛とどこか似ており、彼女に向かって優しく微笑んでいた。
「あなたが、私の後継者なのね…この町と人々を守るために、どうか力を使ってください」
巫女の言葉に、凛は深い使命感を感じ、彼女の願いを受け取るように頷いた。ビジョンが消えると同時に、石碑から手を離し、再び現実の山に戻った。
その瞬間、風の中に微かな囁き声が聞こえた。凛が振り返ると、そこにはこれまでの白い猫が姿を現し、じっと彼女を見つめていた。
「やはり、君にはその力が宿っていたのだね。山の精霊が君を選んだ理由が分かるよ」
「精霊が…?それに、巫女の姿も見えた。彼女もまた、この町を守るために力を使っていたの?」
猫はゆっくりと頷き、「かつてこの地には、巫女が精霊と繋がり、町の調和を保つ儀式を行っていた。しかし、時代が変わり、その役割は忘れられていった。その力が誤って使われたのが教団だったのだ」と説明した。
「つまり、私はその役割を引き継ぐべきということ?」
「その通りだ。そして、君はその使命を果たすために選ばれた。君の心には、町と人々を守る強い意志がある。それが精霊との繋がりを生む力となる」
凛は深く息を吸い込み、山の静かな空気を胸いっぱいに感じた。彼女の中には、町を守りたいという思いと共に、巫女から託された新たな力が静かに宿っているのを感じた。
山を下り、町に戻った凛は、これからも町と人々の平穏を守り続ける決意を固めた。影の力に支配されることなく、かつめしの本来の「癒しと調和」の力を使い、人々の心に寄り添っていくのだと。
調査室に戻り、静かに窓の外を眺める凛の心には、巫女から託された力と使命が灯り、加古川の町を守る新たな守護者としての覚悟が満ちていた。
「私はこの町を、そして人々の心を守り続ける」
町の夜は静かに、しかし凛の心には新たな力の予兆が灯り、物語はまた新たな局面へと進んでいくのだった。
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