第42話 目の前でライバル家の令嬢が婚約破棄されている件(メアリー・アザレンカ視点)
こんにちは、メアリー・アザレンカよ。
私はダメ元で新たな国王陛下に姿絵を送った。
家族が勝手にやったのよ!
決して私がショタ好きとかじゃないからね?
でもまさか13歳の子に送るなんて……。
ギード王子が次期国王としてほぼ決定している状態だったから、アザレンカ公爵家ではすぐに推薦できる娘が私しかいなかった。
私だって、ギード王子がエフィ・エルダーウィズ公爵令嬢と疎遠だって聞いて準備させられていただけ。
貴族の娘の悲しいところだし、文句を言うつもりはないけど、5歳も下の王子様に選ばれるわけがないじゃないの……。
しかも私は、国王陛下が親しくしているというエフィ・エルダーウィズ公爵令嬢、そしてクラム・エルダーウィズ公爵令息との関係は悪い。
なにせ、ギード王子がエフィさんに婚約破棄を申し渡す場に居合わせ、あろうことかそれを公式のものとする手助けをしたわけだから。
□学院の大広間にて(メアリー・アザレンカ公爵令嬢)
「もう許せないぞ、エフィ!俺たちの婚約は破棄させてもらう!」
「はぁ……?」
今日はもうすぐ学院を卒業する私たちのことを祝う夜会の日。
学院の大広間で開催された夜会の場で突然ギード王子が声を荒げながら婚約破棄の宣言を行いました。
まったく、なにをやっているのかしら。
私はあんまりな行為についため息を吐いてしまいました。
状況はよくわかります。どうせその背後にぴったりとくっついたオルフェとか言う令嬢に絆され、婚約者であるエフィ・エルダーウィズ公爵令嬢が邪魔になったのですわね。
それでもこの場に婚約者ではなく愛人と一緒に現れ、後からエフィ様が一人寂しくお越しになられた時点で多くのものが予想していました。
私もまさかと思いながら時間の経過を待っていましたが、案の定でしたわね。
この場は公式な行事ではないのですよ、王子?
ここで言ってどうするおつもりなのですか?
国王陛下の決めた婚約でしょうに、許可は取られているのかしら?
そんな疑問を浮かべながらも、私は念のため王子に問いました。
「失礼、王子。理由をお聞かせ願えますか?」
そうしないと話が進まなそうだったのです。誰も関わりたくないでしょうからね。
婚約破棄を言い渡されたエフィ様は我がアザレンカ公爵家のライバルであるエルダーウィズ公爵家の令嬢です。
庇ったりする理由は一切ありません。
そもそも魔石鉱山を有し、国内の魔石供給を一手に握るエルダーウィズ公爵家は長らく我がアザレンカ公爵家のライバルなのです。
なにせ我が家は軍需産業でのし上がった家です。
エルダーウィズ公爵は魔法使い、我が家は騎士ですから、仲良くすることは考えられませんわね。
「メアリーか。理由などいくらでもあるがな。可愛げがなく、魔法もイマイチなお前にはほとほと愛想が尽きたのだ。私が親しくしていたオルフェに嫉妬して嫌がらせを行うなど言語道断だ!将来の国母たる王妃にはふさわしくない!」
「「はぁ……」」
ギード王子はせっかく私が聞いてあげたのに、あいも変わらずエフィ様を睨みつけながら文句を仰ります。
そのあんまりな内容についため息を吐いたらエフィ様と被ってしまいました。
きっとため息の理由は違いますわね。
そして比べたらきっと私の方が衝撃が大きいのではないかと思います。
なにせそこにいるオルフェを虐めるよう裏で手を回したのは私です。それに、あまりの優秀さから授業を免除されて教授の手伝いをされているエフィ様に対して『魔法はイマイチ』なんて噂を流したのも私です。
少し考えればわかるのではなくて?
ただのやっかみ……というか、あわよくばを狙った可愛い裏工作でしょう?
それを逞しい想像力で本当のことだと思われた挙句、さも事実かのように婚約破棄の理由に挙げられるとは、正直驚きました。
それでも私は公爵令嬢です。
この程度の噂や横やりに踊らされるようでは、将来貴族の世界では生きていけませんわよ?
