義妹が婚約破棄された。その方が幸せになることを知っているので流したが、それ以上はさせないぜ!?

蒼井星空

第1話 婚約破棄そっちのけで魔法のことを考えていたら後戻りできなくなっていた件(エフィ視点)

□学院の大広間にて(エフィ・エルダーウィズ)


「もう許せないぞ、エフィ!俺たちの婚約は破棄させてもらう!」

「はぁ……?」


今日はもうすぐ学院を卒業する私たちのことを祝う夜会の日。

学院の大広間で開催された夜会の場で1人でやってきて隅っこでお料理を頂いていた私に婚約者であるギード王子がそんなことを仰った。


なるほど。これを言うことを決めていたから夜会の準備も行わず、エスコートもして頂けなかったということね。



「失礼、王子。理由をお聞かせ願えますか?」

そこへメアリーさんが王子に聞かれました。

彼女は私の実家であるエルダーウィズ公爵家とはライバル関係にあるアザレンカ公爵家の娘。


「メアリーか。理由などいくらでもあるがな。可愛げがなく、魔法もイマイチなお前にはほとほと愛想が尽きたのだ。私が親しくしていたオルフェに嫉妬して嫌がらせを行うなど言語道断だ!将来の国母たる王妃にはふさわしくない!」

「「はぁ……」」

ついついメアリーさんと一緒にため息をついてしまった。


親愛なるクラムお兄様から勧められてヴェルト教授の研究室に出入りするようになってから、同級生との授業は一切免除されている。


そんな私がどうやってその……オルフェ様と仰ったでしょうか?

その方に嫌がらせなどするのでしょうか?


魔法ができないというのも授業を免除された私のことを揶揄う噂でしかないのに……。

ギード王子の婚約者ということで王宮には王妃教育に通っていましたし、その中で国王陛下に請われていくつか魔法を使ったのですが、覚えていないのでしょうか?


いないのでしょうね。

オルフェという方にぞっこんのようで、終始離そうとしない。

それどころか物理的にくっついて歩き回っていたわね。

ずっと見ていて思ったのですが、歩きにくくないですか?



「ギード王子とエフィ様との結婚は貴族のバランスを保つため、王家に高い魔力を保有する高位貴族を迎えるため、そして国内の魔石流通を一手に担うエルダーウィズ公爵家との仲を深めるためだったと記憶しておりますが……」

「いずれも問題はないな。オルフェは魔力は高いし、実家であるハーティス家は魔石加工で名声を得る家だ。唯一爵位は子爵だが、エルダーウィズ公爵家のロイドは私の腹心の部下だ」

婚約破棄を言い渡した私ではなく、メアリーさんに向かって説明する王子。


なるほど。弟のロイドはギード王子の取り巻きになっていますものね。

我々にはクラムお兄様がいるけど……ロイドとクラムお兄様の仲はあまり良くない。

きっと王子に取り入り、ロイド自らがエルダーウィズ公爵家を引き継ぐつもりなのでしょう。



「そうだな、ロイド」

「はい、ギード王子殿下」

そしてなぜかこの場にいる弟ロイド。

あなたはまだ学院の2年生だから今日の出席者ではないでしょうに……いや、ギード王子とともに生徒会メンバーになっているから警備か運営の名目でしょうね。


学院は建前上、生徒は皆平等ですし、こういった行事は生徒主催で教師陣は手伝わない。

さらに一部の教師は学院内に研究室を持っていて教授と呼ばれている。彼ら、彼女らは授業すらほぼ行わない。

ひたすらこの国の方針に従って魔法や魔石、軍事、戦略、および基礎学問の研究をしているのだから。


そのおかげで私が師事しているヴェルト教授は自由に行動出来ていて、私は授業を免除されて行動を共にしているわけだ。

なぜそんなことになったのかというと、クラムお兄様が何かの際に知り合ったヴェルト教授と意気投合し、助手を探しているが優秀な魔導士がいないと嘆いていた教授に私を推薦してくれたからだ。


お陰で様々な魔法に触れることができた。魔法の楽しさを思う存分に味わい、その魅力をより深く感じるようになった。


ギード王子には『魔法もイマイチ』なんて言われてしまったが、そんなことはない。

学生の中で負けるような相手は見当たらないし、一部の教師たちよりも使える。

実際にヴェルト教授や校長先生、学年主任の先生からはお墨付きをもらっていて、だからこそ授業免除なのだから。


ただ、私のことをやっかんだ生徒達から『落第だ』などと言われていることは知っている。

いわゆる陰口というものだ。


ほぼ研究室に入り浸っている私に実害はないので放っていたが、まさかこんなところで婚約破棄の理由の一つに使われてしまうとは……。

釈明した方が良いのかもしれないけど、聞いてくれるような雰囲気ではないように思う……。


「授業をサボりまくった上に、敬愛すべきオルフェ様に嫌がらせをしていたとは。我が姉ながら見損なったぞ!」

そうして弟ロイドがそんなことを言っているが、もうどうでもよくなってきた。

早く研究室に戻って魔法研究をしたい。


ヴェルト教授から興味深い魔法として、対象となった人物の過去や未来を覗く魔法の魔法陣を見せてもらいました。

とても繊細で美しく、そして未知の機構が組み込まれたものだったの。

しかもそれは机上で組み上げたものではなく、実際に使う方がいる魔法だと言うのだ。


唯一、魔力消耗が激しいのが難点とのことで、もし解読できたら工夫してお返しする約束をしているのだとか。

あの魔法陣を解き明かしたい。

そのためなら昼夜も惜しまず、三食睡眠など放り出してしまいそう……。


「理解しました。エフィ様も特に反論されないようでしたら、我がアザレンカ家は今日の出来事を記録いたしましょう」

いけません。私が魔法の魅力に思いを巡らせている間に事態が進んでしまった。

公爵であるアザレンカ家が記録したということ。これはもう学生たちのお遊びではなく、この婚約破棄が公のものになったという宣言だ。

これはちょっとまずい気がする。


「ありがとう。これで成立だな。ふん、ようやくお前の地味顔を見なくて済むと思うとせいせいするな」

「失礼いたしますわ、エフィ様。行きましょう、殿下♡」

さっきまで婚約者だったギード王子と、嫌らしい笑みを向けてくるオルフェ嬢は歩いてどこかへ行く。


「全く、エルダーウィズ公爵家の恥さらしめ!」

弟ロイドは怒り顔で吐き捨てるように言ってから退室して行った。

 

「悪いけど、利用させてもらったわ。ごめんなさいね……」

メアリーさんだけは本当に申し訳なさそうな表情で謝って去っていく。彼女の立場なら王妃を狙うか、それとも王子に貸しを作るかだが、きっと後者を取ったんだろう。抜け目ない。それこそ公爵令嬢に相応しいんだろうな。


 

一方、自分は王子殿下に婚約破棄された公爵令嬢……。

ロイドが言う通りなんだろう。

夜会ではそれ以降誰も話しかけては来ず、少しずつ私の頭の中で気まずさと、家族への申し訳なさが膨らんでいった……。

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