第39話 新国王が即位したけど、ちょっとお疲れかもしれない件

□王城にて (アルス新国王)


新しい年を迎え、その日に僕は戴冠し、国王になった。

1年前の今日は、叔母であるヴェルト教授とエフィ様と一緒に研究室で徹夜で魔法陣の改造をやっていたことを思うと、なんて遠いところに来たんだろうと思ってしまう。


王城と学院は歩いて行けるくらいなので、距離は近いんだけどね。


僕は朝の日差しを浴びながらバルコニーから顔を出す。

多くの人が僕を見ようと集まってくれている。

あまりの多さに驚くとともに、これから何か話さなければならないという緊張感で、手汗が止まらない……。


でも、ちらっと後ろを見ると僕を支えてくれると誓ってくれたエルダーウィズ公爵をはじめとした大臣たちが並んでいるし、国民が集まっている広場の周りでは騎士団や魔法師団が整列して警備してくれている。


そして恐ろしい魔狼はもう地下にはいない。

それを成してくれた叔母もエフィさんもクラム殿もここからは見えないけど、功労者として大臣たちの横で参列してくれている。

『見守っているから頑張って!』と言われたのを思い出す。


僕が今ここにあるのは、身を賭して僕を産み、育ててくれたお母さんと、それを引き継いでくれた叔母さん。そして優しくしてくれたエフィさんと、全力で支えてくれると言って下さったクラム殿のおかげだ。

感謝しても感謝しきれない。


あれからクラム殿は僕や母に関係があった人を見つけては"人物史"という特殊魔法を使って母のことを探ってくれた。

出てくるのは優しかった母が多くの人に好まれ、助けられていたというエピソードだった。

本当に勇気づけられた。


同時にそんな母に手を出し、捨てた前国王に対しては憎しみと嫌悪感しかない。

しかし国王になったからにはこの想いには蓋をしておかないといけないのかなと思っていた。

その上で僕もまた政略結婚をすることになるのかなと。


しかし違った。なにせクラム殿は暫定政権の面々の前でも『あのクソ国王が! 墓を掘り返してもう一回燃やしてやるぞ!? 骨は入ってないけどな』とか言っていて驚いた。

彼に思いを打ち明けると、『あんなクズに気兼ねする必要はない』『大事なのはアルス様が同じようなことをしないことです』と言われて心は軽くなった。そして『もし心が重たくなったら俺や叔母さんに相談すればいい』とも。


なんて良い人なんだ。

エフィさんもステキだった。

彼女は僕に魔道具をくれた。"守り"と"精神を軽くするもの"と"楽しい気分にさせてくれるもの"と"頭をスッキリさせてくれるもの"とかだ。クラム殿に連れられて来てくれたエフィさんの道具袋から次々に出てくる魔道具を見るのは楽しかった。

同時に、僕のことを思ってくれていることが嬉しかった。


そんな暖かいことを思い出しながら、僕は今までのことへの感謝と、これから新しい国王として頑張っていくことを自分の言葉で話した。

大きな拍手をしてくれた国民、兵士、文官の方たちに感謝だ。


「お疲れさまでした、アルス様」

スピーチが終わった後、エルダーウィズ公爵が労ってくれた。そして……


「次は、アルス様の結婚相手。王妃様を探したいと思いますが、ご希望やお好みなどありますでしょうか?」

「えぇ!?」

正直、全く考えてなかった。僕はまだ13歳だし。

でもそうだよな。王妃様のいない国王なんてありえない。


でも誰がいいだろう。僕はあまりそういう目で女性を見たことがなかった。

そもそも以前とは環境も違いすぎて、これまでのことなんか何の参考にもならないんだけどさ。


好み……。

正直に言っていいものだろうか?


僕にはずっと憧れていた人がいるけど、でも迷惑じゃないだろうか。


ただ言わないと伝わらないだろう。

ちらっと部屋の隅にいる彼女を見る。


そして……

「エ……」

「大丈夫ですか!?」

ん? 今なんか衝撃をうけたような……。って、なぜクラム殿が?

僕はよろけて彼に支えられたのかな?


「エルダーウィズ公爵、陛下はお疲れの様子です。気持ちが逸るのはわかりますが、少し休憩されては?」

「そっ、そうか。そうですな。失礼しました、アルス様。明後日から新年を祝う会が各地で開かれますので、少し考えて老いて頂ければと思います。それでは我々はこれで失礼いたします」

そう言って焦ったように出ていくエルダーウィズ公爵をはじめとする大臣たち。


うん……言えなかったな。

というか、言ってはいけなかった?

それもそうか。まずはクラム殿にお許しを頂かなければ。



それにしてもクラム殿には助けられてばっかりだな。

あの守護結界の魔道具を破壊したのも凄かった。

いくら魔力が入っていないからといって、あんなに重厚に組まれた魔道具を一撃で破壊するなんて。しかも必要な部分だけはしっかり守っていた。

あれで多くの貴族がクラム殿の凄さを思い知ったし、それ以降、なんか会議とかがスムーズに流れるようになったような気がする。


もともと僕は勉強のための参加で聞いてるだけだったけど、もう一歩踏み込めばもっと良くなるのにとか思うものが多かった。

そういったものに対して賛成側も反対側も躊躇しているように見えたけど、それがなくなった。


クラム殿の力が僕を支えてくれているため、僕の前で変なことはできなくなったなと、去っていくラード殿が仰っていた。

そういったことに僕は何も気付けていなかった。

まだまだ未熟だ。

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