第9話 文明の利器という名のチート


 レーダーでとらえた影はやはり帆船だった。

 図鑑などで見たことのあるキャラック船に近いかもしれない。

 とにかく暗視カメラで捉えた映像をミーシャに見てもらうと、自信は無さそうに見えるがこれだと言い張る。

 さてどうするかな。


 まずは腹ごしらえが先だ。

 俺は船を停船させてから、ミーシャと食堂に向かい冷蔵庫から食事を取り出す。

 流石に60人分の昼食を用意してあっただけに当分は食いきれない。

 まあ、俺が食堂に行ったタイミングは遅番前だったこともあるので、20人分くらいの分量が残っていた計算になるが、それでも俺とミーシャの二人だと10食分だ。三食を食べても3日は十分にあるというが、正直同じ食事になるので飽きそうだ。


 ミーシャに同じ食事を与えると本当にうれしそうに食べていた。

 俺が飽きるというものならものすごい勢いでありえないと反論された。

 多分船上での食事は俺が考えている以上に酷いもののようだ。


 食後に、時間を確認しても20時にもなっていない。

 とにかく4時間ばかり寝てしまおうと考えたのだが、ミーシャは納得がいかないようだ。


 俺はミーシャをレーダの前まで連れて行き、レーダー画面上に映っている船影を指さして説明をしておく。


「ここに映っているのが、さっきミーシャに見せた船だ。

 この影は非常にゆっくりとだが動いて、この画面から外に向かっている」

「画面?」

「ああ、これのことで、この影がそうだな、この位置を超えたら起こしてほしい。

 何をするにも体力を温存しておきたいので、俺は4時間ばかりあそこで寝ている。

 大丈夫そうか?」

「はお、任せてください」

「何かあれば遠慮なく起こしていいから」

「わかりました、守様」


 別に取り逃がしても一度とらえているからすぐに捕まえられそうだったことと、気圧計も天気が崩れそうにないと言っている。

 気圧計がそう言っているのではないけど、その値を示しているから問題はなさそうだ。

 風以外に動力が無い船なので、4時間でも俺の指定した位置まではいけないだろう。


 俺はミーシャが不安にならないように海図室の扉を開けっぱなしにしてソファーで横になり仮眠をとった。


 4時間は寝ただろうか。

 海図室の時計は24時を回っていた。

 今まで気にはしていなかったのだが、時計は確かに正確に時を刻んでいるのだろうが、そもそもこの世界って地球と同じ時を刻んでいるのだろうか。

 1日が24時間正確には23時間56分だったか。仮に24時間だとしても、それが24時間3分だと、今はいいが後々になって問題にならないかな。

 そのあたりをきちんとあの『カミサマ』が考えてくれたとも思えない。

 まあ、日没も大体そんな感じだったし、そもそもいまここに暦が分からない以上って、下手をするとこの世界にはまだ暦が無い……ことは流石にないだろうが、正確であるかどうかが問題だ。

 尤もそれも顕在化するのは数年が経ってからになるのかな。


 まあ、今はあの『カミサマ』がくれるという大型船を探すことと、後で登場してくれた神様が言うイベントを片付けてからになるのだろう。


 今やろうとしていることは、ひょっとしなくともイベントの一つでゲームでいうところのチュートリアルなのだろうか。

 え~い、余計なことを考えずに、一つ一つ丁寧に片していこう。


 俺はソファーから起きて、艦橋いるミーシャに声をかける。


「ありがとうな、ミーシャ。

 その後変わったことは?」

「いえ、何もありませんし、この点はほとんど動いていませんよ」

「そうか、ならまずは顔でも洗ってくるからもう少し待ってくれ」

 俺はそういうとすぐそばにあるトイレに向かう。

 洗面所で顔を洗って気持ちをシャキッとしたら、艦橋に戻りレーダーを確認する。


「確かにほとんど動いていないな」

 俺はそういうと気象データの観測機のところに向かい、過去数時間のデータを調べた。

 昼間は吹いていた微風も今はほとんど吹いていない。


「風が止まったようだな」


「え、そういえば……」


「わかった、ならミーシャは寝てくれないか」


「え、私は大丈夫です」


「ああ。今は大丈夫かもしれないが日が出てから作戦行動を起こすが、その時に眠くなるとまずい。

 今寝るのも仕事と思って前に寝ていたベッドで寝ておいてくれ。

 今度は俺が起きているから任せてほしい」


「守様がそういわれるのなら、指示に従います」


 まあ、姫様が心配で寝付けないかもしれないが、横のでもなっているだけでも違うから寝ておいてほしい。

 何せ二人しかいないのだ。

 船を沈ませるだけならなすぐにでもできるが、囚われている人の救助となると正直絶望的だ。

 何せ二人対二百人。

 まともには勝負できない。

 しかしどうするかな。

 甲板上にいる人間だけを一人ずつ殺すことはできそうだが、ミーシャの言うことを鵜呑みにして海賊と完全には判明しない人を殺すには正直気が重い。


 ここは近づき、交渉からかな。

 交渉するにしても決裂した場合も考えないとまずいな。


 俺はもう一度暗視カメラで海賊船だと思われる船を観察している。

 さてさて俺にできそうなことは何があるのかな。


 あ、この船にはドローンが積んであったな。

 ドローンを使ってあちらさんの会話でも拾うか。

 会話を拾うことができれば、少なくとも敵かどうかの判別できる情報くらいは取れるだろう。


 俺は艦橋から離れて船倉に向かった。

 倉庫内にはいくつかタイプの違うドローンが仕舞ってあるロッカーがある。

 普通は厳重に管理されているので、鍵など面倒もあるのだが、流石に俺のためにと用意してくれた船だけあって俺はどこでもフリーパスだ。


 あ、これだ。

 指向性集音マイク付きの小型ドローン。

 これなら暗がりで使えば、まず見つからないだろうし、10mくらいまで近づければ声も拾えそうだ。


 となるとできる限りあいつに近づくか。



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