一応、この場で何もしなかったと、謂れのない責めを受けては困るので、正論だけは述べておきますが……
「ギード王子とエフィ様との結婚は貴族のバランスを保つため、王家に高い魔力を保有する高位貴族を迎えるため、そして国内の魔石流通を一手に担うエルダーウィズ公爵家との仲を深めるためだったと記憶しておりますが……」
「いずれも問題はないな。オルフェは魔力は高いし、実家であるハーティス家は魔石加工で名声を得た家だ。爵位は子爵だが、エルダーウィズ公爵家のロイドは私の腹心の部下だからバランスは問題ない」
婚約破棄を言い渡した相手であるエフィー様にではなく、私に向かって説明する王子。
なるほど。エフィ様の弟のロイド様はギード王子の取り巻きになっていますものね。
彼女たちにはお兄様がいらしたと思いますが……きっと王子の頭の中では彼の権力でロイドを跡取りにしてやるとでも思っているのでしょう。お花畑ですわね。
「そうだな、ロイド」
「はい、ギード王子殿下」
やっぱり。予想通りですわ。そうではないと、エルダーウィズ公爵家のものが王子に付き従う理由がありませんわ。
と思ったのですが……
「授業をサボりまくった上に、敬愛すべきオルフェ様に嫌がらせをしていたとは。我が姉ながら見損なったぞ!」
このロイドという方も相当なバカだったようですわ。
とんだ茶番ですわね。
でも、関わる前に知れてよかったですわ。なにせ、王妃になれなかった場合には、このロイドという方の妻となる未来もあったのですから。
そして今日のことでギード王子に近付く理由はなくなりそうです。
むしろ彼は廃嫡されるかもしれませんわね。あの国王陛下のことですから公表していないだけで他に子供はいるでしょうし。
今日この場でだけ恩を売って、あとは避けることにしましょう。こんな地雷なクズ王子……。
「理解しました。エフィ様も特に反論されないようでしたら、我がアザレンカ家は今日の出来事を記録いたしましょう」
我が家はこの件については立場的に中立です。私は現時点では王子の婚約者に立候補していませんから。そして我が家はエルダーウィズ公爵家をライバルと考えていますが、派閥であるとか、政治の場で表立って対立はしていません。
むしろ我々は中立を維持しています。
だからこそ証人となり得ます。
これによってはじめてこの婚約破棄が正式なものとなったのですから、感謝してほしいですわ。
それと同時に、ライバルであるエルダーウィズ公爵家の力を削ぐことができるであろうことを喜ぶが……そこまで甘くはないだろう。
あの大領を過不足なく治めているのだ。きっと現公爵や、その代理をしていると噂される公爵嫡子は優秀なのでしょう。
「ありがとう。これで成立だな。ふん、ようやくお前の地味顔を見なくて済むと思うとせいせいするな」
「失礼いたしますわ、エフィ様。行きましょう、殿下♡」
2人は嫌らしい笑みを湛えてエフィに見せつけながら出ていく。
「全く、エルダーウィズ公爵家の恥さらしめ!」
彼女の弟ロイドは怒り顔で吐き捨てるように言ってから退室して行った。
「悪いけど、利用させてもらったわ。ごめんなさいね……」
そして私も退席する。これ以上ここにいる価値を見出せませんわ。
帰って報告しなくては……。
そしてこの婚約破棄は正式なものとなった。
なったのですが……なんですかこれは……。
目が見えません。
音も聞こえません。
熱も感じません。
私は学院に向かっていたはず。
あと少しで門に着く。
そのタイミングで一瞬、エルダーウィズ公爵家の馬車が見えたと思ったら視界が暗転し、気付いたらこのような状態でした。
「俺の言うことにだけ答えろ」
頭に直接響く声。
恐ろしい……。
体の芯から冷え込むような感覚に襲われます。
これは……。
しかし私の声は出ません。
「余計なことをするな。余計なことを考えるな。問われたことだけを思い浮かべろ」
はい……。
「素直でよろしい。それはお前の命を助けるだろう」
……。
「オルフェという娘を虐めていたのはお前だな?」
ちがっ……。
あれは……。
「実行犯は別だろう。でも、指示したのはお前だな?諭した、と言った方が良いか?」
はい……。
「エフィ・エルダーウィズの魔法がたいしたことはないと言ったのもお前だな?」
はい……ひぇ……
凄まじい怒りを感じた。
なぜ?
オルフェを虐めることより、エフィ様を誹謗中傷する方がダメなの?
「当たり前だ……。オルフェなんてどうでもいい……」
えっ……。
「ふん。すぐに終わったな。計算高い貴族令嬢らしくもっとねばるかと思ったが……」
私はこのまま死ぬのだろうか。
それとも下郎たちにさんざんに犯されるとか……。
「すげぇこと考えるよな。そんなこと思ってもみなかったけど、やってほしいなら放り込もうか?」
やめてくださいまし……。
次に気付くと私はベッドの上で寝ていた。
どうなっているのかと不思議に思ってメイドに聞いたが、『お嬢様は気分がすぐれないと仰って朝から横になっておられましたが?』などと言われて寒気しか感じなかった。
えっ???
時は流れた。
なんと王子も国王もオルフェもロイドも死んだ。
王城の地下に封じられた魔狼が復活し、喰い殺したらしい。
悲惨すぎる。
同時に寒気しか感じなかった。
新国王が即位した。
家族が私を王妃候補に立候補させたが、私は怖さから逃げたい一心だった。
でも、出したものはもう戻らない。
もし王妃に認められれば安心できる。許されたということだ。今後の人生、誠心誠意、アルス様にお仕えしよう。
もし認められなくてもそのまま放出されるなら心配する必要はない。好きにすればいいと言うことだ。
当然認められなかった。
伝手を使って警備をしていた兵士に聞いたところ、クラム・エルダーウィズ様は私の名前を見て一瞬嫌そうな顔をしたらしい。
その言葉だけで十分だった。
でもそれだけだった。
私は家格に見合った男性と政略結婚し、終生、新国王に忠誠を誓った……。
エフィ様は私のことを覚えていらっしゃって、王城での夜会で『あの時はお世話になりました』なんて言うものだから肝を冷やしたけど、その言葉を隣で聞いていたクラム様の表情が穏やかになったのを見て、胸を撫でおろした。
おかげで暗闇は怖いままだったけど、ほどほどに幸せな生活ができた。
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