第10話

 あいつの言っていることが正しいなら、相手だって自分たちに危害を加えることはないはず。そう考えたいところだが、何か悪い予感がする。僕は深く息を吸い、周りを見回した。逃げ道も、助けを呼べる術もない。圧倒的な威圧感を放つ裁判の場に、僕たちは完全に閉じ込められていた。


「被告、ろん——お前が問われている罪を、これから明らかにする。」


 弐の声が再び響いた。彼の目は鋭く光り、裁判の場は一層冷たさを帯びた。


「なんのことか全くわからないのだが。」


「お前は、神と人間の契約を知っているか?」


「ああ、神が人間の世界の秩序を守る代わりに神は人間の世界に住むことができるというものだったよな。」


「ああ、そうだ。この契約では神は人間界にいることができるが、逆に人間が神の世界にくることは許されていない。」


 弐の血のごとく赤い目が冷たく光り、彼の視線はますます鋭さを増す。


「お前はその契約を破ったのだ、ろん。お前は人間でありながら神の世界に侵入してきた。そして肆よ、お前は神の世界に存在すべきではない者を神の世界に招き入れた。これもまた罪である。」


「ああ、そうだな。僕と肆はお前の言う罪にあたるのかもしれないな。でもな、お前をここで倒せば全部チャラになるんだよな?」


 弐は薄く笑いながら、冷酷な表情で僕を見つめた。


 裁判所の冷たい空気がさらに張り詰める。


「お前は理解していないようだな、ろん。この場では力は通用しない。そんな状態で私を倒せると本気で思っているのか?俺はこの世界にいる6人の強者の1人だ。お前の隣にいるやつとは強さの次元が違うと思え。」


「わ、私だってその中の神様なんだから!」


 肆は反論しながらも、少し動揺した様子を見せた。


 弐は冷ややかに笑って、「その意気は買うが、肆。残念ながら、ここではお前の力も封じられているのだ。お前たちがどれだけ強がっても、この場における権限を持つのは私だけだ。」


「肆、今度は僕がやる。だから下がっててくれないか?」


 肆は僕の言葉に驚いたように振り返り、少し不安そうな表情を浮かべた。


「ろん、何を考えているの?」


 弐は冷静さを失わず、興味深そうにこちらを観察していた。


「いいだろう。お前との勝負、受けてたとう。」


 そう言って彼は立ち上がると、彼の手には赤色のオーラをまとった短剣が形作られた。


 その剣のオーラの濃さは今までに裁いてきた者の数の多さを物語っていた。そして彼は僕に向かってそれを構える。


「その武器、ただの短剣じゃなさそうだな。」


「ああ、そうだ。いずれ理解することとなるだろう。この剣がお前の血で染まるときにな。」


「その時を楽しみにしてるよ。」僕は心の中で冷静さを保ちながら、弐の動きを警戒した。


「始めるぞ。」弐は一瞬の隙も見せず、短剣を振り上げ、僕に向かって突進してきた。

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