第11話 セーフハウス完成
そして3日が経った。
吾郎は坂本のツテで、ついに銃2丁と弾丸100発を手に入れる。
値は張ったが、吾郎は気にもしなかった。頼れる武器を手にしたことで、終末の中で安全にやっていく自信が倍増した。また、必要な薬品も相田との取引で手に入れ、高級輸入薬を二箱確保した。
さらに一週間が経ち、坂本から電話がかかってきた。
「ご希望通り、セーフハウスが完成しました」
と電話の向こうで坂本が明確な口調で、引き渡す前に検査に来るようと伝えてきた。
しばらく滞在していたホテルを後にし、吾郎は家に車を走らせた。坂本に連られリフォームの検査を行う。家に入った瞬間、吾郎は目を見張った。さすが国内一流のTGN社が手掛けたリフォーム、スピードと品質には一切の妥協がない。
屋内には吾郎の希望通り、厚さ100mmの鋼板が設置されていた。 さらに、外観からは以前と全く変わらないように仕上げられていた。 坂本は吾郎に細かい説明を始める。
「換気システムは軍用のものを導入しており、有害ガスをすべてろ過できます。外部から毒ガスで攻撃される心配もありません」
「その上で、保温システムも構築し、北極にある研究所に使われた素材が使われています」
「ご希望通り、暖炉も設置して、熱の損失を99.5%まで遮断可能です」
坂本はそう説明しながら、吾郎に意味ありげな微笑みを向けた。
「安全性を強化するため、家の周囲にモニタリングシステムを設置しました。300台のカメラで隙のないモニターが実現されています」
吾郎はこれらの説明を聞き、驚きのあまり言葉を失った。ただ、金があれば普通の人には考えられないサービスが得られるものだと痛感するばかりだった。バルコニーに出てみると、そこは巨大なガラスの窓に替えられていた。
坂本は説明を続ける、
「この窓の素材は全て防弾、防爆仕様で、100mmの鋼板よりも頑丈です」
「光の採り入れや外部の観察もしやすくなっています」
吾郎はこのセーフハウスに大いに満足していた。
武装した軍人ではない限り、この家に侵入することは難しいだろう。近隣の建築物が崩壊したとしても、この家だけは無傷で残るだろう。
「TGN 社に造っていただいたこのセーフハウス、とても気に入りました」
吾郎は満面の笑みで言った。
坂本も微笑で応じ、書類を取り出してチェック済みのサインを求めた。
「問題がなければ、残金は2週間以内にお支払いください」
坂本の要求に、吾郎はにこやかに頷いた。
「ええ、もちろんです!」
だが、この残金を支払うことはないだろう。もうすぐこの世から「お金」という概念が消え去るのだから。
吾郎はソファに腰掛け、この完璧ともいえるセーフハウスを眺めた。 しかし、少し考えた末、彼はある非常に重要なものを見落としていたことに気が付いた。それは命の源である「水」だ。
「なぜこんな大切なものを忘れていたんだろう?」
氷に覆われる末世が訪れれば、外は寒さで凍りつき、氷を割って水を手に入れることもできるだろう。だが、外は常に摂氏マイナス60〜70度であり、外出することは危険を伴う。彼のセーフハウスにこのような致命的な欠陥があることは容認できなかった。
吾郎はすぐにオンラインで大型の水タンク100個を購入し、水を500立方メートル確保した。これだけあれば、数年間は持ちこたえられるだろう。さらに、倉庫からミネラルウォーターを大量に持ち出すこともできるので、これで飲用水問題は完璧に解決されるだろう。
オーダー数時間後、吾郎の自宅に水タンクが届けられた。またしても奇妙な品物を大量に買い込んだことに、近隣住民たちはあれこれと話題にしていた。
「加藤さん、また何か変なことしてるのか?」
「だよな、いつも奇妙なものばかり買い込んで」
「数日前も彼の家がリフォームしてたけど、10cmはあろう鋼板を運び込んでるのを見たよ」
「ふふっ、きっと映画みたいにセーフハウスを作ってるんじゃない?」
「そうかもね、海外の動画で見たことあるよ。金持ちが暇つぶしでやるアレだろ?完全に金の無駄遣いじゃないか」
「今度はあんなに水タンクを買い込んで、東京が水不足に陥るとでも思ってのか?あはは!」
周りの嘲笑を受けても、吾郎は反論する気などさらさらなかったが、心の中で冷笑していた、
「すべてが凍てつくの終末が来たとき、あんたたちがどれだけ愚かだったか思い知るだろう」
と心中で考えた。
吾郎はもう説明する意欲はなかった。彼らは吾郎をただの馬鹿だと決めつけ、真剣に話をしても聞こうとしないからだ。最悪の場合、社会不安を煽ったとして逮捕されることも考えられるだろう。
大谷が近所の老人と話していたが、彼は吾郎の元へと駆け寄ってきた。
「吾郎君、そんなにたくさんの水タンク、何に使うつもりだ?もし必要なら私も手伝うぞ」
大谷の親切に心から感謝し、彼を見つめた。大谷はプロのボディガードだった、子供もおらず、かつては依頼主を守る際に負傷し、十年以上も近くのマンションで警備員として働いていた。前世でも、彼は飢えに苦しむ母親に最後の食料を譲り、最後まで孝行息子である自分は餓死を遂げた。
吾郎が知る限り、終末の中で人間らしさを見せた数少ない人物であった。吾郎は大谷に教えた、
「大谷さん、今年は気温がかなり異常です。極秘の情報ですが、今年の冬はかなり厳しいと聞いています」
「念のために、食料や飲料水を多めに備蓄しておくといいですよ。物資が高騰してしまう前に」
大谷は日頃から吾郎とは親しい間柄だったため、その言葉に耳を傾けた。吾郎が真面目で親切な若者であることをよく知っていたが、人は年を取るといろいろと不安を感じやすくなるものだ。そのため、大谷は吾郎の言葉を聞いて眉をひそめた。
「吾郎君、本当にその情報は確かなのか?」
「これだけ準備をしているのを見れば分かるでしょう?カップ麺やミネラルウォーターならいくら買っても無駄にならないですから」
吾郎は頷いて言った。
その言葉に大谷は納得したようだ。彼は一人暮らしで、普段からカップ麺などのインスタント食品を好んで備品として保存していた。吾郎の警告もあり、空き時間に少し多めに買い足しておこうと決意した。たとえ、ただの安心材料だとしても、買い過ぎたところで困るものでもない。
大谷と話していると、近隣の老人が吾郎に向かって言った。
「加藤君、決してこういう話を周りに言いふらすんじゃないよ」
「今は平和な時代なんだ。物資が不足するわけがない。そんな話をするのは噂を広めてるも同然だ」
吾郎は少しに呆れて、冷ややかな視線を返したが、特に反論することもなく、その場を後にした。彼にできる助言は全て尽くしたのだ。
信じるか信じないかは彼ら次第だった。
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