第36話 俺は素直に謝れる大人だから謝ってちゃんと説明したら嬉し泣きされた件

「もう、なにがあったのかと思ってビックリしてしまいました」

「ごめんなさい。ヴェルト教授もアルスくんもごめんなさいでした」

ショックでちょっと人格が壊れたかもしれないが、まずは謝る。


こういう時にちゃんと謝れる大人のままでいようと誓っているのだ。


「で? お兄様は何をしていらっしゃったのですか?」

エフィはちょっと怒った顔で問い詰めてくるが、相変わらず可愛いので迫力はまったくないどころか可愛い。

でもここでにやけたりしたらマジで怒られそうだから神妙な顔を作って魔力で固定してぼろが出ないようにしておく。



「エフィにも話した通り、俺は今、国王の子供を探している」

「「はっ?」」

やはり驚く教授とアルスくん。

きっと予想通り情報の行き違いがあるんだろうな。


「ちなみに2人は何だと思ってたんだ?」

「僕はクラム様が教授の秘密でも掴んで脅してその……婦女暴行的な感じかと思ってました」

正直だね君は!!!

お兄さん、びっくりだよ。そもそも普段のヴェルト教授の様子を見てたらそんなことする必要は全くなくて『抱かせろ。愛人にはしてやるから』の二言で完了の簡単なお仕事だろそれ!?!?


「アルス……」

「アルスさん……」

「アルスくん……」

当然ながら俺もエフィも、彼が守ろうとした対象であるヴェルト教授すらも『うわ~』って目でアルスくんを見つめる。


「えっと、ごめんなさい」

さっきの俺と同じように素直に謝るアルスくん。

偉いぞ。一緒に謝れる大人を目指そうな。

どこかの国王とかクソ王子みたいにならないようにな!


「で? 教授は?」

「私は、ずっとエマが何かを怖がっていたから、きっとマズいことがあるんだと思ってたんだ。それで、クラム殿が血相を変えてやってきて、エマのことを聞くから、ヤバいと思って……」

「なるほど……」

聞けばもっともなことだった。

確かに市井の中で国王の子なんかいたら危ないだろう。

何が近づいて来るかわからない。


金を持ってると思われるかもしれないし、国王への何かしらのカードにされるかもしれない。

国王に呪いをかけるための触媒とか言って囚われて血や臓器を使われるかもしれない。

なにせ危険だ。


だからエマは隠したんだ。

そしてアルスくんを守ろうとしたんだな。


あんな国王に手を出されなかったらもっとまともな人生を歩めただろうに。

重ね重ね王家はクソだな。


「お兄様は国王様の子供を探すと仰っていましたが、アルスくん……いや、アルス様がそうなのですか?」

「そうだ。今、ヴェルト教授に"人物史"を使って調べさせてもらおうと魔法を発動したところにアルスくんが飛び込んできたからそのまま見えてしまった」


驚く3人。

そりゃあそうだよな。

ただの教授の甥っ子で、庶民だと思っていたんだから。

 

俺は"人物史"が見せた情報を読み上げた。

 

 

<アルスは国王ハロルド11世とエマ・ヴェルトとの間に産まれる。既にエマ・ヴェルトはハロルド11世に王城から退去させられており彼は父親のことを知らない>

<エマ・ヴェルトはハロルド11世の追っ手、および王家に恨みを持つ者たちからアルスを守るため、天才研究者である妹に助けを求め、匿ってもらった>

<エマ・ヴェルトは病気を患って亡くなったが、心配していた追っ手や暗殺などはなく、家族と楽しい日々を過ごして逝った>

<アルスは大きくなり、エマの言いつけを守って叔母であるサラ・ヴェルトの助手となった>


以上だ。教授に"人物史"をかけるときに、エマ・ヴェルトに絞って調べようとしたからそれに沿った情報が見れた。

病気は残念だったし、ずっと怯えていたのかもしれないけど、教授やアルスくんとは仲良く過ごせたのが不幸中の幸いだな。


本当は国王が秘密裏に護衛でもつけて守るべきなのにな。



「そうだったんだな……」

「お母さんが楽しいと思ってくれていたなら、僕は嬉しいです」

2人は泣いていた。

"人物史"は本人たちすら知らないこともたまに教えてくれる。

エマ・ヴェルトに絞ったおかげで彼女の感情までが表示された記録に感動したのだろう。


ここはしばらく……感情が落ち着くまでは待った方がいいな。


幸い、彼らにとって国王はエマ・ヴェルトを捨てたクズだが、直接的な害は及ぼしていないようだ。

しかし退去とはどういうことだ?

追放とか放逐とかではなく、ただ出しただけか?


あのクズのことだから不要になったとか、最初から遊びだっただけということもありうるが、それなら追放とかになりそうなんだけどな……?


まぁ、結果は変わらないがな。


「クラム殿。知らなかったこととはいえ、誤解から非難するような行動を取って申し訳なかった」

考え込んでいると教授から謝られた。

その表情からは何か気負っていたものがなくなり、憑き物が落ちたような様子になっていた。

ずっと甥のことを背負ってたんだろうな。

優しい人だと思う。


良い人を見つけてくれればいいなと思うが、それもアルス殿が国王になったらヤバいかもしれない。

きっと政略結婚の申し込みが殺到してしまうな……。

喜ぶかもしれないが。


 

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