第38話 王城地下にある守護結界の魔道具を撤去することになったから気合を入れてぶっ壊した件

そうして少し月日が流れ、今日は新年。そして新国王を迎える日となった。

アルスくんの立太子、そして即位についてはとてもスムーズに事が進んでよかったな。


『はぁっ、はぁっ、主様あぁぁん♡ ご命令の通りうっとーしぃバスラ伯爵の首は落としておきましたわぁあぁあぁぁぁあん』

「うむ、ご苦労」

まったく、偉大なる前国王の血を引き、偉大なるヴェルト教授の薫陶を受けたアルス様を否定するとは。だったら貴様を魔狼の餌にしてくれようか!?


ん? なにを見ているんだ? これは秘密の仕事だから気にしないでくれ。どうせ欲まみれで醜聞まみれの汚い男だったしな。

国を治めるためには灰色な役割もあってだな。誰かがこなさなければならないんだ。

頑張れよ、カーシャ。


『もうおわりですかぁ~?』

「なにを言っている。あとエセット侯爵、マフォード伯爵、フィガレット伯爵、アンスエル子爵は少なくともぶっ殺せ。それで表立った反対者は方向性を見失うだろう。くっくっく。なにが『あんな素性も知れぬ若輩者に従うか! 貴族の誇りはないのか?』だ。国内の並み居る公爵家と、力のある侯爵家、伯爵家が全員賛成しているというのに、アルス様にたてつくなど、笑止千万! 屋敷で震えながら悪霊に襲撃されて死ねばい!!! そうだ、どうせならやつらの血で『見ているぞ!』とでも壁に書いて来い。それだけで後ろ暗いやつらは動けなくなるだろう。はっはっはっはっは」

『うわぁ~、主様が悪い顔しているわ』

「あぁん?」

『ひぃ~~、ごめんなさい。カーシャ、イッキま~~~す!!!』

ん? まだ見ていたのか? ここは放送禁止だから、もっと王国の綺麗な場所を見てきた方がいいと思うよ? なっ?




なんてことはきっと全部誰かの夢で誰かの悪夢だ。


大事なことだからもう一度言うけど、アルスくんの立太子、そして即位についてはとてもスムーズに事が進んでよかったな。


「アルス様。我ら暫定政権一同、今後の陛下の未来を祝福するとともに、今日をもって暫定政権を解散し、全ての権限をお返しいたします」

「うん。魔狼によって王城が崩され、王都は被害を受けた。多くの貴族も被害を受けた中、高い志を持って国を安定させてくれたことに感謝する。ご苦労だった。そして大臣や王城での役職をお願いする方々には、引き続き国のために働いてほしい」

「「「「はっ」」」」

そして暫定政権は解散する。


彼らの多くは報酬も得ずに働いていた者たちだ。

そしてほとんどのものがアルス新国王の政権に残る。

自ら望んで出ていくのは俺くらいじゃないだろうか?


あとはそうか。ラード侯爵がいたな。

高齢だが直近まで大臣をしていたことから呼び戻されて働いていた。

彼もこのタイミングで政権を離れるんだったな。


「1つだけ、去り行くものとして新国王陛下にお願いがあります」

「ラード侯爵。どうぞ、お聞かせください」

「ありがとうございます。地下にあった守護結界の魔道具。あれは残すべきと思います。戒めとして。あれは大きな役目をおったものだったにもかかわらず、その意義が忘れ去られ、関与する者が利己的に扱った結果、大きな惨事を引き起こしました」

「なるほど。わかった。忠言、感謝する」

アルスは素直に聞いた。

このスタンスが重要だな。

臣下の言葉に耳を傾ける善き国王様だ。


しかし、人が集まれば意見は分かれる。


「なるほど。しかし、あの空間を無意味に残すのはもったいない」

財務大臣となったエルダーウィズ公爵……つまり父が異論を唱える。

このケチが!


「あれの一部だけでも良いのだ」

「なるほど。しかしどうやって破壊しますか? 魔力が失われたとしても、魔狼の力を持ってすれば壊れる、という強度です」

「なら俺……いえ、私がやりましょうか?」

みんなからすると理性的で、穏やかで、優しくて、エフィ命なだけのちょっとお茶目な主人公に見えていると思うが、一応、俺の魔法はそこそこ強力だ。


そろそろそれを見せておかないと主人公としての立場がないということではないからな。


「クラム殿。では、お願いする」

大丈夫か? といった表情を浮かべている政権の面々やラード侯爵を見回した後、アルス新国王は俺を指名してくれた。

余裕だよ余裕。


「わかりました」


改めて見たが、守護結界の魔道具はとても大きい。

その中心部は装飾も施されていて美しい。残りはただの無機質な壁だ。

中心部とその周囲の壁の部分だけを残して破壊してしまえばいいだろうか。


「では行きます。魔法障壁を張ってお守しますが、あまり前に出ないようにお願いしますね」

俺の言葉に従って並ぶ大臣たち。

もちろん新国王は俺の背中の後ろだ。守るべき対象だしな。


「では。"ファイナルストライク"」

気軽に放った魔法は、特に属性も持たせてない、ただただ対象を破壊するものだった。

一応残したい部分にも魔法障壁を張っているから、これで問題ないだろう。


魔法が魔道具を破壊し、大きく壁を抉ってしまったので、魔法で壁の強度を高めておく。

なんなら工兵の魔法で補強しておけば、前より広くなって使い勝手も良くなったんじゃないか?


「さすがだ……」

新国王が呟いているが、褒めてくれているならありがたく受け取っておこう。


「完了しました」

俺は新国王に跪いた。


「「「おぉ……」」」


これ以降、新国王に逆らおうとするものは誰もいなかったらしいから、やってよかったな。

ラード侯爵も狙い通りの成果があったと言って、満足げに領地に戻って行った。

めでたしめでたし。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る