第41話 新国王の伴侶探しがあっちに行ったりこっちに行ったりしている件

□王城にて (クラム)


「アルス様。見てください。多くの貴族から姿絵が届いております。どうぞご覧ください。ただ、誰が誰でどんな性格かわからないでしょうから、今日はクラムとエフィを招いております。あくまでも私的な意見となりますが、2人に話を聞きながら選んでいただければと思います」

そう言ってエルダーウィズ公爵が差し出したおびただしい数の絵……。

これ全部、女の人の絵なのか?

アルス新国王に婚約を申し込んだ人がこんなにいたってこと?


凄いな……。

まぁ、多くの貴族たちは学院の卒業までに伴侶を決め、卒業してから結婚するものが多い。

逆に言えば、学院に通う前の年齢……つまり、アルス新国王と同年代の娘にはまだ婚約していないものがたくさんいる。

だからこそこんなに多く集まったんだろう。


より取り見取りで良いな。羨ましくはないけど。


「と言っても、僕はまだ貴族の関係性とか覚えていなくて……」

まぁそうだよな。

数か月で全部覚えられたら凄い。


「そのために私とエフィが参りました。姿絵の女性自身は知りませんが、その兄や姉のことは知っているものも多いですし、彼らを通じて領地のことや人となり、家族構成を調べた経験もありますので」

そう。エルダーウィズは公爵家だからこそ、同学年となる生徒のことは調べる。

そしてそれを記憶させられる。


もちろん将来役に立つ縁を持つためというのと、逆に避けるべき人を知るためだ。

実際には、避けるどころか消し去りたい奴らがいたけど、たいてい魔狼に咀嚼されて仲良く天に召されたな。あとはカーシャに……。


「アルス様は姿絵をまず見ていただいて、興味をもたれた方を言って頂ければ、私たちで整理します」

エフィもアルスとはもともと仲良くしていたのもあって、力になれるならと意気込んでいた。本当に可愛い良い子だ。

あとは、アルス新国王が血迷ってまた「エフィさんが良い」とか言い出さないように監視している必要がある。


「逆に我々も見せて頂いて、関係性として縁を結んだ方がいいと思われる娘をまとめておきます。例え王妃にならなかったとしても、高位貴族に嫁ぐなりして、今後も関わるものもいるでしょうから」

なにせ、もともとは愚鈍な父さんがエフィにだけお願いしようとしていたのを無理やり捻じ曲げてついてきたんだから。ついてきたからにはちゃんと仕事はする。


俺たちは別室に移動して姿絵を見て行く。



「あっ……」

さっそくアルス新国王が一枚の絵に興味を示した。

覗くと、確かに美しい娘。

大人しそうな感じだが、笑顔は可愛く、可憐だ。どことなくエフィに似ている気もする。

こういうのが好みなんだな。


「彼女はアイーシャ・エッカード伯爵令嬢ですね。エッカード伯爵は建国以来の歴史ある貴族で、当代も不正だらけだった王家に靡かず、堅実に領地を治められている良い貴族です。エルダーウィズ公爵家とはもともと別派閥というのも良いですね」

「良いのですか?」

俺の言葉に驚くアルス新国王。

そりゃあ、良いに決まっている。

由緒正しく、誠実な貴族は大歓迎だし、ちょっと力が強くなりすぎているエルダーウィズ公爵家とも距離があって、他の貴族のやっかみも抑えられる。


「もちろんです。陛下には前にお話しした通りです。エルダーウィズ公爵家の力は少し抑えるべきですから」

「わかりました。では、候補としてもいいということですね?」

ちょっと嬉しそうだ。良かったな。早いうちに候補者がいれば、安心して見て行けるだろう。



「この方は……?」

「えぇと……」

次に興味を惹いたのは、俺的にちょっと微妙なまさかの相手だった。

あいつ、婚約者いなかったのか。

それは申し訳ないことをしたかもしれないな。


「あっ、彼女は良く知っています。メアリー・アザレンカ公爵令嬢ですね。私の同級生で、私が婚約破棄されたときに証人になってくださった方ですわね」

「えっ……」

えーと、エフィ。にこにことまるで恩義があるかのように語っているが、その証人というのは良い仕事ではないからね?


むしろ、本来なら非公式ですむところを無理やり公式のものにしてしまったわけで、悪意を持って利用したと言われてもおかしくない所業だから。

もちろん理解したアルス新国王の表情は微妙だ。

俺の表情を読んだのかもしれないけどな。


「えっと、やめておきます。すみません」

「えっ……」

「それがいいかと。亡くなった王子たちと親しかった方はさすがに……」

「「なるほどです」」

あっさり諦めてくれて良かった。

俺がお仕置きしたのがバレたらまずいから、ちょっとホッとした。


「あっ……」

次にアルス新国王が目に止めた姿絵を見て、俺とエフィは固まった。


「えっと、すみません。手違いで入り込んだようです」

そう言って俺が姿絵を回収しようとするが、なんとアルス新国王が手を離してくれない。

えっ、まじで?


「お会いするだけでもお許しいただけませんか?」

なんでそんなに目をウルウルさせて姿絵を見つめてるんだよ。

えっ、どこかで会ったことがある?


それとも姿に惹かれたとか?

確かに可愛いとは思うけど、それは悪魔みたいなメスガキだぞ?

騙されたらダメだぞ!?


「どうか……」

「わかりました。しかし、先ほどのアイーシャ様の後でお願いします」

「わかりました」

くそっ、認めるしかなかった。

 

なんでだよ。なんで末の妹のアリアの姿絵が入ってんだよ。

しかも信じられないくらいに気合を入れたやつが。

 

なんで姿絵を入れてんだよ、クソ親父め!

エルダーウィズ公爵家の力を少し削いだ方がいいって、あれ程言っただろうが!

なにも理解してなかったのかよ!!!?

 

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