第12話

 そして空間が完全に消滅する直前、ふと周囲の景色が元に戻り、僕たちは現実世界に引き戻された。


「大丈夫なの?ろん?」


 肆が不安そうな表情で駆け寄ってきた。


 彼女の声に安堵を感じながらも、僕は少し疲れたように肩を落とした。


「…ああ、なんとか。」


 僕はそう答えながら、周囲を確認する。


 そして、裁判所の空間から解放され元の世界に戻ったことを実感した。


「ねえ、ろん。あなたって...」


 肆はしばらく黙った後、真剣な目で僕を見つめ続けた。


「本当にただの人間なの?」


 僕は少し苦笑いを浮かべながら肆を見た。


「さあ、葵を探しに行こうぜ。」


 僕は肆の疑問に正面から答えることなく、話題を変えた。


「う、うん。わかった…」


 肆は少し戸惑いながらも、僕の意図を汲んだのか、それ以上は何も言わなかった。


 僕たちは歩き始めた。大切な葵を見つけるために。


 *


 私が目を開けた瞬間、すでに「そこ」にいた。


 周囲には何もない。見渡す限り、空も大地も存在しない。すべてが白色で染められた、虚無のような空間だった。

 何度か瞬きをしたが、視界は変わらない。暗闇でも光でもなく、ただ「無」としか呼べない空間が広がっているだけ。


「さて、探しましょうか……」


 声を出したはずなのに、音は返ってこない。まるで、音という概念さえ存在しないかのようだ。


 しばらくすると、上空から白色の小さな立方体が一つ、ふわりと落ちてくるのが目に入った。逆に、地面からはゆっくりと立方体がせり上がってきていたが、その数はほんのわずかだった。


 手を伸ばしてみても、それらに触れることはできなかった。立方体はただ、目の前で一瞬だけ漂い、静かに下に落ちては消えていく。これらは、かつて脈打っていたものが冷たくなり、残骸となったものに過ぎない。


 やがて、また別の立方体が上から降ってくる。次々と、どこからともなく白い立方体が落ちてきていた。人間の世界では戦争か、それとも大災害でも起きているのだろうか...。


 彼女は浮かない顔をした。しかし彼女はこれに少しだけ慣れていたのか、動揺は見せなかった。


 その時、一つだけ輝いている立方体が他のとは違う方向から落ちてきた。その立方体は、太陽のような明るさをまとい、全てを正義にするような光を放っていた。彼女の表情はいっそう険しく変わった。

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