第10話 ドローンを使って
ドローンも持って艦橋に戻り、静かに船を動かす。
1kmくらいまで近づかないとまずいとは思うが、明るくなれば流石にこの船も見つかるだろうし、どうするかな。
1kmくらいの距離があればまず攻撃はされないとは思う。
流石に対艦ミサイルや魚雷は撃ってこないだろうし、青銅製の大砲では射程にも入っていない……と思う。
俺は勝手に敵の武装を青銅製のフランキー砲くらいだと決めつけていた。
俺の考えがあながち間違えではないと思いながら艦橋横の扉からデッキに出てドローンを飛ばした。
流石に1kmくらいまでの距離だと、緊張するが何より大した時間を掛けずに敵さんのところまでドローンを飛ばせる。
早速甲板上にいる人間の声御を拾うか。
「風止んでしばらくたつが、全く吹く気配がありやせんね」
内蔵カメラがとらえているのは後部デッキ近くの僧舵輪を持っている男の声だ。
「日が昇るころには昨日と同じくらいには吹くだろうから、それまで我慢だな」
やったね、敵に気が付かれずに会話を盗み聞き出た。
会話の主は当直中の航海士だろう。
もっともこの時代に航海士などの専門職を定められていればの話だが、少なくとも夜中に操船を任されるだけの人ではあるので、それなりにこの船では責任ある立場のはずだ。
絶対に奴隷のような信用のおけない連中でもなければ攫ってきた人でもない。
でも、航海士?だと、攫われた人の情報を話してはくれないか。
他でもあたろうかな。
ドローンを別のところに回そうとしたら、非常に小さな声だけど女性の子を拾ってきた。
「お、まだ起きているのか」
「悪いか。
こんな格好をさせて寝てないもなにもないだろうに。
両腕を縛られ、座ることしか許されないのだからな」
声は船倉の方からしたので、先の当直の連中が声を出した女性に話しかけている。
「そりゃ悪かったな。
だが、この扱いだって格別だということを理解してほしいな。
荒くれどもから守ってやっているのだからな」
「そんなことをしたのなら、粗末なお前らの物を噛み千切ってやるさ」
「オーオー、勇ましいことで。
そんなことを言っているとあのお姫様を守れずに死に行くことになるぞ」
「き、貴様。
姫に何かしたらタダでは置かないぞ」
「俺たちに敗れて捕まった騎士様の言うセリフではないな」
「クッ!」
「安心しろ、姫もお前らも売り先が決まっているから、乱暴はしない。
売り先がどこかは言わないが、お前らも姫様と一緒だそうだ。
よかったな、喜べよ」
本当によかったよ、姫の情報を入手できて。
誰かは言わないとか言っていたのに口が軽いのか、帝国貴族に売られるとか言っていた。
ありがとな、名前すら知らない人よ。
これで先のミーシャの話を合わせると、おぼろげながら全体像が見えてくる。
俺は会話を録音しながら聞き耳を立てていた。
長らくやり取りがあったが、当直と話しているのは姫の護衛の一人のようだ。
でも本当にいたんだ『クッ!』っていう女騎士が。
これで『クッ殺』まで言ってくれれば完璧なのだが、さすがに神様も現れた以上ラノベの話上ではないのでありえないか。
でも、これでかなり情報が集まってきた。
集まった情報を検討すると、逃げ出したミーシャのことを攻めてきたのは国を攻めた教国ではなく、帝国というところの貴族からの依頼だということのようだ。
その依頼主は俗に言うアウトローたちに懸賞をかけて姫を攫うようなことをしていた。
どうも、きな臭い話になるが、その帝国というのが、事前に教国が商業連合を攻めることを知っていたようで、各地にいる海賊や盗賊たちに美貌で名高い姫を攫うように懸賞を出しているらしい。
正式な帝国の名称が、会話に出てこないので俺には知りえなかったのだが、海賊たちの会話を聞いている限りこの世界ではどうもいちいち正式な国名を言わずとも帝国だけで通じるようだ。
元居た世界で合衆国といえばアメリカを指すように似ている。
もっとも、元の世界ではアメリカを合衆国と表現する方が珍しいが、この世界では違うらしい。
それと、ミーシャから依頼のあった姫の現在地もおぼろげながら判明した。
この船の船長室に囚われているらしい。
美女を攫った船長はよろしくやっているのかと思いきや、帝国の貴族に引き渡すためによろしくはできないと件の当直たちは話していた。
当たり前といえば当たり前の話で、ここで船長だけがよろしくしていたら、この船の士気など維持できるはずもなく、当直たちも拘束している護衛の女性たちを襲ってしまうだろうから、船上では御法度のようだ。
よかった、俺の常識の範疇に収まっている。
軍艦で公務中によろしくはありえないだろう。
これはこの世界でも同じのようだ。
さてさて、これからどうするかだ。
懸念していた敵の判別だが、誘拐している段階で彼らが敵と認定してもいいだろうが、だからと言って直接射殺もちょっとな。
船が沈むことがあっても救助はしないが、直接手を下すのはまだハードルが高い。
飛ばしているドローンのバッテリーもそろそろ少なくなってきているので、一旦ドローンを回収した。
流石に俺の操縦テクニックでは艦橋横のデッキに卸すことは難しいので、ヘリすら着陸ができる後部デッキに降ろすことにした。
これ、結構便利で、自動で帰還させる命令があるので使ってみた。
コントローラに使っている端末から『帰ってきたよ』って報告が来たので、俺は艦橋を離れて後部デッキに行ってみた。
しっかり後部デッキの中央にドローンが帰ってきている。
実に優秀なドローンだ。
俺はそれを拾ってドローンが仕舞ってあるロッカーのある部屋に行く。
そこには、ドローンのメンテナンスのための設備が色々とあり、俺は使ったドローンの充電をって、ひょっとして要らないのかな。
補給何タラは全て魔素だったか、それがあるのでいらないと言われていたが。
でも、端末にはバッテリー残量の不足って表示も出ていたし、一応マニュアルの手順に従って充電を試みる。
充電を始めたようだから、俺はとりあえず艦橋に戻ることにした。
艦橋に戻るとミーシャが起きていた。
きちんと身支度まで済ませているから、かなり前から起きていたのかもしれない。
「おはよう、ミーシャ」
「おはようございます? 守様」
「ああ、おはよう。
まずは腹拵えをしようか。
腹が減っては戦ができないともいうしな」
「それは守様のお国の言葉ですか」
「ああ、空腹では良い仕事ができないという意味だ。
同じものになるが、食事をしよう。
それから食べながら相談したいことがある」
俺はミーシャにそういうと、二人で食堂に向かった。
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