第10話 お兄様とヴェルト教授の距離が近すぎる件(エフィ視点)
翌日登校した私はいつも通りヴェルト教授の研究室に直行した。
もはや教室や学友に何の興味も関心もなくなった。目指すは研究のみ。
もしかして教授になるための試験を受けられないだろうか。
私は本気でそう考える時があった。
今まで、王子と婚約している時には絶対に叶わない夢だった。
だけど、晴れて自由の身にになったのだから、それもありなのかもしれない。
魔法使いを優遇してくれるエルダーウィズ公爵家であれば、許されるかもしれない。
とまあ、それは置いておこう。
もし受けるとしたら来年度だし、まだまだ時間はあるから。
「どうしたんだエフィ。良い笑顔をしているな」
「おはようございます、ヴェルト教授」
研究室に着いて早々、珍しくヴェルト教授が出迎えてくれた。
本当に珍しいことに服はよれてないし、白衣がぱりっとしているし、なんと薄く化粧もしているようだ。
ただ、この方の感覚は少し一般と違うところがあって、スカートは短いし、胸元は大きく空いているし……その、はっきり言って少し卑猥だ。
でも珍しい。いつもは落ちてる布を拾って身にまといましたと言わんばかりに適当な格好をしているのに。
甥っ子くんがどれだけ顔を赤くして注意しても聞きもしないのに。
今日は氷でも降ってくるのかな?
もしかして槍とか?
どうか私にあたりませんように……。
「クラム殿から連絡があってな。魔石を持ってきてくれるそうなんだ。なにかお願いしてくれたのかい?」
「えっ? あぁ、そうです。昨日お願いしたら、屋敷にある魔石は全部譲ってくれるって」
「それはありがたい! これでしばらく魔石の残数を気にする必要がなくなるな。昨日のうちにエルダーウィズ公爵家の方を通じて連絡してくれたんだが、びっくりしてしまった。ありがとうな、エフィ」
どうやらお兄様がきっちり連絡してくれていたみたいだ。
既に時間まで整えて……。ありがとうございます、お兄様。帰ったらちゃんとお礼を言わないと。
それにしてもヴェルト教授……。独身のお兄様に会うのに、その恰好はちょっとどうなのかしら?
ちょっと煽情的すぎるんじゃないかしら……。
珍しくちゃんと服は着ているものの、お兄様に会うのだとすると、これは妹として注意をした方がいいのかしら……。
でもお兄様もわざわざ来るということは……えっ?もしかして?
私がちょっと自分の考えに驚いていると、本当にお兄様がやってきた。
そして会議室に案内され、ヴェルト教授が明らかにご機嫌な様子で入って行った。
そこから出てくる甥っ子くん。彼の名前はアルスくんだ。
ヴェルト教授の甥っ子だと聞いているけど、歳は13歳で、私より3つ年下の童顔で可愛らしい顔つきの男の子。
こんな大きな甥っ子がいるということは、ヴェルト教授はお姉様かお兄様とは年が離れていたのだろうか?
そんなアルス君も驚いた顔で会議室から出て来た。
きっとヴェルト教授の様子に驚いたんだろう。
本当に2人が……?
でもそう考えると腑に落ちることはある。
そもそも私がここに入れてもらったのはお兄様の紹介だし。
えっ……本当に?
心の中でなにかチクっとした気がした。
妹として、お兄様のことを応援すべきだとはわかってるわ。
お兄様はエルダーウィズ公爵家の後継者だし、もう20歳で本来なら結婚していてしかるべき年。
なのに結婚しないのはなんでだろうって思ってた。
一方のヴェルト教授は24歳。お兄様よりは年上だけど、美人さんだし、凄まじい魔法の腕を持っている。
この国には15年前まで"魔女"と言われる大魔法使いがいた。
なんと出身はエルダーウィズ公爵家だ。
先先々代とか、先先先々代とかそんな感じのご当主様の妹で、魔法で長寿を保っていた方らしい。
私も会ったことがあるらしいけど、赤ちゃんの頃の話だし、当然覚えていない。
ちなみに王国の災厄と言われた魔物を封じたのは別の"魔女"様だ。だけど"魔女"の称号は素晴らしい魔法使いに送られるものだ。
そんな魔女を輩出した通り、エルダーウィズ公爵家は魔法に関係の深い家だ。
ヴェルト教授は幼いながらその魔女に認められた天才児だった。
もしかしたら周囲が納得する実績をあげるまで待っているのかもしれない。
お互い惹かれ合っていて……。
どうしよう。
私、ブラコンだったのかな?
この考えを続けるのが苦しい。
応援しなきゃいけないってわかってるのに……ごめんなさい、お兄様。
もちろん、そんな思いを抱えていたとしても、今私ができることは何もない。
ただただ、2人の話が終わるのを待つだけ。
研究室で様子を伺っていても、会話の内容なんてわからない。
ちらっとアルスくんが見えたが、彼も同じように様子をうかがっているみたいだった。
そうしてしばらくするとお兄様が会議室から出て来た。
私の方を一度見てくれて、目が合うと微笑んでくれた。
素敵なお兄様。
ただ、会話はすることなくお兄様は行ってしまった。
その後、だいぶたってから会議室から出て来たヴェルト教授はとてもご機嫌で、再び研究に没頭していた。
羨ましいと思った。
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