教師近藤が激怒
近藤が高校生のときのことです。彼は電車通学をしており、放課後に歩いて校門を出ました。
そして、駅への道の途中に横切る公園で、一緒の学校の男子生徒で友人の羽場耕一郎の姿を見つけました。制服なので耕一郎も下校中と思われますが、ベンチに座ってパンをほおばっているのでした。
「どうしてこんなところでパンを食べているんだい?」
近藤は公園に入り、彼のもとへ行って、声をかけました。
「ん? ああ、近藤か。ちょっと今日、昼飯を食い損なっちまってさ。カネが浮くからいいやと思ったんだけど、腹が減り過ぎて我慢できなくなったから、そこの店で買って、食ってたんだ」
公園のすぐそばに、小さい商店がありました。
「ふーん」
「あ、お前も一個食うか?」
それは、袋に六個ほど入っていて、耕一郎が食べて残りは二個になった、ロールパンでした。
「じゃあ、もらおうかな」
訊かれたことで、自身も小腹がすいていると感じた近藤はその一つを受け取り、かじりました。
そのときです。近藤はショックを受けた表情になりました。
「ん? どうした?」
耕一郎が気づいて尋ねた直後、近藤は叫ぶように声を発しました。
「これ、ぶどうパンじゃないか! そう言えよ! ムーカ、ムカムカ、ムーカ、ムカムカ、プシュー!」
レーズンが口に合わない近藤は、ぶどうパンが大嫌いでした。表面にレーズンはついていなかったですし、よく見ずに、それと思わず食べて、びっくりも加わったことにより、意味不明な言葉をしゃべりましたが、とにかくひどく怒っているのだと耕一郎は理解できました。
「悪い。干しぶどうが嫌いだったのか。知らなかったからさ」
「ムーカ、ムカムカ、ムーカ、ムカムカ……」
怒りが収まらない様子、また、常識外れの近藤ですけれども、さすがに食べ物を吐きだしたり捨てたりするほど落ちぶれてはいないので、仕方なく食べきろうともう一口かじりました。
すると、再び彼は雷に打たれたように表情を激しくしたのです。
「お、おい。大丈夫か?」
耕一郎は心配しましたが、近藤は今度は反対に一気に冷静な態度に戻りました。
「もう。気をつけてくれよ」
なぜか急にちょっと機嫌が良くなった近藤は、そう言うと、手を振って耕一郎のもとから去っていきました。
「……」
耕一郎はさっぱり訳がわからず、少しの間放心状態になりました。しかし、よく考えれば相手はあの近藤なのだと思いだして、こちらも落ち着きを取り戻しました。
そして近藤は鼻歌でも口ずさみそうなくらいの明るい顔で帰宅していったのですが、なぜいきなり激怒からそうなったのかというと、そのレーズンロールパンは中にマーガリンが入っているタイプのものだったからなのでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます