第3話 優しい寝顔に一安心しつつ至福の時間を過ごした件
しばらく抱きしめながら『大丈夫だ』と声をかけていたら、ようやく安心したらしい。
エフィはそのまま眠った。
寝顔が可愛すぎる件……。
お人形さんみたいな小さな顔を包み込む優しい色合いのブロンドヘアがよく似合っている。
貴族には長い髪の女性が多いが、エフィは魔法やその研究の邪魔になるからと肩にかかるくらいの長さで切り揃えている。
華奢な体だ。
もう少しご飯を食べさせよう。
すぐに魔法に夢中になって食事のことがどこかに消え去ってしまうから。
そんなことを思いながらお姫様抱っこして暖かくした部屋にエフィを運んだ。
そして可愛らしく飾り付けた寝台に寝かせる。
目元に残った涙を優しくぬぐい、布団をかけた。
これで家出してしまうことはないだろうが、今日はこのまま様子を見守っていよう。
ゆっくり眠れば落ち着くだろうし、明日になればまた学院だ。
同級生たちと顔を合わせることになるとしたら嫌だろうけど、エフィが通うのはヴェルト教授の研究室だ。
授業を免除されているエフィが同級生に会うことはない。
俺はエフィが婚約破棄され、家族に責められて家出し、そこで悪霊に襲われるという未来を知ってからその回避のために動いてきた。
婚約破棄自体を回避することも考えたが、それも悪手だった。なぜならあのクソ王子は必ず浮気するらしい。
もちろん国王に側室や愛人がいることは普通だ。だが、あのクソ王子は問題外だ。
なぜなら、改良した"人物史"によってもし婚約破棄が起きなかったら、という未来を視てみた。その結果、王城の地下に封印されたモンスターが復活し、王家が襲われた際にエフィは見殺しにされる。クソ王子が避難するための時間稼ぎのためだけに。
そんな未来は許さない。
一方、婚約破棄させればモンスターが復活するかどうかはその後の状況次第になるらしい。
俺のやることは決まった。もともと決まってたけど、婚約破棄は実行させ、モンスターを倒す術を身に着ける。これだ!
まぁ、婚約破棄は実行させる、エフィを家出させない、悪霊を倒す、がそもそもの計画だ。
悪霊を倒すためには修行が必要だから、その延長上でモンスターを倒す力を身につければいい。
この"人物史"という特殊魔法は有用だ。
これのおかげで未来の計画が立てられる。
自分自身を見れない事だけが難点だが、周囲の人物によってだいたい予想はできる。
幼い頃、なぜだったか父さんが浮気していると思い込んだ俺は子供ながらに張り込んだり、嗅ぎまわったりしていた結果、なぜか使えるようになった。
えっ? 詳しく教えろって?
王宮で子供向けのパーティーに父さんと一緒に参加した時にな。きっと父さんは愛人に会うはずだと思い込んで勝手に会場を抜け出したんだ。
彷徨った結果、変な部屋に入ったらそこでよくわからない言葉を聞いて……それでこの魔法を使えるようになっていた。
この特殊魔法によって、ヴェルト教授の興味を惹くことができた。
ぜひ解明させてくれと鼻息荒く迫られた結果、"人物史"の魔法陣を提供することになったが、それがエフィの研究対象になって彼女の生きる力になるなら大歓迎だ。
今は"人物史"の魔法陣の解明を目指しながら、消費魔力を抑える改善方法を考えたいと思っているらしい。
エフィにはその魔法陣を提供したのが俺だってことを知らせていないらしいから、ヴェルト教授にはもしできたらくれとお願いしておいた。
もし伝えたら家からでなくなるからって言われて納得した。それでもいい気がしたけど、学院くらいは卒業しておかないとさすがに体面上マズい。
勉学と交友は貴族の義務だ。
ん?交友は大丈夫なのかって?
ちゃんとヴェルト教授という王国の中でも最高峰の魔法研究者とつながっているから大丈夫だ。
クソみたいな生徒と交流するよりよっぽど有意義だろ?
それにしてもエフィに対するクソ王子の態度はムカつくな。
昨日あったことを本人から聞き出すのは忍びないから"人物史"で読み取ったら、こんな感じだった。ムカつくな……。
<ギード王子に婚約破棄される>
<ギード王子から魔法はあんまりだし、顔も地味でイマイチと侮辱される>
<ギード王子からオルフェを虐めたという謂れのない責めを受ける>
<オルフェ・ハーティスは内心でエフィをバカにしながらこれ見よがしにギード王子にしなだれかかる>
<メリア・アザレンカは本当は自分がオルフェを虐める指示を出したのに黙って婚約破棄を成立させる>
<ロイド・エルダーウィズはエフィを恥さらしと罵る>
<他の生徒達は婚約破棄以降、誰もエフィに近寄らず、エフィは孤独な時間を過ごした>
許すまじギード王子……そしてロイド。
アザレンカは保留だな。もし俺がエフィとギード王子の関係を応援していたとしたら彼女は明日の太陽を見ることはなかっただろうがな。
まぁいい。どうせやつらの運命は暗い。
面倒だからもう"人物史"をかけることもないだろうけど、明るい未来が待っていない事だけは確かだ。
えっ?王家とか、クズ王子にざまぁはしないのかって?
するする♪
その話はこの後じっくり味わいたいからね。
折に触れて紹介してやろう。
だが俺は忙しい。なにせ悪霊を探して倒さないといけないし、王城地下に封印されているモンスターと戦わないといけないかもしれないし、そもそもエフィを愛でまくらなければならない。
その合間で良ければ、たまにはクソどもの話をしてやるよ。
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