第2話 民間軍事会社への転職


 アメリカには民間の軍事会社なんかも充実しており、俺は海軍省情報局に繋がりのある軍事会社に潜り込むことができた。

 流石にアメリカの政府機関には日本人の俺がそのまま就職することはできないだろうが、民間ならば話は別だ。

 幸いなことに、ここは日本で仲良くなったアメリカ海兵隊員の紹介だ。

 彼は偶々たまたまロスに来ており、俺は船を降りてからすぐに彼に今後の生活について相談したところ、この職場を紹介された。

 それからは、話はとんとん拍子に進み、俺は士官待遇で迎えられた。

 その後は有無を言わさずに、すぐに俺は今まで乗っていた巡視艇と同じクラスの哨戒艦に載せられて、横須賀経由で地中海に向けて移動中だ。


 なぜかって云うと、これまた大国のロシアが近隣におっぱじめた戦争のために付近の海域の安全を守るために、一応近隣諸国の有志による依頼を受けた形でアメリカから出した援助の一つという話だ。


 しかも、大国を刺激しないように民間の軍事会社を派遣してきたのだが、俺の潜り込んだ民間軍事会社というのがこれまた曰く付きで、海軍からはみ出した女性軍人が多く務める会社で、俺の乗り込んでいるこの艦も艦長から女性の務める女性上位の乗員構成になっている。

 操船や哨戒にそれなりに訓練を受けた俺はすぐにこの艦の士官として乗せられて、現在俺を乗せた船はあろうことか三浦半島沖を横須賀に向かって航行中だ。

 横須賀のアメリカ海軍さんからお客さんを乗せるとか聞いているが日本に帰るなと釘を刺されての帰国になるが、どうも横須賀での上陸は俺を含めて全員が許されていないらしく、これを聞いた時には乗員全員が一斉にぶーたれていた。


 俺は正直助かったという気持ちの方が勝っていたのでどうでもよかったのだが、今回ばかりは俺たちを含めこの派遣にかかわる人たちには余裕が無いように思われる。

 戦争の行方に影響を受けているようだが、急ぎ黒海周辺まで向かわないとまずいらしい。

 それならばパナマ運河を使って直接大西洋に出た方が早く着くが、横須賀から載せないとまずい人がいるらしく、こんな面倒くさい航路をとっている。

 俺は、どうでもいいことなので、暇があるときには常に後部デッキにて哨戒を兼ねた訓練を行っている。


 勤務中にたとえ訓練だとしても不謹慎だと言われかねないので一応言い訳をしておくと、俺は準待機中の身分で当直中ではない。

 平均的日本人としてしか生きてこなかった俺が戦場に連れていかれるのだ、戦場と聞いて恐怖を覚えないわけがない。

 いくら天涯孤独だとはいえ、また同じ日本人のそれも上司たち職場の連中に嵌められた過去があるとはいえ、人生に絶望するには早すぎる。

 まだまだ俺は死にたくはない。

 生き残るためには何でもする覚悟はできている。

 何をすればいいのか俺は知らないが、この職場を紹介してくれた友人の海兵隊員の話では『戦場で生き残るためには、体を鍛えろ』と教わった。

 最後には体力がものを言うことらしい。


 アメリカの海兵隊といえば戦争のプロであり、世界中の戦場が彼らの職場といっていいくらいの連中だ。

 いくら俺の友人がまだ戦場を経験したことがなくとも、彼は猛者たちがたくさんいるところで働いているので、生き残るための経験則くらいは聞いているだろう。

 その彼が言うには、戦場で生き残る条件として、運が一番大切なそうだが、運命の神様は体力のある人を愛することらしい。


 何とも脳筋のような言い草だが、最後に生き残っているのは一にも二にも体力がある連中だけだそうだ。

 それしかアドバイスをもらっていない俺には選択肢はない。

 そんな感じで、とにかく体力強化のために現在後部デッキを走り込んでいた。


 そんな俺が訓練をいったん中断して空を見上げる。

「しかし、急に雲行きが怪しくなってきたな」

 俺は独り言を呟く。


 今まで雲は多かったが、視界もあり十分に有り快適な海域だったのだが、その雲が急に多くなったばかりか、雲の色もおかしい。

 海上警備庁時代ではこの海域にも来たことはあるが俺の配属先が瀬戸内だったこともあり、このあたりの気象状況などには詳しくもない。

 育った街も田舎で、ここからは遠い。


 多分、光の関係なのだろうとは思うが、なんと表現すればいいのかオーロラのような色合いもあれば紫の雲?なんかもある。

 とにかく異常な状況にしか思えない。

 大地震の前兆かなとも思ったのだが、大地震を経験している俺でも見たことのない天気だ。

 経験豊富な船乗りならば何か知っているかもしれないが、あいにく俺は海に出たばかりのひよこも同然、大学校時代に航海訓練に出たことはあるが、それだけ……いや、奉職後も一年に満たないが、海上勤務もあるが、そんなのは経験豊富な船乗りからしたら丘者おかものと何ら変わりのない扱いを受けるくらいだ。

 しかも、あいにくこの船にはそういうベテランと言えるような人はいないと俺は思う。


 艦長からして海軍の少佐だったと聞いているが、三十路前半、アラサーでの少佐だ。

 美人だが、ベテラン船乗りのイメージからしてかけ離れている。

 たいていこういう船には頑固者の古参兵がいてというのも、この船に限れば聞いたことも見たこともない。

 俺が配属されたときに全員を紹介されたのだが、乗員60名のすべてが海軍出身者、しかもほとんどが女性だった。

 機関部員に幾人かの男性もいたけど、あれって本当に男性かってやつだ。

 少なくとも俺は、彼らとは友達になりたくもなれるとも思えない。

 俺の性的嗜好は倒錯した世界にはない。

 彼らとは、そういう連中だ。

 だから、女性ばかりの艦内でも安全だったという話だ。

 この説明をしてくれた艦長からして彼らを男性とは見ていないようだった。

 色々とあるようなのだが、不安はあるが今のところ俺自身の身の危険を感じたこともないので正直助かる。

 俺が数少ない士官待遇だというのもあるのだろう。

 下士官以下が士官を襲うなんて、反乱以外にないので死を覚悟しないとできない所業だ。

 だからなのか俺の安全も確保されているらしい。


 そこまで説明は無かったが、そういうことのようだ。


 俺が下らないことを考えていると突然大きな波が俺の目の前に現れて、すぐに俺は波に飲み込まれた。




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